44歳からの陶芸家

陶芸家 高見澤匠のブログです

「茶器名物図彙」〜和楽翁 合点ゆかす〜

f:id:idoholic:20201124205323j:plain

「茶器名物図彙」全三冊。(図彙はズイと読み、絵図入りで解説した現代でいう図鑑のようなものです。)数年前からずっと探していたところ、昨年出物があり念願かなって北海道で購入したのですが、修行期間中は本を読む余裕もなく全く読めていませんでした(笑)

 

最近になりやっと仕事の合間などに少しずつ読み進めているのですがこれがまた面白い!あ、、面白いと言っても小説ようなものではなくあくまで図鑑なので、著者の草間直方さんが古今東西の茶道・道具・茶碗から職人・茶会記までありとあらゆるものを解説している中で、著者の所見というか”ひと言感想”みたいなものがたまに有り、そこから江戸時代に生きた草間直方さん自身の茶道や道具に対する視点やスタンスが垣間見える気がします。

 

その中で最近読んでいて面白かった箇所が、高麗物の堅手茶碗を解説しているところで直方氏徐々に熱くなったのか(笑)茶碗の目土の跡について自身の所見をおっしゃっているのですが、言われてみればもっとも!と思う箇所がありました。

 

以下原文から抜粋

都て此堅手之類ハ昔篭元にて十ヲも二十も数積重ね其合ヒ土にて五徳之如きへたてを入、一時に焼くもの故、其茶わん壱ツ皆碗中に五徳之めあり、尤五ツも六ツも有るものなり、此五徳之目之なきをうハ焼とて人賞翫せす、目之有を悦ふ、いか成訳といふ事を不知、たとへハ茶碗重ねて焼しものゆへ十ヲ二十之内、目之なきハ漸々一ツより外無之故、此上ハ焼をこそ賞翫すへきに、五徳め之有を促ふ事、いか成事とも不知、尤井戸茶わんも右之通重ね焼にて五徳目之有を悦ふ、合点ゆかす

草間直方『茶器名物図彙』

 

 簡単に要約(意訳?超訳!?)すると、、堅手茶碗のたぐいは10も20も重ねて焼くので、茶碗同士がくっつかないように重ねる所に目土を立てるので茶碗の内側に5つや6つの目土の跡が出来る。皆この目跡がある茶碗を喜ぶが、10も20も焼いても目跡が無いものは一番上の茶碗一つだけで(絶対的に少なく)珍重すべきなのに、数がある目跡があるものを皆(自動的)に喜ぶのは(直方、、)納得がいかない。。。

 

意訳しても文章だけだと重ねて焼くということがピンとこない方が多いと思うので、

f:id:idoholic:20201124210246j:plain

例えばこのように五つ重ねて焼くとすると

f:id:idoholic:20201124210340j:plain

上の茶碗と下の茶碗が釉薬でくっついてしまわないように、このように上に重ねる茶碗の高台に小さく丸めた目土をくっつけます

f:id:idoholic:20201124210637j:plain

焼き上がると下の茶碗にはこのような目土の跡や目土がつくので、それを取り除いた跡が目跡となります

f:id:idoholic:20201124210813j:plain

下の四碗には目跡がつきますが、一番上の茶碗だけは目跡がつきません

このように五つの茶碗を重ねて焼くと目跡があるものが四碗、目跡がないものが一碗となります。

 

草間直方さんは商人の家に生まれ、当時の商家の慣例として幼少期から鴻池家に丁稚奉公をしていましたが、若くして鴻池別家の草間家に女婿として迎え入れられるなどかなり優秀だったようです。業務として大名貸しなどを行うと同時に当時の米経済から貨幣経済への移行の重要性を説き殖産興業を促し、当時多くの藩が陥っていた財政機器からの再建を説くなどという経済学者のような視点を持ち、隠居後は「三貨図彙」という日本最初の貨幣経済史書を作るようなアカデミックな人物でした。

 

希少性を通念(この頃既に出来上がっていたであろう茶道や茶器に対するいわゆる”約束事”の風潮)ではなく原理的に捉えると数の少なさなので、商人出身の直方自身の来歴を経た見方(美醜や好みはまた別として)が出ていてとても興味深かったです。

 

戦国後の江戸に入ってからの茶道や茶道具の変遷を見ていると、戦場に駆ける男性の情熱が文化面にむき、戦国の残り香からかある種情緒過剰とも言える熱を帯び成熟した後、それまでの武士と商人の階級制度をじわりじわりとひっくり返す、極めて現実的な力(経済的優位)による社会的地位の逆転現象が起こる中、大名茶人の一番手とも言える松平不昧公が「古今名物類聚」を刊行したのちに、カウンターのように商人出身の草間直方さんが自身の視点をちりばめながら本書をまとめた事も面白く感じます。

 

時代時代、立場立場、人それぞれの合点があります。さて、、自分自身の合点をどこに合わせ、自分自身がその合点をどこまで追求できるのか。いつの時代にも突きつけられる重要な価値観ですね。

 

--------------------ーーーーー--------------

↓「44歳からの陶芸家」ブログランキングでの順位の確認はこちらです↓


陶芸ランキング 

InstagramFacebookもよろしければフォロー宜しくお願いします

Instagramhttps://www.instagram.com/takumi.takamizawa

Facebookhttp://facebook.com/idoholi