きみ、宿る

海底に、聖書を落としてきてしまった、僕を、砂紋のひとつすらくれない、たったそれだけの罰で、愛そうとしている。いまさら、溺れていないなんて、云えないね、水は、感性なんてなく、ひとを、惑わせるのだものね。塩分のほとんどが、かなしみにすりかえられて、もう、甘くなることを約束された海は、さかなたちの毒です。(僕らもしばらくすれば、生きにくくなるね。) どうにかこれを、罪だとしようとする、罪を犯したことのない人が、海の見えない街から、舟で飛んできて、愛しています、愛していますが、きょうからは、あなたのことだけはきらいになります、と云ってまわっていた。さみしそうなさざ波は、しかし、かなしそうではないまま、消えていき、僕はきみの足が、ほんとうは、人魚のようだと、やっと、見つめていました。ねえ、粒子からたれながしにされた、星々の成分が、きみの、ほんとうの姿で、それは、淡いよ。僕の神様に願っていることが、やがてきみを、宿らせる、きみは、誰でもない、海に宿っている。街が、輝くしゅんかんにだけは、存在できないことを、わかっているきみは、さみしそうで、しかしかなしそうでなかった。夜になれば、会えることを、絶望だとしてよ、僕らは、もう、波になりたいまま。

きみ、宿る

きみ、宿る

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-03-27

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