首里城の聖域構造 見られるのは今だけ!

グスクとは元来、山の聖地のことです。
グスク時代(10~16世紀頃)、神格化された各地の按司(支配者)がグスク=聖山に城を築き、君臨しました。
按司の居城となってなお山の聖性が失われなかったことが、グスクの大きな特徴です。

琉球最大にして、唯一最後まで支配者の城であり続けた首里城も例外ではありません。
文献には、首里城内に10ヶ所の御嶽があったことが記されています。
これを首里城の「十嶽」(とたけ)と呼びます。

1:あがるい嶽押明森の御いべ
2:みもの内のかわるめの御いべ
3:まもの内うちあがりの御いべ
4:寄内のみやがもりの御いべ
5:寄内のかみぢやなみやでらの御いべ
6:真玉城の玉のみやの御いべ
7:京の内しきやぢしきやだけの御いべ
8:京の内のそのいたじきの御いべ
9:京の内のあがるいの御いべ
10:京の内の前の御みや首里の御いべ

以上が十嶽の神名です。
首里城に足を運べば、十嶽の大体の位置が確認できますが、
そもそもなぜそこが御嶽になったのか?
説明できる人はほとんどいないでしょう。

実は、首里城の御嶽は、山岳信仰の構造に忠実に位置付けられています。

ポイントは以下の2点。
首里城は山の聖地である
山の聖地は頂部が最も神聖視される
これを念頭に首里城の聖域構造を解説します。

首里城の聖域構造 見られるのは今だけ!

まずは首里城の空中写真。
国土地理院の「地理院地図(電子国土Web)」から拝借しました。

首里城はサンゴ礁由来の石灰岩丘陵上に築かれています。
丘陵の高低を分かりやすくすると、こうなります。

首里城の聖域構造 見られるのは今だけ!

これも出典は「地理院地図(電子国土Web)」です。

首里城は南側が高く、北になだらかに低くなっていきます。
南側の城壁外は急峻な崖になっていますが、これは石灰岩断層です。

石灰岩断層の特徴の一つは、石灰岩がノコギリの歯のようにギザギザしながら尾根を形成することです。
首里断層の尾根をで示したのが下図です。

首里城の聖域構造 見られるのは今だけ!

空中写真に合わせると、

首里城の聖域構造 見られるのは今だけ!

こうなります。

ノコギリの歯のように凹凸を繰り返しながら尾根が東西に延びている訳ですが、
首里城内に3つの頂部(凸部)が存在します。

首里城の聖域構造 見られるのは今だけ!

ピンクで示した部分が頂部です。
仮に、西からA・B・Cとしました。

首里城内には「京の内」と「寄内(よせうち)」という聖域空間があります。
その区域は、下図のようになります。

首里城の聖域構造 見られるのは今だけ!

京の内は、頂部Aも含みます。
寄内は頂部Cの崖下になります。

京の内と寄内はなぜこの位置なのか?

一般的な山岳信仰の聖山は、最も神聖視される頂部を中心に、中腹から麓までの一帯が聖域とみなされます。
京の内は頂部Aを中心とした一帯。
寄内は頂部Cを中心として形成された聖域であると言えるでしょう。

さて、問題の十嶽をこの中に落とし込むと、下図のようになります。

首里城の聖域構造 見られるのは今だけ!

頂部A・B・Cには、それぞれ6・2・3の御嶽が位置しています。
7・8・9は頂部Aを中心とした聖域、京の内の中に。
4・5は正確な位置は分かりませんが、頂部Cを中心とした聖域、寄内の中にあります。

1は断層の尾根に近接する御嶽で、岩が拝まれています。
山中の岩が信仰対象になるのも、山岳信仰の特徴です。

首里城の聖域構造 見られるのは今だけ!
1:あがるい嶽押明森の御いべ

10は京の内との関連する御嶽です。
頂部Aを拝む向きに設けられています。
発掘調査で、ここでも岩が拝まれていたことが明らかになっています。

首里城の聖域構造 見られるのは今だけ!
10:京の内の前の御みや首里の御いべ

さらに、「番外」として、首里城と同一の尾根上に、国中グスク御嶽が位置しています。


以上のように、首里城の御嶽・聖域はすべて、東西に連なる石灰岩断層の尾根と複数の頂部に対する信仰によって位置付けられています。
(首里城が特別な訳ではなく、ほとんどすべてのグスクが同様の構造になっています)

首里城の聖域構造を肌で感じたいのなら、今が最後のチャンスです。

首里城の聖域構造 見られるのは今だけ!

この画像は、頂部Cから頂部A方面を臨んだものです。
これに御嶽・聖域を加筆するとこうなります。

首里城の聖域構造 見られるのは今だけ!

現在、首里城は急ピッチで再建が進んでいます。
建造物が建ってしまえば、首里城の土台である自然地形はほとんど分からなくなってしまいます。
地形から見る首里城の聖域構造を目で見て体感できる機会は、今後、恐らくないでしょう。
興味のある方は、再建が進む前に是非、首里城に足をお運びください。
今がラストチャンスですよ!



お城・史跡ランキング





同じカテゴリー(たけぞう視点のグスク巡り)の記事

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。