【民法改正講座】新設された配偶者居住権についてポイントをまとめてみました

司法書士のタケさん(@takesanblog)です。

以前の記事に書いていますが、民法改正により債権法と相続法の内容が変わり、法律専門職や法律系資格の受験生は勉強を余儀なくされています。

120年ぶりの債権法の改正の陰に埋もれていますが、相続法も改正されていることは特に受験生にとっては頭の痛いことですね。

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タケさん

一気にたくさん法律が改正されて勉強が大変ですよね。

そこで今回は相続法の中でも私たち司法書士に関係のある

『配偶者居住権・配偶者短期居住権』

についてのポイントをまとめていきたいと思います。

メモ

配偶者居住権・配偶者短期居住権の制度は2020年4月1日から施行されます。

配偶者居住権(新民法 第1028条)

なぜ「配偶者居住権」が新たに定められたのか。

一言でいうと、それは生存配偶者の建物の居住利益を保護するためです。

被相続人の遺産を分割する際に、配偶者が不動産を取得して被相続人の死後もその建物に住み続けるというケースはこれまでも多くありました。

しかし不動産を相続することによって、その他の財産つまり預貯金の確保が難しくなってしまいます。

例で考えてみましょう。

被相続人Aの財産として、不動産の価値が1000万円、預貯金が1400万円とします。相続人は配偶者のB、子のCの2人です。

配偶者Bが不動産の全部を相続することにした場合、Bは預貯金を200万円しか相続できなくなってしまいます。子のCは1200万円の現金を相続します。

  • 配偶者B→不動産と預貯金200万円
  • 子C →預貯金1200万円

配偶者Bは生活する家を手に入れられましたが、生活資金の確保ができなくなってしまいます

では、配偶者が「配偶者居住権」を取得した場合はどうなるでしょうか?

子のCに不動産を相続させ所有者となってもらい、配偶者Bは建物に住み続けることができるようになります。そしてBは預貯金を1200万円を相続できますから、生活資金の確保もできるようになります

  • 配偶者B→預貯金1200万円と建物に居住する権利
  • 子C →不動産と預貯金200万円

このように、配偶者居住権は「建物の所有と使用収益の分離」が特徴となっています

配偶者居住権はいつまで効力があるか?

配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする(民法第1030条)。つまり、配偶者が亡くなるまで有効となります。建物を相続した者にとってはかなり重い負担となります。

どのように定められるか

配偶者居住権を取得するための必要な要件として、

『相続開始時に、被相続人所有の建物に居住している』ことが必要です(民法1028条1項)。

上記の要件に加えて、

  • 相続人たちの遺産分割によって配偶者所有権を取得させる
  • 被相続人の遺贈によって配偶者所有権を取得させる

という意思表示が必要となります。

比較:配偶者短期居住権の場合

配偶者居住権は相続人または被相続人が意思表示することによって選ぶことのできる権利であることに対し、配偶者短期居住権は一定の要件があることにより被相続人の意思に反しても権利が生じるという違いがあります。

何ができるのか

従前に居住していた『建物全部』の『使用収益』ができます(民法第1028条1項)。

比較:配偶者短期居住権の場合

配偶者居住権は使用していた「建物全部」を対象としますが、配偶者短期居住権は従前に建物の一部を無償で使用していた場合、その「一部のみ」が対象となります(民法第1037条1項かっこ書き)。

配偶者居住権は「使用収益」ができますが、配偶者短期居住権は「使用のみ」できます。

さらに、配偶者居住権の特徴として『登記することができる』という点を挙げられるでしょう(民法第1031条1項)。つまり、配偶者居住権の取得者には登記請求権があるということです。

登記を備えることによって、第三者に対抗することができます(民法第1031条2項)。

比較:配偶者短期居住権の場合

配偶者短期居住権は『登記することはできません』。

譲渡できるか?

配偶者居住権は譲渡することができません(民法第1032条2項)。

増築または改築ができるか?

建物所有者の承諾がなければ改築、増築をすることはできません(民法第1032条3項)。

第三者に使用収益させることができるか?

建物所有者の承諾がなければ第三者に使用収益させることはできません(民法第1032条3項)。

比較:配偶者短期居住権の場合

類似の規定があります。建物所有者の承諾がなければ、第三者に使用させることはできません(民法第1038条2項)。

配偶者居住権の取得者の義務

配偶者居住権の取得者は「善管注意義務」を負います(民法第1032条1項)。もし、この義務に違反したり同条3項に違反したりした場合で、是正の催告に従わないなら、配偶者居住権を消滅させることができる(民法第1032条4項)。

また、配偶者短期居住権にも類似の規定があります。善管注意義務に違反したり、居住建物を無断で第三者に使用させたりしたときは、配偶者居住権を消滅させることができる(民法第1038条3項)。是正の催告がないことが違いです。

配偶者短期居住権(新民法 第1037条)

配偶者短期居住権とは、相続開始時に生存配偶者が建物に無償で居住していた場合に、一定期間だけ生存配偶者に建物を無償で使用させる権利です。

相続人たちや被相続人の意思に関係なく、当然に発生する権利であることに特徴があります。それゆえに、配偶者居住権よりも保護は最低限のものに抑えられている印象です。

いつまで生存配偶者は建物に居住する権利があるか。

  • 配偶者を含む共同相続人で遺産分割をする場合 遺産分割によって居住建物の帰属が確定した日または相続開始から6ヶ月経過する日のいずれか遅い日(民法第1037条1項1号)
  • 上記以外の場合 配偶者短期居住権の消滅を申し入れてから6ヶ月を経過する日(民法第1037条1項2号)

その他の要点は配偶者居住権の部分と比較して勉強すると覚えやすいでしょう。

最後に、配偶者居住権と配偶者短期居住権の主な論点の比較を表にしました。

  配偶者居住権 配偶者短期居住権
建物の使用・収益 使用・収益可 使用のみ可、収益は不可
対価 無償 無償
登記 できる できない
主張できる権利 建物の全部 利用していた部分のみ
効力期間 終身 期限あり

タケさん(@takesanblog)でした。

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