ネット1 (13)

  チュンチュンチュン、スズメのお宿はどこかいな。京都の伏見稲荷大社の参道では、スズメの焼き鳥が有名であるが、そういう話ではなく、スズメと疎通がはかれたかもしれないという話である。

  仕事の関係で、東北のとある町に住んでいたことがある。平屋建ての住居は、結構広い庭に囲まれており、玄関と勝手口の2つの出入り口を持っていた。勝手口には、短いコンクリの土間があり、ドアを開けると、コンクリが土間と同じ幅でさらに1mほど外に続いていた。部屋の勝手口のすぐ横には、調理台や流しがあり、その上のサッシ窓を通して、作業をしながら、先ほどの飛び出したコンクリのあたりを見ることができる。

  いつ頃からか定かではないが、調理台で作業をしていると、チュンチュンと鳴き声が聞こえ、外のコンクリあたりで、二、三羽のスズメが集っているのを見かけるようになった。そのような事が数度あった後、ふとコンクリの上に生米を置いてみた。すると、瞬く間に、五、六羽のスズメが集まり米をついばむようになった。それを窓越しに見ていたわけである。以降は、ルーチンのようになり、週に一二度米を置くようになったが、時々、米を忘れると、わざわざ、窓の近く飛んできて騒ぎ、催促的行動をとることもあった。

  そうした状況がしばらく続いた晴れの日の午後のことである。これまでに無い、けたたましい鳴き声とぶつかるような音にハッとして、窓を見ると、スズメがホバリングしながら、中を伺っている。ついこの前、米を置いたばかりでまだ残っているし、蛇でも出たのだろうかと思い、窓から見ると、スズメは一羽もおらず蛇などもいない。件のスズメはまだ窓の近くで騒いでいる。

  意を決して、勝手口から外に出ると、スズメはすぐ近くの幼木の小枝に移り、こちらを見ている。そして、飛び上がると、逃げる事もなく、少し離れた所でホバリングしながら、こちらを見て鳴いている。瞬間、これは、自分について来い! という意味であろうかと思い、すぐ近くの垣根の切れ間から敷地の外に出ると、スズメは敷地の間の道を、こちらが見失わない程度の速度(おそらくスズメにとってはかなり遅い速度)で飛んでいったのである。       

(つづく)