寮 (25)

自分が入寮した時、寮には3人の古株がいた。

  最も古いA先輩は、唯一院生の寮生であり、大柄で恰幅がよく、一度も話をしたことはなかったが、酒飲みで、寮の飲み会の時、一升瓶入りのワインを持ってきたことを覚えている。唐突であるが「TOUGH」に出てくる幽玄真影流死天王が、ちょうど古株3人の雰囲気を伝えるのにぴったりなので、それに当てはめると、彼は、さしずめ“ 犀の大観 ”といった所であろうか。彼は自分が入寮した翌年卒寮していった。

  2人目のD先輩は、髪を少し伸ばした細面のイケメンで、潔癖症なのか手ばかり洗っていたことを覚えている。行きに洗い場の前を通った時、彼は手を洗っており、帰りに通り過ぎた時も洗っていたというようなことがよくあった。死天王で言えば、“ 疾風の春草 ”といった感じである。彼は気が付くと居なくなっていた。

  3人目のE先輩は、制度上在籍できる最も長期間、大学に在籍したと思われ、長く居たせいか彼とは何度か話をする機会があった。寮生活を真に楽しんでいるようであり、古株らしく何故か本物の切り株を持っていた。休日にニンニク出汁のラーメンを作っていた時、味見をして、改善点を指摘されたことを覚えている。小柄で行動的なので、死天王で言えば、“ 鼬の観山 ”という所である。

  さて、寮には、銭湯のような大浴場があり、毎日入ることができた。暖房は安全性を考慮してか、部屋まで引かれた専用の配管にお湯を通す温熱暖房式で、ストーブを焚くことはなかった。そしてそれらに給湯するため、一階の部屋に、巨大なボイラーが設置されていた。着火する時間は大体決まっており、お風呂や暖房のために着火する時は、部屋にいても振動が伝わるほどであった。

  何らかの機会にE先輩から聞いた話である。自分(E先輩)が入寮した時、寮には何人かの古株が居た。その内の一人が、大学に行っているのか、寮にいるのか、所在が分からなくなり、その後寮を上げて捜索が行われたが結局見つけることはできなかった。しばらくして、ご両親が荷物を引き取りに来たそうである。そして、その頃、思い出すのは、変な時間にボイラーが着火していた ことだそうである。

  まあ、これは寮とか学校に伝わる、○○の怪談に属する話と思われるが、当時、土日など皆が外出し、誰もいない静かな部屋で本を読んでいる時など、ボイラーの着火があると、少しドキッとする自分がいたわけである。