西部劇のようなお話
スピード感あふれる、痛快な西部劇の映画をみているような絵本です。
読み聞かせ目安 高学年 15分
あらすじ
西部のサボテン州に、キャリコという馬がいました。
頭が良くて、足の速さはとびきり!!鼻も良くきく馬でした。
キャリコは、カウボーイハンクの馬。赤ちゃんの時、おおかみの群れから助けられ、キャリコはその恩をずっと忘れず、ハンクと仲良く暮らしていました。
サボテン州の人々は、平和にのんびり暮らしていましたが、その先は悪土地帯!悪漢どもの隠れ場所でした。
ある日のこと。すごみやスチンカー率いる悪土地帯の悪漢どもが、サボテン州にやってきて、牧場から牛の群れを盗み出しました。
サボテン州の人々は、すぐにスチンカーどもの仕業とわかり、捕まえることに!
キャリコは、あることにピンとひらめき、スチンカーの足跡を嗅ぎだしました。
そして、体に泥をいっぱい擦り付けて、スチンカーのどろずみ馬に化け、すごみやスチンカーを乗せて走りだします!
キャリコは、火花がはじけるように走って、あっという間にハンクのもとへ。
スチンカーをサボテン畑のなかに放り投げ、すごみやスチンカーは、サボテンの棘だらけ!!
ハンクとキャリコは、賞金をもらいました。
キャリコはハンクに、その賞金で、サボテン州の子どもたちの、クリスマス会を開こうと提案します。
一方、囚われの身のスチンカーは、床を掘ってまんまと脱出!!悪土地帯へ逃げました。
でも・・・キャリコはすぐにスチンカーの跡を嗅ぎつけ隠れ家へ。盗まれた牛たちまでも見つけます。
はたまた一方、悪漢どもは、サボテン州のクリスマスのプレゼントを積んだ馬車を、峠で待ち伏せ。
ドン!パン!ビューン!
鉄砲で脅して、馬車を奪います!!
でもその時!キャリコを先頭に、牛の群れが大暴走してやってきました!!
「にげろ、はやく!馬車にのれ!さもないとふみつぶされるぞ!」
すごみやスチンカーは叫びます。
スチンカーは、馬車を駆り、その後をキャリコと牛たちの大暴走が、追っていきます!!
馬車とキャリコと牛たちの競争は、どんどん速くなり・・・、とうとう馬車が崖から転落‼
悪漢どもは、馬車ごと囚われました。
サボテン州の学校では、クリスマスのお祭りの準備が整い、サボテン州のありとあらゆる人々が招待されました。
その中には、さっき囚われたばかりの、悪漢どもの姿も。
悪土地帯の悪漢どもは、馬車のプレゼントを子どもたちに配るお手伝い。
悪漢どもは、自分たちのしたことが恥ずかしくなり、すごみやスチンカーは、あまりの切なさに、おいおい泣きました。
その後は、みんなで楽しくクリスマスのお祭りを楽しみ、悪漢たちは心を入れ替えると誓いました。
サボテン州は、また平和になりました。
読んでみて・・・
西部劇の映画をみているような、スピード感あふれる痛快な絵本です。
表紙は、鮮やかな黄色。白地に黒で、キャリコとすごみやスチンカーがサボテンを間にして立っています。後ろには、画面を縁取るように牛の群れがずらり!大きめのちょっとクラシカルなフォントで 『名馬キャリコ』の題字。
まるで、映画のタイトルシーンのようです!
表紙見返しには、全ページの絵が、縮小されてずらりと並べられているのですが、モノクロのコマ割りがずらりと並ぶさまは、まるで映画のフィルムを伸べたよう!
続くタイトルページも、サボテンを左右に、善玉キャリコと悪玉スチンカーが、タイトル画の両脇から顔を出しているようすが、まるで舞台のカーテンを左右に、映画のスクリーンを覗き込んでいるような構図になっていて、映画がはじまる前のワクワクした感じがしてきます。
お話がはじまると、まずは主人公キャリコの紹介。
見目麗しい・・・、というわけではありませんが、めっぽう頭が切れ、とびきり足
が速く、鼻の利く優れた馬。カウボーイのハンクと仲良く暮らしています。
キャリコとハンクの、クローズアップの紹介のあとは、サボテン州の紹介。
今度は遠景で、平和でのんびりとしたサボテン州で、たくさんの牛の群れを追うカウボーイや、山間を砂煙あげて走る駅馬車が、横長の画面いっぱいに描かれていきます。
このあとも、近景と遠景がリズミカルに、場面展開に合わせて使い分けられていき、まさに映画のよう‼
そのあとの、悪漢どもの紹介シーンも、「すごみやスチンカー」はじめ「ばらしやボーンズ」「へびの目パイゾン」「はげたかベイツ」「ちびスカンクのスキーター」など、ユーモアあふれる命名のキャラクターたちが、表情豊かに描かれていきます。
名馬キャリコは、まさに「名馬」‼
英雄、スーパーマンのようなすごい馬です。
スチンカー一味を、すぐに突き止め、捕まえて、いったん逃げられても、へっちゃら。
すぐまた、嗅ぎだし、盗まれた牛たちまで見つけ出してしまいます。
クリスマスプレゼントを積んだ馬車を奪った悪漢どもと、キャリコに乗ったハンク、あとに続く牛たちの群れの、大捕物はもう圧巻‼
いまにも転げ落ちそうな狭い崖路を、砂煙あげての大暴走です‼
絵は、バージニア・リー・バートン特有の、ちょっと様式化された絵で、写実的ではないのですが、砂煙が雲のような形をして、ポンポンつづくさまや、勢いのある線の動きが、スピード感あふれる場面展開を、臨場感満点で伝えてくれます。
馬や牛たちの足音の轟や、悪漢どもの放つ銃の音まで聞こえてきそうです。
絵はすべてモノクロですが、7~8ページずつ、台紙がモスグリーン→オレンジ→ピンク→薄紅→ペールグリーンなどなどに変わっていき、お話の展開を陰で支えているようです。
瀬田貞二訳のテクストも、歯切れが良く、まるで無声映画の活弁のようです。
読み聞かせをするときは、ちょっと長い絵本ですが、ぜひ、よくよく練習して、噛むことなく、勢い落とさず、活弁士のように読んでみたいものです(なかなか難しそうですが・・・)。
お話は、勧善懲悪。単純明快なものですが、エネルギッシュでダイナミックな活劇のおもしろさを、心を解放して楽しめる絵本になっていると思います。
クリスマス時期の絵本としては、ちょっと毛色が違いますが、ときにはこんな愉快痛快で勢いのある、西部劇のような絵本を読むのも、おもしろいものだなと思いました。
スピード感と迫力に満ちていながら、暖かなユーモアもあふれる、心底楽しい絵本です。
今回ご紹介した絵本は『名馬キャリコ』
1979.11.19 岩波書店 でした。
名馬キャリコ | ||||
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