あれほど切実だった想いが
きれいに抜け落ちてしまったと気付いた時、
もう限界だと感じて、
僕は、会社を辞めた。
これは新海誠のアニメ作品「秒速5センチメートル」のラスト近くでの、主人公、遠野貴樹の述回だ。そして貴樹は雪の降りしきる街を彷徨よい、物語は終わる。遠野貴樹がその後どんな人生を送ったのかは知る由もない。
切実だった想いが抜け落ちた後も、僕は仕事を辞めることもなく、結婚して家庭を持った。そして娘が今ひきこもっている。様々な不運が重なって娘がそうなったにせよ、その一端は僕にあると感じていた。
娘に、何を望むかという僕の問いに、「手向けを」と、ただそれだけを娘は答えた。僕はもう、随分前から了解している。娘のいう「手向け」こそ、僕の「きれいに抜け落ちてしまった切実な想い」だということを。
僕は、娘のひきこもりをどうこうしようとは思っていない。あと4日で定年だが、振り返って、仕事については何の感慨もない。人生の勲章となるような大きな業績があっても、やはり、「きれいに抜け落ちてしまったもの」を埋めることはできなかった。それでも、あらためて生きてみようと思う。それを娘への「手向け」と思ったらいけない。そう思った瞬間にそれは萎れた花になる。あくまでも僕が生きることなのだ。
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