「そう、あなたが一番。それからこの部屋、ベッドもカーテンも、みんな素敵」
そう言うと彼女は、もう一度部屋を見渡す・・・。(第六話)
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「もうひとつのラスト」 第7話
「三ツ星ホテルのスイートルームには、遠く及ばないけれどね」
と僕は言った。口にしない方がいいジョークもある。口にした言葉を自分の頭の中で否定するのは辛いけど、決して降参はしない。(失敗する度に降参していたら、この人生つづけていけないからな!浩史)
「ばかね、あなたといられれば、そこが私のスイートルームなんだから」
またクリーンヒットだ、香瑠のカウンターパンチ、効くなあ。
「そうなの?」
このセリフ、狼狽えてしまった事がもろに分かる・・・そんなだから『分かり易い』って年下の従弟にも言われてしまうのだろう・・・。
フーッ、と香瑠はため息をひとつ吐き、今度は身体ごとぼくを振り返ると、
「そうなの!」と言った。「ま、いいわ」とも言った。
それから彼女は、気を取り直したように優しい笑みを浮かべて
「お風呂に入りましょ」と言った。それはまるで「お茶にしましょ」と言ってるのと同じくらいに、サラッとした言い方だった。
まただ、香瑠さん、もう勘弁してもらえないだろうか・・・僕は、一体幾つに成ったら香瑠のカウンターパンチをかわせるようになるのだろうか・・・。
まてよ、たしか父さんも実質的な初夜を迎えたのは、母さんと結婚してから3週間も過ぎてからだったって、そう言ってた。だとしたらこれはやっぱり遺伝なのか?うん、そうに違いない。
何だか身も心も軽くなったような気分、「TAKE IT EASY」が聞こえてきたような錯覚さえ覚えた。
バスタブにお湯がたまるまで、ぼくらはベッドの中で待つことにした。寒いから?
そんな筈はない。ぼくは2階に上がって直ぐに暖房のスイッチを入れておいた。
すでにぼくはトランクス1枚、香瑠は、厚手の上着とジーンズを脱ぎ捨てていて、上半身を隠すのは白いコットンシャツ1枚という格好。
で、両手を重ねてぼくの胸の上に置き、その上に顎を乗せてぼくの顔を覗き込んでいる。
「ねえ・・・」
香瑠のこの言葉には幾つかの引き出しがあって。
ぼくにキスの催促をしたり、ぼくの腕に腕を絡み付けてくる時のあの、
「ねえ・・・」には、きっと入りきれないほど大量のナノサイズのラブレターが詰め込まれていて、引き出す度にまるで羽毛のように飛び出してきて、何時でも僕の敏感な部分を刺激するのだ。
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