テクニカル分析の迷信――行動ファイナンスと統計学を活用した科学的アプローチ

テクニカル分析を使って今日の市場をしっかり見極めたいと思うのならば、まずは これまでテクニカル分析の世界を支配してきた主観的で自己解釈的な伝統的手法を捨 て、科学的および統計学的に有効なアプローチを受け入れることである。客観的観察 と統計的推論に基づく科学的なテクニカル分析はあなたのトレーディングを成功へと 導く新しいテクニカル分析手法である。

ガツン!と衝撃を受けた一冊です。

とは言っても、トレードで勝てる手法やテクニックが書かれているわけではありません。むしろタイトルを見ればテクニカル分析を否定した本のように感じられないでしょうか?

個人的にはタイトルが紛らわしいと思うのですが『テクニカル分析の迷信』では、正しいテクニカル分析の使い方について、その根拠から論理的に、科学的に解説した至高の一冊です。

この本で一貫して主張してあるのは「テクニカル分析は客観的に使われなくてはいけない」です。

客観的とは「裁量が一切入らない」と言い換えても良いでしょう。

裁量が入らなければ、定量的に相場を分析することができますので、統計を出しやすく、本当に勝てるかどうかを確認しやすいんですね。

裁量が入ると相場のランダム性のおかげで本当に優位性が無いやり方でも優位性があるように見えてしまう危険があると本書では忠告しています。

それではレビューしていきます。

主観的テクニカル分析と客観的テクニカル分析

本書ではテクニカル分析手法を「主観的テクニカル分析」と「客観的テクニカル分析」に分けています。

まずはこの2つについて解説します。

主観的テクニカル分析

主観的テクニカル分析とは、トレーダーの主観で分析するやり方です。
例としては以下のようなものがあります。

  • 水平線
  • トレンドライン
  • ダウ理論
  • チャートパターン
  • エリオット波動
  • フィボナッチ

昔からあるテクニカル分析方法はどれも主観的に分類されます。

トレーダーの主観が入るということは、どうしても再現性が無くなります。
すると「科学的に」テクニカル分析が行えず、結果としてそのやり方に優位性があるのかどうかを確認できません。

このような理由で本書では主観的テクニカル分析を否定しています。

アマギ
特にエリオット波動は全否定しています。

 

客観的テクニカル分析

客観的テクニカル分析は、無裁量で主観が一切入らない手法のことを言います。

簡単に言えばシステムです。

システムであれば、過去の相場の値動きを利用して本当に勝てるかどうかをバックテストして確認することが出来ます。

もちろんカーブフィッティングやデータマイニングバイアスなどのリスクもありますが、少なくとも「反証」可能ですので、主観的テクニカル分析より次元が上だ、というのが本書の主張です。

なぜ客観的テクニカル分析なのか?

筆者が「客観的テクニカル分析が優れている」と主張する一番の理由は「反証可能か否か?」にあります。

「反証」とは、それが真実ではない・間違いであることを立証することです。

例えば移動平均線のクロスオーバーシステムを考えてみてください。

移動平均線がゴールデンクロスしたらロング、デッドクロスしたらドテンのショートをするシステムです。

このシステムが「トータルで勝つことはできない=予測能力を持たない」ということを立証するためにはどうすればいいでしょうか?

答えは簡単、システムを作ってバックテストをして、トータルではマイナスになっていることを示せばいいのです。

もしトータルでマイナスになっていなければ、このシステムは予測能力を持つと結論付けられます。

 

ではエリオット波動について考えてみて下さい。

エリオット波動が「予測能力を持たない」ということを立証するためにはどうしたらいいですか?

これを立証するためには、エリオット波動を詳しく定義してバックテストしなくてはいけません。しかし、そんなことできませんよね?なぜなら、人によってエリオット波動の波の捉え方は全然違うからです。

しかも場合によっては波を修正することもあります。
本書では、エリオット波動について「データから理論を導き出したわけではなく、理論をデータに合わせただけだから、過去のデータにぴったりフィットする」と言っています。

つまり、エリオット波動は「反証」が出来ないテクニカル分析なのです。
これと同じく、トレーダーの主観が入るチャートパターンなども反証することができません。とあるパターンを厳密に定義したら、実は優位性は無かった・・・という検証データもあります。

アマギ
一般的に「勝てる」と言われるやり方も、詳しく定義して検証すると全く優位性が無かった・・・という話、よく聞きます。そんなやり方でも、Youtubeの動画やブログ等で「勝てる手法」として紹介してあったりするんですよね。

 

定義や定理が間違っている場合、それをしっかりと「反証」できることが科学です。
反証できないものは科学とは言えないのです。

ちなみに本書では客観的テクニカル分析を天文学、主観的テクニカル分析を占星術に例えています。

反証のしようのない占星術は単に占いというエンタメに落ち着きました。
しっかりと反証できる天文学は、時代の流れとともに進化を続け、地球外の状況を知ることができる「自然科学」として確立されているのです。

テクニカル分析を科学として使うか、アートとして使うか

くどいようですが、本書ではテクニカル分析は「科学」として使わなくてはいけない!と主張しています。

その一方で、テクニカル分析は「アート」的な一面を持っていると主張する人もいるでしょう。チャートはあくまでも相場の状況を読むものであって、読み手の主観というフィルターを通して何が悪いの?という考えです。

私も裁量トレーダーですので、アート的解釈方法にも同意します。
しかし、アート的な解釈の範囲が大きければ大きいほど裁量の幅が広くなり、結果として反証できないファンタジー理論が生まれることになります。

この本を初めて読んだときに、「科学的なテクニカル分析をベースとしなくてはいけない!」と熱く感じたことを今でも覚えています。それが今の裁量の入らないラインの引き方とトレード手法に繋がっています。

アマギ
私はシステムトレーダーにはなりませんでしたが、この本は私の今のトレード手法に大きな大きな影響を与えています。

 

初心者には難しいがぜひ読んでもらいたい

テクニカル分析の迷信は、高額で、分厚くて、中身も固い本です。
読むのにも時間がかかりますし、予備知識のない人は何回も読まないと理解できないかもしれません。

しかし、1000円ちょっとで売られている全く優位性の無いテクニカル解説書を読むよりも1000倍勉強になります。

余計な幻想を抱いて失敗しないためにも、この本を読むことをお勧めします。

アマギ
テクニカル分析をどう使うかを考えるためにぜひ読んでください。

アマゾンレビューのレビュー

投資における科学的方法について学べる良書

投資本というよりは科学哲学書として取り扱ったほうが良いレベルの本。哲学者のカールポパーの仮説演繹法を適用してテクニカル分析を取り扱うことで、テクニカル分析の正しい科学的アプローチが学べる。

 

アマギ

この本には、なぜ手法が機能するのか?といった疑問にも答えてくれています。

市場参加者の真理を読み解く一冊としても勉強になりますね。

 

行動ファイナンス理論に基づいたテクニカル分析

邦題はミスリーディングで、原題は証拠に基づいたテクニカル分析。
科学哲学や認知が科学の解説に半分が割かれているが、少し冗長である。学術書のような書籍ではあるが、科学的テクニカル分析を学ぶのには最良の書籍

 

アマギ

手法の解説が簡潔かつ明瞭で客観性のあるものばかりなので、応用すればシストレに活かすことも出来ますね。

 

個人的には、「裁量」の部分を極力排除する形で手法を解説しているからこそ、この本は人気が高いんだと思います。

 

宝のような一冊

システムトレードを好むような人には宝のような一冊になるだろう。
厳密な統計的推論と、それを反証するために検証することが重要である、というのが一つの主張だ。

 

アマギ

解説してある手法の数は本当に多いですからね。どれか一つでも徹底的に検証して、エッジを磨いてやれば勝ち続けられる手法になりそうです。

まぁ全部FXで使える手法かと言われたらそうでもないんですがwww。

 

初心者のうちに読んでおいたほうが良い

この本を読むと、一般的に機能すると言われているチャートパターンが全くの無意味であることが分かる。チャートの読み方が無駄だったと足元がグラグラした不安を感じる。

 

アマギ

特にエリオット波動を真面目に勉強している人にとっては膝が崩れ落ちるくらいショックを受けるでしょうね。

まぁエリオット波動を使っている人で勝っている人の方が稀なので、他の手法に切り替えても良いんじゃないでしょうか。

 

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