百年文庫『巡』より。
しろあです。
私は文章修行、物語作りの修行の中でずいぶんと童話を読み研究しました。
そのためフェアリーテイル(おとぎ話)を下敷きにした作品というのは、ついつい「おっ」と反応してしまい、
さらにその作品の完成度が高ければ「むむっ」とうなってしまいます。
というのは、おとぎ話として伝わっている物語は、語り部の技量を別にすれば無駄なく完成されたものが伝わっているからです。
簡単にいえば物語の筋だけはきちんと伝わり、その話が何を言いたいのか、どこが面白いのかが分かるようになってる、ということです。
無駄を省いて。
そんなアスリート体質の物語ですので、それを下地にさらに素晴らしいと思える作品というのはなかなか稀有なのですね。
稀有なのですが、見つけました。しかも相当上質です。
人によれば座右の書として宝物にしたいと思う方もいるかもしれません(私もそんな気分です)。
ではコピペ。
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百年文庫『巡』より③
ノヴァーリスの『アトランティス物語』。
才色兼備の姫がいた。老王は姫に見合う王子を探すが、なかなかおめがねにかかる人物はいず、悩んでいた。
ある時姫は城を抜け出し森で遊んでいると、そこに住む平民の親子と出会う。
森に住んでおり、姫の顔をしらない親子だったが、紳士的にもてなし、どことなく品格を感じる親子に姫も好感を抱く。
帰り際、姫は宝石を落とし、翌日それを探すという口実でまた森に。
青年も森で宝石を見つけ、なんとか届けたいと思っていた。
再開を果たした姫と青年は恋に落ち、駆け落ちする。老王はいなくなった姫を思い嘆き悲しんだ。
1年後、王の元にある子連れの若い夫婦が現れる。青年は国の作法に倣い、詩にのせて自分たちの物語を伝える。
王は怒りを治め、青年を受け入れる。国は姫の帰還と新しい王の誕生に盛り上がるのだった。
痺れました。文章は叙事詩を語ってるようで固め。会話文は一切なし。
改行もほぼなく、ページをめくると真四角の文字の塊が目に飛び込んできて気持ちがいい!(個人差があります)
この国では道化よりも詩人が活躍しており、なにか祭りがあると詩人が登場します。
会話はないのですが、詩が途中挿入されます。それがまた素敵。見た目よりも読みやすく、素晴らしい翻訳でした。
作中では国名は語られていませんが、タイトルが伝える通り、アトランティスが舞台。.
物語はハッピーエンドですが、そこからやがて国が滅びる悲劇が待っていることが読者にはわかっており、
その悲劇性が独特の余韻を残します。
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ページを開くと文字がびっしり詰まっているので、それで読む気をなくす人もいるかもしれません。
ですが、読み始めれば決して難しくなく、さらさら読めます。言葉も綺麗。
会話文が一切ないというところが、語り部が叙事詩を語っている臨場感を高め、
物語の質をワンランク上質にしています。
物語が上質になるというのは、
ファミレスで食べるオムレツが、高級レストランで食べるオムレツになった感じです。
詩人が活躍する、何かあれば詩を歌い表現し伝えるという設定も素晴らしいですね。
森に住む若者は詩人としての才能があり、王に対して毅然と詩でもって姫との経緯を語ります。
私は詩を読んで感動することがあまりないんですけど、これは良かったですね。
(Youtubeで朗読してる割に、実はそうなんです。特に外国の詩はようわからん)
是非、一度手に取ってじっくり読んでいただきたいと思います。
もし映像化された作品があっても、それは無粋。
これは文学として味わうからいい作品
であることを最後に付け加えておきたいと思います。
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