「もうひとつのラスト」  第11話 | ノベルの森/アメブロ

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「解ったよ君の想いが、・・・君を見せてもらう。そして瞼の内側にしっかり焼き付けよう。いくつになっても色褪せないようにね」
香瑠はまた泣いた。今度の涙は100%本物に違いない。
第10話 文末
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「もうひとつのラスト」  第11話


「嬉しい涙よ」そう言って香瑠は再びバスタブに片手を置いて僕にキスをしてくれた。
名残惜しそうに唇を離す君に、ぼくは言った。

「これが最後じゃない。これからはいつだって隙を見つけては君のキスを盗み続けるから」

彼女は何度か小さく頷きながら立ち上がると、背中に手を回した。

「ちょっと待った!香瑠、悪いけどそのままちょっとだけ待って!」



香瑠は、何?という顔をして、両腕を前に戻し彼女の身体を抱くようにした。(好きだなあ、このポーズ・・・)

おっと!見とれてる暇はない!僕は自分の脳の中に、13歳から今までの鮮明な記憶を納めてある。その「特別なフォルダ」に今日これからの新しいファイルをインストールする為に、僕自身の画像処理能力を極限にまでアップグレードした。


「O・K!香瑠、待たせたね、始めて」とぼくはそう言った。
香瑠は溜息をついた後、口角を小さく上げたまま、頷いた。

「これじゃまるで、映画のクランクインね」

「そうだよ、僕は今、世界一幸せなカメラマンをやっている」

指で四角を作り、それをファインダーに見立て、香瑠を撮っている格好をつけながら、僕はそう言った。

「じゃあ、私は世界一幸せな女優ね。共演者もカメラマンも、どっちも私がこの世でたったひとりだけ愛するあなただもの」



ブラのホックを外したのが判った。ブラ全体に緩みが生じたから。

ねぇ、と香瑠はブラの肩紐を下ろしながら言った。
「その指はずっとそのままなの?」

ああ、と答えた。
「こうしていると、ぼくの下のほうの誰かさんが、おとなしくなるみたいなんだ」
「そうなの?」
「そうみたい」
「ベッドの上でも?」
「いや、今夜はたとえ前菜が無くったって、メインディッシュはいただくよ」


良かった、と香瑠は嬉しそうにそう言いながら、もう片方の肩紐を下ろし、ほんとは、と言ってから、はにかみながら続けた。

「恥ずかしいのよ・・・」
「分かってる。ぼくは君の特別なんだよね?」
「その言葉・・・久しぶりに聞いたけど、今日は背中を押してくれたわ」

・・・本当にぼくは彼女の背中を押しちゃったみたいで、それからの香瑠は動きにためらいがなかった。そしてぼくは僕で、香瑠の専属カメラマンとして、一瞬たりとも彼女の動きを見逃すことなく、連写し続けた。


いつの間にか、バスタブの中でぼくは中腰になっていた。

香瑠はまず、ブラの肩紐から腕を抜く、左、右と、その度に片方ずつ形のいい、柔らかい(10年前に知っている)乳房が現れ、僅かに揺れた。

それからブラを片手に掴んだまま器用にショーツを下ろした。脱ぎ終えた下着をバスルームの直ぐ外にある脱衣かごに置いて引き返して来る。
バスタブの側まで来るその歩きは、流石に元モデル出身の元女優で、バスタブを跨ぐ時でさえ、格好よく、セクシーに見せてくれた。

ぼくの指ファインダーは、(カメラは僕の目)香瑠の動きを追ってパンする。彼女の脚がこっちを向いて止まった。こちらも停止。

長くしなやかな脚が、ファインダーの大部分を占めている。ちょっと近すぎるかな?そうは思ったけれどブレーキは掛からない。ぼくの指ファインダーが勝手に上を目指しパンし始めたその時、唐突に香瑠の顔が降りてきて、ファインダーの枠を完全に塞いだ!

わ!!と声を上げて、ぼくら撮影隊は(監督兼カメラマン)一斉に前を向いたまま後ろへダッシュした!バスタブの端にぶつかるまで。
浴槽のお湯が大きく揺れて、波が立った。









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