ハロー、しらない星のひとびと

 沖の方までいけば、あの、蜃気楼のように揺らぐ町は、ひどい雨に打たれたあとの、むなしさにつつまれているのだった。海の上からみる、せかい、というものを、ぼくはそのとき、はじめてしった。とはいえ、それは、せかいのほんの一部にすぎないが、半島、大陸、そのうえにつくられた建物、木造、鉄筋、コンクリートにかこまれて、にんげんはせいかつしているのだぁと思うと、なんとなく、夢をみているときの、ぼんやりした感覚におちいったのは、じぶんのあしもとが不安定であるからかもしれなかった。船底を隔てて、したは、はてしなくあおい、海。
 なまえもしらない星から、ときどき、交信があって、きみは、そういうときは、チョコレートがたべたくなるのだといって、チョコレートをたべている。ミルクチョコレートが最適で、交信がない日は、ビターに限る。ひかえめに光っていた星が、一瞬、もうれつに明るくなったときが、送信の合図であって、町のあちらこちらで、それを受信して、意味のわからないことばを、音楽のようにきいていた。ぼくは、ごじゃごじゃとした、その、星のひとびとのことばをきくと、りゆうのない不安にさいなまれる。ミルクチョコレートをつまみながら、雑誌を読み、どこにあるかもわからない星との交信をたのしんでいる、きみのかたわらでちぢこまって、はやくおわらないかなとひそかに祈っている。きみの、たくましいうでに、あたまをもたれて、ねむってしまうときもある。けれど、ぬぐえない不安をとりのぞくのは、きみに、おしつぶされるのがいちばんで、そのまま、ベッドにふかくしずみこんでしまうほどの、きみの重みに、ぼくはひたすらに安堵するのである。わからないことは、こわい。きみのかたちははっきりわかっているから、だいじょうぶ。すき。

ハロー、しらない星のひとびと

ハロー、しらない星のひとびと

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-07-14

CC BY-NC-ND
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