厳しさと暖かさ、そしてユーモア
バラライカに魅せられたねずみの旅と家族の幸せの物語。
読み聞かせ目安 中学年 10分
あらすじ
ヨーロッパの中ほどの田舎。冬は厳しく、雪深いところにある宿屋に、 ねずみのトラブ一家が住んでいました。
トラブ家の息子トラブロフは、宿屋の酒場にくる楽士たちの音楽が大好き。寝るのも忘れて聞き惚れるほどでした。
あるとき、大工ねずみのナバコフじいさんが、音楽好きなトラブロフに、バラライカを作ってくれました。
トラブロフは大喜び!
バラライカの名人になって、オーケストラで大活躍する夢をみていました。
ある晩のこと。トラブロフがバラライカの練習をしていると、酒場にきていたバラライカ弾きのジプシーじいさんに声をかけられます。
じいさんは、トラブロフにバラライカを教えてやりたいが、残念なことに明日にはもう旅立つというのです。
トラブロフは、バラライカを手にジプシーのそりに潜り込みました。
ジプシーじいさんは、トラブロフに気づくとびっくりしましたが、約束どおりトラブロフにバラライカを教えてくれました。
ジプシーたちは、宿屋から宿屋へ回り歩き、歌ったり踊ったり。
トラブロフのバラライカはどんどん上手になっていきました。
一方、トラブ一家では、トラブロフがいなくなって、お母さんが心配のあまり病気になっていました。
トラブロフの妹は、兄を探しでかけます。
旅の楽士一行を追いかけ、スキーを履いたトラブロフの妹は、やっと兄に追いつきました。
トラブロフは、びっくりしましたが、お母さんが病気だと知ると、ジプシーじいさんに別れを告げ、すぐに家へと向かいました。
スキーを履いて、冬の雪深い旅路を行きました。
激しい吹雪の中、ねぐらにありつけない日もありました。
わずかな焚火で暖を取りながら、夜を越しました。
長い長い旅路のあと、やっと家に着きました。
トラブロフが帰ってきたので、お母さんの病気はすっかり治りました。
しかし、困った問題が!
宿屋のおやじさんが、恐ろしい猫たちを呼んできて、ねずみ一家を追い出そうとしていたのです!!
ところが、ある晩のこと。宿屋に来るはずだった楽士が来なくて、お客は大騒ぎ!
そこへ、バラライカを持ったトラブロフが登場!!
トラブロフの音楽を聴いたお客もおやじさんも、感心しました。
トラブ一家は、そのまま宿屋に住み続けてよいことになり、トラブロフの兄弟たちもみんな楽器を習い、バンドを作り酒場で演奏することに!
トラブバンドは、遠くから聴きに来るお客がでるほど名高くなりました。
読んでみて…
三角の形をしたバラライカという、ギターに似たロシアの弦楽器。
そのバラライカに魅せられた、ねずみのお話です。
音楽好きのトラブロフは、寝るのも忘れるほどバラライカに聞き惚れ、音楽師たちといっしょに旅に出てしまいます。
聴衆から割れんばかりの拍手を受ける夢を見て・・・。
ジプシーじいさんから熱心な指導を受け、日に日にバラライカの腕を上げ、じいさんからも喜ばれるように。
でも、迎えにきた妹から、母の病気を知ると、楽師たちのもとを離れ家路に。
帰って酒場で演奏し、一家を救ってめでたしめでたし。
お話自体は、シンプルなハッピーエンドで、「行って帰る」お話。特別取り立てて起伏に富んでいるわけではありませんが、特別印象に残るのは、トラブロフの行動力!
バラライカに魅せられると、迷わず楽師たちのそりに紛れ込み、音楽の道へと進むところ。そして、お母さんの病気を知るや、迷わず道を一変。帰れば、家族の窮地を、身に付けた技術で救う。
とても頼もしい息子ねずみです。
行動力があるだけでなく、芸に真摯で、家族思い。師への恩義も忘れない心根の良さも魅力的です。
そんなトラブロフの生きざまを、この絵本では、絵が十分に語っています。
絵本としてはやや暗めの色彩。
雪深いヨーロッパの、厳しい自然のなか、旅する楽士一行の姿が描かれていきます。
トラブロフが、ジプシーのそりに乗り込む場面は、雪が積もり、三日月が凍てつく空に輝く真夜中。楽士のそりは、昼夜を問わず雪原を走ります。
家路に着くトラブロフと妹の旅路もまた、長く旅してきた道を戻るのですから、長く長く、それも行きのそりとは違って、帰りはスキーですから、いっそう険しく続きます。
トラブロフの行って帰る長い長い旅路が、画面いっぱい使って、全部で見開き4ページにも渡って描かれています。
日に照らされた雪原を走るそり。
夕日のなかとぼとぼと進む一行。
吹雪のなか体を寄せ合う兄妹。
あと一山超えれば我が家という安堵の雪の峠道。
雄大な自然と、その厳しさのなかを進むトラブロフたちの姿に、芸の道や人生の道そのものの厳しさを感じることができます。
でも、この絵本は厳しさや重さばかり感じさせるのではなく、ユーモラスなところもいっぱい!なにより、トラブロフはじめ、登場する生き物たちの表情が豊かです。
表紙見返しには、バラライカを抱えたトラブロフが18匹!
ひょうひょうとした顔でバラライカを弾いています。
トラブ一家を紹介する最初のページは、みんなきょとんとした、ちょっととぼけたような顔をしていてユーモラスです。
ねずみの騒音に顔をしかめる宿屋の主人。その上でゆうゆうと丸くなって眠るねこのとろんとした顔も対比的で面白く、隅々までユーモアがいきわたっています。
陶酔しきって踊りを踊るジプシー一行の表情の豊かさ。
うっとりとバラライカを弾くジプシーじいさんの膝の上で、小さなバラライカをひくトラブロフも、ちょこんと乗っかっている様子や、点のような目つきがユーモラスでかわいらしいです。
ねずみは、ときにどこに描かれているのかわからないくらい小さく描かれていたりして、探すのも楽しく、そりに乗るじいさんのポケットから、ひょっこと顔を出しているトラブロフを見つけると、子どもたちは大喜び!
暗い色遣いですが、何色も色が重ねてあって、深みがあるため、寒い景色が描かれていても、どこか暖かみを感じます。
寒さ厳しさとともに、深さや暖かさ、そしてユーモアを感じさせる、味わい深い絵本になっています。
最後のページは、
「ところで、ねずみのバンドが さかばで えんそうする、このやどやが、どこにあるのか、はっきりと しっているひとは、だれもいません。
けれども、スキーをはいた ねずみをみかけたら、それが トラブロフか、いもうとなのですから、そのあとに ついていけば、そのやどやが みつかることは たしかですとも。」
と結ばれています。
テクストも最後までユーモアたっぷり!
スキーを履いたねずみを見つけ、後を付けていってみたくなってきます。
ヨーロッパの雄大な自然と冬の厳しさ、その中で送る人生の旅路の険しさ、そういった現実を、楽しくユーモアあふれるお話と絵で、暖かく見せてくれる優れた絵本だと思いました。
今回ご紹介した絵本は『バラライカねずみのトラブロフ』
ジョン・バーニンガム作 瀬田貞二訳
1998.3.10 童話館出版 でした。
バラライカねずみのトラブロフ | ||||
|
ランキングに参加しています。ポチっとしていただけると嬉しいです。
いつもありがとうございます。