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ロシアのハロウィン

今日はハロウィン!

10月31日はハロウィン。いつの間にやら日本でも秋の風物詩になりましたね。私も10年ほど前には仮装したものです。(若かった〜)

ここ数年は渋谷で騒動が起こるという印象が強くなってしまいましたが……。

さてさて、ロシアではハロウィンはどのように祝われているのでしょうか? ちょっと興味が出たので調べてみました。

そもそもハロウィンって何の日?

でもよく考えたら、そもそもハロウィンって何だっけ? 仮装する日? アメリカの文化的イベント? ロシア云々以前に、その源流すら知らない状態ですので、まずはそこから調べなきゃいけませんね。

一言で言うと「古代ケルトのお祭りが由来」というのが一般的な知識でしょうか。まるで『罪と罰』を読まずして、「若者がおばあさんを殺して改心する話」ということだけは知っているというレベルの知識(笑)

ケルト文化の専門家・鶴岡真弓氏の『ケルト 再生の思想』より、もう少し詳しく引用してみましょう。

冬を目前にしたヨーロッパのある民間の祭日では、その一年の始まりの前夜に、「生まれること、生きること、死ぬこと、再生すること」のすべてを、一夜にして目撃できるという。それは、厳しい北ヨーロッパの風土に生きる人々の実感に根ざしていた。「万霊節」と呼ばれるケルトの祭「サウィン」である。

今日イヴェント化されている「ハロウィン」の起源は、このケルト伝統の「サウィン」にある。

『ケルト 再生の思想ーーハロウィンからの生命循環』、鶴岡真弓著、ちくま新書、2017年、7ページ

つまり、ケルトの「大晦日」にあたるわけですね!

この解説だけでも、興味深いところだらけ。

まず、1年の始まりの前夜がサウィンということは、11月1日から1年が始まるということ。これから寒くなるという、眠りの季節とでも言いたいようなこの時期に年初を置いたという感覚が私には新しいのですが、これが「厳しい北ヨーロッパの風土に生きる人々の実感」なのですね。

さらに、「生まれること、生きること、死ぬこと、再生すること」という死生観。無条件にキリスト教一辺倒だと思っていたヨーロッパにも、古代にはこういう輪廻転生のような考え方があったんですね。これも面白い発見です。
(※「ケルト」とは中央アジアから来たとも言われていて、青銅器時代にはヨーロッパに住み着いていたケルト語派、つまりアイルランド語とかゲール語などを話す人々の総称だそうです。←参照はWiki!)

このサウィンの思想、キリスト教の教義とは相入れないような気がするのですが、「ケルト人」はこの思想・文化を大事にしながらも、「新しい宗教として一神教のキリスト教が到来し」た時には、両者を「ゆるやかに融合」させていきました。(前掲書、209ページ) 「ハロウィン」という名前は、「中世ローマ・カトリック教会がケルトの正月に当たる十一月一日を「諸聖人の日」と定めてから、その前夜、教会では祈祷がおこなわれ、また、公式ではないが一般では「ハロウィン」として祝われるようになった」ところから来ているそうです。(前掲書、8ページ)

19世紀に入り、アイルランドやスコットランドから「ケルト人」がアメリカへ移住し、古き良き伝統をアメリカへ持ち込み、そこから世界へ「ハロウィン」が広まっていくことになります。

ロシアでもハロウィン?

ハロウィンの歴史を調べだしたら面白いことだらけだったので、つい前置きが長くなりました。

さてさて、本題のロシアのハロウィン。ロシアではどのようにハロウィンが祝われているのでしょうか。

新聞記事を覗いてみましょう。まずはご近所、ハバロフスクの様子。

伝統的にハロウィン祭は10月31日に行われるものですが、ハバロフスクのハロウィンは約2週間続きます。10月21日に最初のパーティが始まり、最後は11月2日です。外国からやってきた祝祭に対するこの愛情のそそぎようは何なのか、想像に難くありません。オバケに扮して、騒いで楽しむチャンスなんて、ハロウィン以外ではありえないからです。(拙訳)

コムソモリスカヤ・プラウダ・ハバロフスク版、「2019年ハバロフスク、ハロウィンをどこ祝う?」、2019年10月23日

やはり仮装はつきものです。それにしても、2週間もハロウィンパーティが続く……なかなかの体力ですね。さすがロシア人。

もちろん首都モスクワでもイベント情報が。

ВДНХ(ヴェーデーエヌハー)で10月31日から11月4日まで、モスクワっ子たちはハロウィン祭りを楽しめます。……31日はロボットたちが来場者たちを怖いお話で驚かせます。また11月2日から4日には「ホラー工房」「ゲーム工房」が開かれ、子供たちはお菓子の蜘蛛や空飛ぶ魔女、ふわふわオバケを作ることができます。(拙訳)

ヴェチェールニャニャ・モスクワ、「ВДНХのハロウィンでロボットが怖いお話」、2019年10月29日

ВДНХというのは、正式名称「国民経済達成博覧会」という物々しい名前のイベント会場です。昔(ソ連時代)は国内の様々な産業の業績を展示する国家的な施設でした。ソ連崩壊後、私がロシアを訪れるようになったころ(=リヒーエ90年代)には、外国車の展示場になってた記憶があります。あるいは「本市場」とか。やっとイベントらしいイベントをやるようになったんですねー!

さらに、日本語版が開設されているスプートニク通信社でもこんな記事が。

今週31日はハロウィンの日。多くの人々はこの日を心待ちにしていることでしょう。このイベントまでの1ヶ月間、すでに多くの国々で家々やカフェ、公共の場で不気味な装飾が施されている。シベリアの都市ノヴォシビルスクの動物園のスタッフたちは、このイベントをやり過ごすのではなく、来場者のみなさんにハロウィンのシンボルであるジャック・オー・ランタンを味わうことを提案した。

Sputnik日本、「ノヴォシビルスクの動物園の「カボチャの日」」、2019年10月19日

しかし、イズヴェスチヤ紙では……

先に挙げた記事はハロウィンを「秋の楽しいイベントの1つ」として取り上げているようでしたが、イズヴェスチヤ紙は違いました。

90%以上の国民はハロウィンを知っていながら、祝うのは3%だけ……10月29日火曜日、イタルタス通信はVCIOM(全ロシア世論調査センター)のアンケート調査を引用し、このように伝えました。
「ハロウィンを祝うつもりでいると答えたのは、ロシア人の中でも18~24歳の若者が中心だ」と記事は述べています。。……(中略)
世間ではハロウィン祭は、ロシアの文化・伝統とは異質でなじまないものであるとの確信が強まっています。さらに、ロシア人がハロウィンを祝わない理由として、ハロウィン祭の中に何か良くないものがある、異教の祝祭であると考えていることを挙げている。(拙訳)

イズヴェスチヤ、「ハロウィンを祝うロシア人は3%だけ」、2019年10月29日

若い人が受容しているということはわかります。また、わざわざお祝いをするかというと、私自身も今年特に何もするつもりはないので、祝わない人が多いのもわかります。

しかし、「3%」という数字は目を惹きます。この数字を挙げてわざわざ記事にするのは、「そんなには流行ってないぞ、ロシアでは!」という主張にも聞こえます。

実際、ロシアでのハロウィン受容はなかなかスムーズなものではないようです。

というのも、ハロウィンはロシア政府からもロシア正教会からも厄介者扱いされているからです。

異国文化・異教排除の動き?

例えば、最近ではロシア国家院議員のミロノフ氏が検事総長にロシアの教育機関でハロウィンのプロパガンダが行われていないか調査してほしいと願い出たそうです。(イズヴェスチヤ紙、2019年10月9日の記事より)←このミロノフ氏、少なくとも2017年以来これを主張しているよう。

また、宗教界からもこんな意見が。

二〇〇六年のインタビューの中で、ロシア正教会の司祭ミハイル・プロコペンコはハロウィーンを国家主義者かつ宗教人名士の立場で非難した。「ロシアにおいて、ハロウィーンの祝祭がかなり人気を集めている。この事実からわかるのは、外国の祝日を借用することについて、われわれはもっと注意を払うべきであるということだ」

『ハロウィーンの文化誌』、リサ・モートン著(大久保庸子訳)、原書房、2014年、173ページ

日本人の立場からすると、ハロウィンは外国の祝祭なので状況は同じです。しかし、日本で政治家がハロウィンを問題として取り上げるなんて、あまり考えられません。なんなら「ケルト文化の尊厳を傷つけた」と文句言う人が出てきそう(苦笑) 日本で話題になるなら、参加者のマナーを巡っての討論かな…… (今年は何も起きませんように……)

日本は宗教に対して寛容なので、宗教的な観点からは議論のしようがないのかもしれませんね。

これに対して、ロシアはキリスト教(ロシア正教)の国、というか、ロシア正教信者の多い国。ロシア憲法では信仰の自由が保障されてはいますが(ロシア連邦憲法28条)、近年はロシア政府がロシア正教びいきである傾向が見られます。

先にも述べましたが、ハロウィンはキリスト教の教義とは相性の悪い異教のお祭りです。本家本元のサウィンですらキリスト教からの圧力を免れませんでした。

新教プロテスタントの勢力が増す十六-十七世紀からは、「ハロウィン」は、影を潜めていった。為政者は表立ってサウィン同様、ハロウィンも悪魔的な民間の悪事であると表明し、弾圧した。

『ケルト 再生の思想』(前掲書)、34-35ページ

もともとはロシアの地にも異教は存在していて、キリスト教受容(988年)の時には、ケルトと同じように、異教と融合していったという経緯があります。

そう考えると、今やキリスト教国家として、異教弾圧じみた主張が国の上層部にあるのはさみしいことです。

実際のところどうなの?

国家レベル、宗教界がハロウィンに対して否定的であることはわかりました。その事情もいろいろあるのでしょう。では、一般市民のレベルではどうなのでしょうか?

これについて、少し古い記事ですが興味深いものを見つけたのでご紹介。

ハロウィンに対するロシア人の反応は?(2017年10月21日の記事)

この記事を一言でまとめると、「人それぞれ」。そりゃそうですね(笑)

また、このような記述もありました。

ロシアでのハロウィンの居心地はよろしくない。そのようなものが流行る一方で、この国で培われてきた祝祭は廃れる一方ではないかと、一部から声高に懸念が表明されたが、そうした懸念をよそに、一九九〇年代以来ハロウィン人気は急速に高まっている。

『ハロウィーンの文化誌』(前掲書)、173ページ

2000年以降、私はハロウィンの時期にロシアを訪れていないので、実際のところどうなのかわかりません。この時期にロシアに行って、ハロウィンパーティに参加してみたい(^O^) どんな仮装ができるかなぁぁぁぁ?(←まだする気!)

ちなみに日本では……

ちなみに、日本でのハロウィン支持率はもう少し高いようです。こんな記事、見つけました。株式会社ドゥ・ハウスによるアンケート調査の結果ですが、私の肌感覚にはぴったりくる調査結果だな~と思います。ご参考までにどうぞ。→株式会社ドゥ・ハウス「ハロウィンに関するWEBアンケート」調査結果

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