介護士の腰痛
実際、更衣室で着替えている時、男性介護士の中には腰ベルトを装着している人がいます。
こみちが勤務している担当エリアの男性介護士で見かけたことはありませんが、忙しい部署ほどその傾向があるようです。
腰痛になる原因として、身体の使い方があるでしょう。
よく言われる足を使わずに上体だけを曲げて持ち上げるような動作はとてもリスクが高まります。
もちろん、介護現場で働く人はそんなことも知っているでしょう。
それでも腰痛に悩まされるのは、介護現場特有の事情が隠されています。
幸いなことにこみちは腰に痛みがありません。
過去の仕事で、腰に痛みを感じて、それからは無理をしないように努めてきたことも影響しているでしょう。
一方で、腰痛になってしまうケースとして、利用者の移乗介助があります。
移乗というのは、ベッドから車いすや、トイレの便座など、いろんな場面で行われる介助の基本動作です。
基本だからこそ、頻繁に使い、ちょっとしたミスによって「腰」を痛めてしまいます。
意外に危険な動作だなぁと思うのは、「前屈み」を誘発する場面。
例えば、車いすに付いているブレーキを解除するような場面で、向こう側のブレーキを車いす越しに手を伸ばしたような瞬間です。
腰痛というと「重いもの」と思われますが、自身の身体も十分に重いので、何も持っていなくても、自重だけだったとしても注意が必要なのです。
似たような瞬間は、浴室の湯船の底を洗うような時でしょう。
ささっと洗ってしまいたいあまり、無理な姿勢で上体を前のめりにしてしまうからです。
共通するには、目の前にものがあって、それを乗り越えて作業するような場面。
忙しさのあまり、ついついやってしまいがちですが、腰痛でシフトに穴を空けないためにも、そのひと手間を惜しんではいけません。
こみちが抱える身体の故障
中高年のこみちは、ひと勤務終えるごとにとても疲弊します。
他の仕事では感じたことがないほど、帰路は足取りも重くなります。
その要因の1つが、ふくらはぎの痛みでしょう。
ふくらはぎの痛みは、もう数年前に経験していて、疲労が蓄積すると急に痛み出します。
本来なら痛みを感じた時点でセーブすればいいのですが、介護現場では「タイム!」とはなかなか言い出せません。
利用者はトイレ誘導などを希望されますし、できることならこみちも誘導してあげたいからです。
片方の足に痛みがあると、どうしても姿勢が歪みます。
痛みをカバーするために、もう片方に負担を掛けてしまうのです。
皆さんは経験ないでしょうか。
足首などを傷めて、それをかばっていたら、膝や腰に痛みが現れたと言う経験。
身体というのは、絶妙なバランスでできているので、ちょっと無理な姿勢でいると、どこかにそのしわ寄せが現れます。
本来なら、現場に立つ介護士が均等に作業できればいいのですが、様々な事情で動く人と動かない人に分かれます。
自己防衛するためにも、忙しくても適切なポジションで作業するようにしましょう。
気になるのは、ふくらはぎの痛みを回避するあまり、肘に痛みが出て来たこと。
こみちも自分のこととして考えると、「オムツの装着」にはなんとなく抵抗があります。
オムツ自体よりも、トイレを使わない生活に困惑するのかも知れません。
利用者の中にも、オムツを嫌う人は一定数います。
トイレ誘導の目安は、利用者が立てること。
もちろん、介助や手すりを使っても構いませんが、数秒間も立っていられない場合には、介護士一人での介助は転倒リスクが高まります。
ある利用者の場合、ここ数ヶ月で足腰が弱くなってきました。
まだリハパンを使っているのですが、トイレでもほとんど立っていられません。
「ほら、頑張って!!」
手すりまで腕を掴んで誘導し、声を合わせて立ち上がりますが、腰が上がって来ないのです。
いつもそうなら、介助方法の変更を相談しなければいけない状況です。
しかし、上手く立てる時もあります。そして、本人の希望も十分に知っています。
「立てないとトイレ行けないよ!」
手すりにすがるようにしがみつきますが、その時の状況次第で、「自立」が難しいケースも出てきます。
こみちは、片手で利用者を支えて、反対の手で着衣を脱がせます。
多分、その介助で片肘に負担が蓄積しているように感じます。
実際、その利用者をトイレ誘導することに、多くの介護士が避けているのも現実です。
こみちが日勤の時、それを30分毎、短い時には行ってすぐに「トイレ」とまた言い出すほどです。
「さっき行ったでしょう?」
認知機能の問題ではなく、「残尿感」があると言うのです。
行っても少し出るだけで、また行きたくなってしまう。
以前、一度、オムツになったのですが、本人からの強い要望と家族からの意向も重なり、リハパンに戻っています。
介護というのは、利用者のできないことを周りの介護士で支えること。
本人でも面倒なことも、介護なら叶えようと介護士が動きます。
希望は十分に理解しているものの、こみちの身体に現れる異変もまた現実です。
どこまで支えられるかは、介護士が自分の身体や心を「削って」叶えるしかありません。
しかし、身体を壊してしまっては「介護」ではなくなります。
本当にギリギリだなぁと感じつつも、「トイレ!」と言う訴えに笑顔で応じることがいつまでできるでしょうか。