タイトル「手配の男」(ショートショート) | 記憶の欠片(ピース)

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病気がちで、甲斐性のないおっさんのブログ。
小説・ショートショートを書いていましたが、気力が失せたため、思い付きでいろんなことを書いています。

いらっしゃいませ。ありがとう。(・ω・)/

 

 

 

タイトル「手配の男」



 どう考えても成功するようには思えなくても、追い込まれると、人はむだなことでもする。この「路線バス乗っ取り」もそういう事件だった。
 よく晴れた穏やかな午後の日。ある路線バスに拳銃を持った男が乗り込んできて、若い女性を一人、左腕で首を締め上げて人質にし、運転手に「オレの言うとおりに走れ」と命じたという。
 事件が発生して5分とたたないうちにバスは警察の車両に囲まれて国道のど真ん中で止められた。なぜそんなに早く警察が事件を察知して動き出したのかは、乗客の誰も知らなかったが、犯人の若い男だけは、この事態に「怒り狂って」いた。
「なんだこりゃ!どうしてこんなに早く警察が来たんだ!お前ら誰か通報したな?!」
 若い男は、バス運転席の後ろの席に女性を抱え込んだまま寄りかかるようにしてバス内の乗客たちに怒鳴り散らした。
「誰だ!誰が通報しやがった。そうでなけりゃ、こんなに早く、しかもあんなに大勢の警官が集まってくるわけがねえ!」
 犯人が驚くほどに、確かに大勢の警官がバスを取り巻いていた。それに、重装備の警官隊もいたし、どうも狙撃手も何人か待機しているようだった。こうなってしまっては、犯人が「自分の要求を遂げる」には、相当な覚悟が必要だろう。
 事態がこうなって、若い男は「極度の興奮状態」になっていた。おそらく、最初からそれほど綿密な計画を立ててこの「バスジャック」を実行したわけでは無いのだろう。あっという間に警察に露見した上に取り囲まれて、運転手に行き先を告げる前に動け無くされてしまったのだ。どうも、あまり興奮して収拾がつかなくなると見たら、日本の警察といえども「犯人の狙撃」や「強行突入」の指示がすぐにでも出るかも知れない。いや、すでにもうでているのだろか。
 そこで、犯人は一計を案じ、
「そこのお前と、お前。それからお前。前に来て、オレの周りで壁になれ」
 興奮してよだれを垂らさんばかりの話しぶりでそういった。自分の周りに乗客を立たせて盾にしようというのである。そんなこと誰もしたくないので、すぐには従わず、もたもたしている乗客を見て、
『パァーン』
 男はバスの天井に向かって拳銃を一発発射して、弾が貫通して小さな穴が空いた。男が持っているのは、よくニュースに出てくる、東欧製の自動拳銃のようであった。この事で、バスの中は悲鳴とどよめきが渦巻き、環視の警官たちは静まりかえった。一番生きた心地がしなかったのは、人質にされている女性だろう。もう、腰が抜けて自力で立っていることもできず、犯人に抱えられてやっと立っているような状態だった。
「ああ、あんたの周りに立つから、やるから大丈夫」
 犯人の席の後ろに座っていた30半ばぐらいの男が、犯人をなだめるようにそういった。
「早く。早くしろ!」
 指名されたのは男ばかり3人で、犯人に背を向けて1メートルくらい距離を取って犯人を囲むように立った。これに運転手も加えて4人の男が犯人の盾になった。
 こうなると、警察もすぐには手が出せない。人質を盾にしている上、拳銃もホンモノ。しかも実際に発砲して「実績」を得てしまい、次は気後れも失敗も無く撃てる保証がついてしまった。そこで、警察は「突入」を決意していた。もう、最初の「要求を聞く」という段階で、隙を見て犯人確保。実際には、最初から射殺もやむなしの計画を立てていた。


 何も無い時間が過ぎて、夕暮れが迫ってきた。警察の呼びかけで「話し合い」をするための人間がバスに近づいた。「丸腰」をアピールした警察側の男が一人、両手を挙げたままバスの前側扉のほうへゆっくり歩み寄ってきた。犯人始め、みんなその男を静に注視していたが、それとは逆の後ろ側、外で、何か金属の棒のようなモノが転がる、
『カラ~ン』という音が響いた。皆が緊張の中、警察側の代表者が近づくのを息を詰めてみていたときだけに、その乾いた音がひどく間抜けでわざとらしく聞こえた。
「なんだ、今の音はぁ!?」
 そう思ったのは、犯人だけではあるまい。そして、警察や人質の頭に中に「何かの失敗」ということばが思い浮かんだ。
「なんだチキショー、騙したな!」
 もともと興奮していた犯人の若い男は、これで具体的に「何がどうした・どう騙されたか」なんて関係なく、もう「キレてしまった」。
「クッソォー、もうシマイだぁー!」
 どういう意味かはわからないが、若い男は、そう絶叫して拳銃を持った右手をグイっと張ると、左腕で抱えていた女性の右のこめかみに銃口を突きつけようとした。


 おそらく、誰も予想していない、もっとも意外な事態が起きた。
 犯人の後ろ側で背を向け「盾」をやっていた30半ばぐらいの男が、紺色のジャンパーの懐からリボルバーを抜き出して、左に振り向きざま、若い男に向かって発砲したのである。銃声は二発。男の背中と頭に一発ずつ命中した。
 これを切っ掛けに警察の突入班がバスになだれ込んできた。犯人の若い男に発砲した男は、すぐさま拳銃を床に投げ出して手のひらを前に向けて少し肘を張った格好で両手を挙げていたため、警官に撃たれること無く確保された。撃たれたバスジャックの犯人は、もう手の施しようが無かっただろうが、すぐさま救急車に乗せられて、走り去った。


 バスジャック犯を撃った男は、両脇を警官に抱えられて警察車両に押し込まれた。
「あの人は、命の恩人だ。あんな風にしなくても……」
 撃ったこの男が誰であるか乗客の誰も知らなかったが、多くの人が、少なくとも人質の女性は彼が救ったと思っただろう。「ヒーロー」だと。そのため、「撃った男」の扱いについて警察の人間に抗議する者もいた。すると、そこにいた警察の指揮官は苦笑いをして、
「われわれがいち早く乗っ取られたバスを制止したのは、バスジャックの犯人を撃った男を追っていたからなのです。あの男は、昨日、ある家に仲間と二人で強盗に入りました。そこで、抵抗した住人を撃った仲間を、あの男は射殺したのです。……それ以上のことは、わかりません。これからあの男に聞きます。もう一度言いますが、われわれは、あの強盗をして仲間を殺して逃げている男を追ってバスを追っていたのです。あの若いバスジャック男のために集まったわけではありません。若い男がなぜバスを乗っ取ったのかはわかっていません。あの撃った男と仲間だったのか、無関係だったのか、それも今はわかりません」



おわり

 

 

 

あとがきにかえて

むかーし。こんなはなしを映画で見たわ…。

 

近況

眠くなる薬を飲んでいるので、一日がとても眠いです。

でも、気分は少しよくなりました。

最近は、みなさんのブログをあまり見ていません。

ほとんど寝ています。