「リョウコさん。結婚してください」
男はリョウコの前で片膝を突いて、彼女に小さな箱の蓋を開けて差しだした。
「セイジさん。わたしに正式に結婚を申し込まれるのですね?」
「は、はい。正式に、です。結婚してください!」
セイジは片膝突いたままの姿勢でもう一度、手に持った箱を差し出したがリョウコは受け取る素振りも見せず、自分のバッグを開け、
「それでは、こちらの申込書に必要事項を記入してください」
リョウコはバッグから出した紙を逆に彼に差しだした。その紙には、
『結婚申込書 ご自身の隠しごとを3つまで記入してください』と書いてある。
それを読んだセイジは少し困惑したような顔をしたが、
「ぼ、僕はリョウコさんに隠しごとやヒミツなどひとつもありません!」
「そうなの?それじゃあなたのことをもう全てわたしは知ってしまったの?じゃあつまらないわ、お付き合いはこれで終わりにしましょう」
もし申込書の指示通りに3つの隠しごとを書いたら、どうなっていたのでしょうね?
いえ。3つ書いたらきっとその上にもっと大きな隠しごとがひとつかふたつ、まだあったでしょうから。