飲酒の系譜その2

飲酒の系譜その2

 ベロンベロンに酔っている。酩酊状態。
 ぐでんぐでんってやつだ。
 週一独り飲みの果てである。
 
 別に義務にしているわけじゃあない。
 飲兵衛って言えるほど、強かぁない。むしろ弱い部類に分けられる。
 チャンポンは御法度。
ゲーしちゃうのが目に見えている、母に、妹に迷惑かけられない。
 その点自重、自重。

 最近、はしごが多い。
 自称行きつけを増やしちまったおかげで、元来気が弱くへこへこして見栄を張る身のために、
それぞれ顔を出さないと忘れられてしまうかも……って、そんな弱気が故についつい立ち寄ってしまう。

 今宵は一軒だけに絞った。
 それゆえ馴染みのシェフにこう言われた。
「今日は他に行かないんですか?」って。
 
 客商売に長年携わっている相手に、素人のフェイントなんて通じる訳ない。
 今夜は元から一転集中と決めていた。
 最初の一杯だってビールなんてルーティンは決めず、いきなり熱燗でいった。

 月の終盤月曜日。新年も明け業務も本格化しているためか、自分以外客はなし。
 年を跨ぎテーブル席が満席状態、
カウンターでの独り飲みに気が引けていたため、悠々と選び抜かれた一杯を楽しむ。
 場を独り占め、いい気分だ。

 気の知れたスタッフ相手に話題を振り、会話を楽しみつつ、一口一口味を楽しむ。
 ビールと日本酒、
種類は違えど親父もこんな風に馴染みの店で過ごしていたかと、想いに浸る。

 実家近くの商店街、駅を中心にして一昔前は多くの飲み屋が軒を連ね、
 夜の帳が落ち頃から地元の飲兵衛達が集結し一杯を楽しみ、
あてに舌鼓を打ち、カウンター越しに店主との会話を楽しんでいた。
 スナックならばレーザーディスクのカラオケで自慢の喉を鳴らし、喝采をいただく。
 寿司屋で握りを頼むのは素人。
通はその日最も新鮮な魚の刺身をつまみつつ、ビールで喉を潤す。
 親父がバリバリ働いていた頃、昭和から平成に年号が移ってもなお、
地元の盛り場は常連たちの足でもっていた。

 しかし、残念なことにそれも今は昔。
 馴染みの客の高齢化と店主の高齢化が比例し、
伝統工芸の如く後継ぎ不足も相まって、店はどんどん畳まれていった。

 更地に立つのは終の棲家を欲する人々。
小さな盛り場の跡地に、次々とマイホームが羽後の筍の如く姿を現していった。
 商店街が住宅街へと変わっていく。帰りの電車を降りた人々が素通りし、我が家へと急いでいく。
既に見慣れた風景だ、しかし寂しいものは寂しい。

 そうなれば飲みに出るならもっぱらターミナル駅の盛り場に限る。
 地元の駅前の寂しさが増していく。
 釣られてブティックやコンビニも賑やかさを失い、
シャッターを下げる事態を余儀なくされた。
 今や駅前は静謐な住宅街へと化した。
家路を急ぐ学生やサラリーマンの通り道に過ぎなくなった。

 高度成長期。親父の若かりし頃は我が市一番の飲み屋街を、
町の大将が先頭を切り群れを成し飲み歩いた話を度々耳にする。
 憧れる、人々が祭りでもないのに肩をぶつけながら飲み歩くその光景。
 末端にまで飲みニケーションのネットワークが張り巡らされていた全盛期、
一度でいいから味わってみたかった。

 年号が昭和から平成、令和へと移った現在では週末や祝日でもない限り、
ひと時の憩いを求めるバカ騒ぎの勢いは感じられない。
 早い時間帯に酔ってしまい、翌日の仕事に控える背広組の姿ばかりが目をつく、
ターミナル付近でさえも。
 
 時代の流れに逆らう気はない。
抗えば抗うほど虚無感を覚えることになる。
 アルコールが全てではなく、
しらふでも会話は弾むしコミュニケーションは図れる。
 とはいえ、一抹の寂しさを感じるのは時代遅れなのだろうか。
 そんな想いを抱きつつ、今宵もカウンターで独り酒を口にした。

飲酒の系譜その2

飲酒の系譜その2

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-01-21

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