コラム

夏と蝉と恋の関係|都々逸から「ことば」について考える

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ギラギラと照りつけるような暑さも和らぎ、外を歩けばヒグラシやニイニイゼミの鳴き声が。

夏の間しか生きられないと言われることの多いセミは、昔から日本人にとって馴染み深く、また恋と重ね合わされることの多い昆虫。
今日は、夏の代名詞:セミと、都々逸から「ことば」について考えてみたいと思います。

恋に生き恋に散るセミ

と書くととても詩的ですが、セミは羽化してからはとにかく子孫繁栄のために鳴き、命を燃やす昆虫。

地中での生活は非常に長く10年を超えることも珍しくありませんが、日の下に出てきてからは1週間〜1ヶ月ほどしか生きることができないことから、「セミ=儚い生き物」というイメージが定着しています。

最近ではセミファイナルなんて言葉も登場し、道端でひっくり返っているセミが果たして本当に死んでいるのか、死んでいると思って通りかかったらこちらに向かって飛んでくるのではというスリルと戦うのも風物詩の一つになりました。

瑛
セミに限らず、虫のお腹を見るとゾワッとするのはわたしだけでしょうか……足の付け根とか妙に怖いよね……。

セミがひっくり返って死ぬ理由

本題とは関係ないけれど、セミファイナルといえば道端でわたしたちと静かな戦いを繰り広げるセミたちはたいていひっくり返っています
路面に足を踏ん張ってこちらを睨んでいるセミとは未だに出会ったことがありませんが、虫たちがひっくり返ってしまうのは昆虫の重心が体の上部にあるからなんだとか。

瑛
つまり、虫たちにとってはひっくり返った状態が普通(楽)な姿勢ってこと!

人間だったら前へ進むのも起き上がるのも億劫になりそうな状況ですが、垂直な面に長時間しがみついていたり天井に張り付いたりできる強靭な手足を持つ虫たちにとっては、手足だけで体を支えるなんて簡単なこと。

とはいえ、老いて体力が落ちてきたり突風に煽られたりすると、地面にひっくり返ったままわたわたしてしまうので、皆さんがよく知るセミファイナルが出来上がるというわけです。

恋とセミと、それからホタル

さて、脱線しましたがここからが本題のセミと恋と言葉のお話

恋のために鳴き恋のために生きる姿から、昔から恋物語に登場することが多かったセミ。
彼らは、江戸時代末期に流行した七・七・七・五の音数律に従う定型詩=都々逸(どどいつ)にも登場します。

都々逸(どどいつ)
江戸末期、初代の都々逸坊扇歌によって大成された七・七・七・五の音数律に従う定型詩。
もとは三味線とともに歌われており、主に男女の恋愛模様が描かれる。

ーWikipedia「都々逸」より抜粋

瑛
都々逸は名古屋発祥だとか。有名な都々逸にはこんなのがあるよ!
三千世界の鴉を殺し 主と朝寝がしてみたい(高杉晋作)
立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花

「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」は美人の形容詞となっているけれど、もともとは生薬の効能を言い表したものだったとか。

笑点を例にすると、師匠たちの回答がとてもテンポ良く聞こえるのは(話術と笑いのセンスが抜群というのはもちろんだけど)この都々逸のように韻を踏んでいるから。

ちなみに、故・桂歌丸師匠はこんな都々逸をのこしています。

一度でいいから 見てみたい 女房がヘソクリ 隠すとこ

恋に焦がれて鳴く蝉よりも……?

恋に焦がれて鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす

セミとホタルのこの都々逸、実は故事ことわざ辞典にも載っているくらい有名な都々逸だったりします。

鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす

鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がすとは、口に出してあれこれ言う者より、口に出して言わない者のほうが、心の中では深く思っていることのたとえ。

蝉は鳴くが光らず、鳴くことのできない蛍は身を焦がさんばかりに光っているところから。単に「鳴かぬ蛍が身を焦がす」とも。

ー故事ことわざ辞典「鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」

瑛
不言実行の類義語、よりきれいで詩的な言い回しって感じだね!

目指せ「鳴かぬホタル」!

職場の同僚や先輩後輩、学校の友達の中には、あの人、口は達者だけど全然動かないな……?というセミ(セミさんには失礼だけど)がたくさんいてイライラしているという方は多いかもしれませんね。

真正面から受け止めてイライラしちゃうと心が夏バテ気味になってしまうけれど、心の中で江戸の都々逸を読みながら忙し辛しと鳴くセミじゃなく 鳴かぬホタルに おれはなる!!と思えばちょっとだけ心が軽くなるかもしれません*

夏の夜、お盆休み明けを憂える心を日本の粋で癒やしてみませんか*

それでは*

補足

記事を書くにあたって、実は狂歌もちらり調べてみました。

狂歌は五・七・五・七・七の音で構成される、社会を風刺したり皮肉ったりした短歌のこと。
サラリーマン川柳とちょっとだけ雰囲気が似てる(かも)。

心の中に溜まってしまうストレスやモヤモヤをテンポよく切り刻んでくれる狂歌をいくつかご紹介*

世の中は 左様で御座るごもっとも なにと御座るか然(しか)と存ぜず

「そのとおりです!」「なるほどたしかに!」「そういうことですか!」「はっきりとは知らないのですが……」が使いこなせれば怖い上司も何のその、社会や家庭の波も乗り越えれられるという処世術。

現代で言うなら流石ですね!」「知らなかったです!」「すごいですね!」「センスいいですね!」「そうなんですか!といったところでしょうか。

今までは 人のことだと 思ふたに 俺が死ぬとは こいつはたまらん

これ、なんと辞世の句なんです。化政文化における狂歌の中心:幕府官僚兼狂歌師だった四方赤良が死の間際に詠んだと言われる狂歌ですが、自分の死さえ前向きに受け止めるこの心意気すごい……! かっこいい!!

世の中に 寝るほど楽はなかりけり 憂世の馬鹿は起きて働く

できることなら一日中寝ていたい……!

いつまでもあると思うな親と金 無いと思うな運と災難
寝て待てど暮らせどさらに何ごとも無きこそ人の果報なりけれ

何事もなかった今日にも、感謝を!

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