「もうひとつのラスト」  第10話 | ノベルの森/アメブロ

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その言葉、受け答えのパターンとしては何も問題はない・・・けれど、君の瞳の奥に、必要以上の「やった感」が垣間見えた。そう感じたのは気のせいだろうか?
              第9話の文末


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「もうひとつのラスト」   第10話




「じゃあ、しっかり見ててね」
「なんか変!さっきまで泣いてたカラスが」
「まあ、ひどい!わたしはカラスなの?」
「いや、・・ほら、白くてキュートなカラスだっているだろ?・・いないかな?」

こんなふうに、ぼくは大人になった今でも上手な言い訳ができないでいる。「噓が付けない」といえば格好いいが、要するに他の人に合わせて生きることが下手なのだ。だから水辺に生きる生き物たち(彼らは人間のように噓をついたり、いじめたりしない)を大切に育てつつ、水草やメダカ、熱帯魚などを鑑賞する為に必要な品物を売って生活している・・・。

「ウオーターサイド」には毎日もしくは時々訪れてくれるお客さんがいる。彼らは、人付き合いは苦手であったとしても、水辺に生きる生き物たちを見つめるその目は限りなく優しい。
そして時々、水質を保つ為のろ過材や水草などを買ってくれる。
滅多にないが、新しい水槽の注文もある。

ぼくと「ウオーターサイド」にとって、彼らは、かけがえのない存在だ。

香瑠は、クスッと笑ったあと、「ごめん!ほんとにごめんなさい、許して浩史!」と言った。

「何のこと?」

間の抜けた亀のように、僕は首を伸ばして答えを求めた。

「どうだった?助演女優賞をもらえる演技は?」
「え!それじゃあ、さっきの涙は・・・」
「半分はホントよ、それにセリフは全部本音だから」
「・・・・・」

返事をする気になるまで、あと3行は待ってもらわなければ・・・。

「浩史、こっちを見て。ほら・・・お願いだから」
言われてつい、香瑠にかおを向けた。僅か2行で、もう既に許してしまっている・・・。

「ねえ、覚えてる?浩史・・・」
「なにを?」

僕は、まだ完全には許していない。という顔を作ってみせた。

「10年前、マリオがいた、「BENITO」(イタリアンレストラン)で見かけた素敵なご夫婦のこと」

ちょっと時間を要したが思い出した。

「ああ、あの初老のお二人のこと?」
「ふたりで言ったじゃない、『あんなふうに、ふたりで年を重ねて行けたらいいね』って」
「・・そうだったね」
「あのお二人はきっと、お互いのこと、何もかも知っている。そんなふうに感じたわ。心の中だってその気になれば手に取るようにわかる。それがもしも二人にとって不必要なことであったなら、お互いの記憶のフォルダからそっと削除してしまう。例のあの場所へ行っても思い出すことのないように・・・」

それって・・・少し考えてから、ぼくは、そう、と言って後を続けた。

「二人の思いがいつまでも新鮮であるための『ソフト』かな?」
「そう、そうね!」

今日の浩史は冴えてる。そう言いながら、香瑠は軽く膝を曲げ、バスタブのふちに片手を置いて僕の頭をなでた。

「よせよ香瑠!僕の方が年上なんだからね」
「はいはい、たった半年だけどね」
「・・・・・・・・・・・」

「体毛のことだって、わたしは毛深いのは本当は苦手なの・・・でも浩史がそうだったら、わたしの目にはシルクの糸に見えるはず。きっとわたしの中にあるソフトがわたしの目にフィルターをかけちゃうわ」

「それ『二人の想いがつまらないことで色褪せないためのソフト』だね」

香瑠が目を大きく開いて小刻みに何度も手を叩きながら言った。

「ホント、今日の浩史は冴えてるー!」
「解ったよ君の想いが、・・・君を見せてもらう。そして瞼の内側にしっかり焼き付けよう。いくつになっても色褪せないようにね」

香瑠はまた泣いた。今度の涙は100%本物に違いない。











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