わ!!と声を上げて、ぼくら撮影隊は(監督兼カメラマン)一斉に前を向いたまま後ろへダッシュした!バスタブの端にぶつかるまで。浴槽のお湯が大きく揺れて、波が立った。
第11話文末
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「もうひとつのラスト」 第12話
情熱的でありながら、抑制の効いた撮影は順調に進んだ。
どのくらい時間が経過したのか?それが分かるほど冷静では無かったけれど・・・。
今、香瑠は長い手を大きく左右に開いている。
『全部見て頂戴』まるでそう言ってるみたいに。撮影していながら僕は胸の奥で特殊な痛みを感じていた。香瑠はもう、モデルでもなければ女優でもない。一人の人間、谷川香瑠(たにがわかおる)だ。それなのに僕一人のためだけに全てをさらけ出してくれている。ノーギャラで・・・。
「素敵だったよ香瑠!」ぼくはそう言うと、指のファインダーを解いた。
「撮影終了!お疲れ様!」
両方の手のひらを上にして、香瑠に向かって差し伸べながら僕はそう言った。
「もういいの?」と、彼女は僕の手に自分の手をのせながら聞いた。
「ああ、君の身体の何処に、いくつ黒子があるのか、すぐに再生できるように録画してある」
僕は自分の頭を指さして、そう言った。
「嬉しい・・」香瑠が言い終わらないうちに、ぼくは彼女の両手を手前に引いた。
そして、すべての気力を振り絞って、ぼくは膝を曲げて開いた。香瑠をその間に迎え入れるためだ。鼓動が香瑠まで伝わってしまうんじゃないかって、そう思えるほど僕の心臓はドキドキ踊っていたけれど、それでも僕は頑張った。
香瑠は、ぼくの手に摑まりながらバスタブの中で膝をつき、下半身をお湯の中に沈めた。
「頑張ったのね、えらいわ『私の特別さん』」
やっぱり鼓動は伝わっていた?
でも、そして何時でも、君にそう言われると何だか癒されるんだ。
君はぼくの恋人なの?それとも姉さん?たぶん両方なのかもしれないね。それはどっちにしても僕にとってとても居心地のいいこと。
香瑠は、膝をついたまま僕の足の間を進めるだけ進むと、両手でぼくの頭を包んでくれた。
「ねえ覚えてる?」と彼女は言った。「何を?」とぼくは聞き返す。
「10年前、まだあなたが私の事思い出せず『沢口杏奈』(さわぐち・あんな)だと思ってた頃のこと」
ぼくがつい、「うっ」と声を立てると、香瑠は、「クスッ」と笑って続けた。
「わたしが『この胸に顔を埋めたいっていう男性はたくさんいるのよ』って言ったら、あなたは『なら、大事にしておきなよ。未来の夫と赤ちゃんのために』って言ってくれた」
・・・思い出した。「ああ、確かに」
だったら、「今なら、大丈夫よね」
香瑠は、そう言うと、今まで見せたことのない優しい笑みを浮かべて僕の頭を引き寄せた。彼女の胸は搗き立ての餅のように柔らかく、温かかった。香瑠の甘い匂いとナノサイズのラブレターの宝庫だった!
「香瑠!ぼくはもう・・・」
「ええ、解っているわ。だってほら、いつの間にか誰かさんが私のお尻を撫でているし・・・私だって・・・」
そう言ったのに、香瑠はいきなり誰かさんをつかんで僕に返し、ぼくのそばから離れてから言った。
「言ったでしょ、私は基本的には古風なんだって。続きはベッドで!」
「そんなぁ・・・」
明けましておめでとうございます。
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