車で向かっている車内で
恐ろしいほど冷静に物事を整理していた
警察を呼んだ以上
どこまで話すのが正解なのか
1時間余りの道中
何度も何度も筋書きを作り直し
到着する前に
落ち度のない物語を完成させていた
くるみの家に着くと
予想通り警察車両が止めてあり
大事に至ったことを覚悟した
玄関は開いていて
中には数人の警察官
私は関係を尋ねられ
通報した本人だと告げた
部屋の中にくるみはおらず
警察官も現状を話さなかったので
生きていないものだと予想できた
最寄りの署に同行し
取調室の中ではじめて
くるみが死んだことを聞かされた
それでも自分を疑うほど冷静で
ここで泣いた方がいいのでは・・・?と
計算する余裕まであった
しかし・・・
事情を聞かれた際
車内であれほど練り上げた物語を
語ることに躊躇し
私は正直に知っている事を話してしまう
不思議だったのは
くるみが死んだことを
悲しんでいない自分がそこにいたことだ
湧いて出てくる感情は
卑しいかな嫉妬心
あれだけ気をかけたのに
なぜ修司から離れなかった?
それ見た事か!!
私は心のどこかで
ZOOに残った嬢達に
恨みを抱いていたのだ
そんな自分に気付き
人の死を前にして
それでも己が大事なのかと・・・
その後数年悩んだが
今なら分かる
自分の思い通りに
他人が動かなければ許せないという
傲慢な心
それを深く傷付けたZOOでの出来事
私の中で当時に経験した
修司とヤクザと薬という強烈なトラウマを
整理するのに長い年月がかかった
ある程度経験して分かった事だが
くるみは私と出会う前から
すでに覚せい剤を使用していた
思い当たる言動がたくさんあったし
精神が健康であったなら
間違ってもZOOに移籍してこなかっただろう
心の隙間
弱さを補う何か
それらのタイミングが合致し
私の誘いに乗ったに過ぎない
そこで修司に出会い
容易く薬が入手できる環境を手に入れ
彼女のタガは完全に外れしまい
暗い闇に引き込まれてしまった
それでも最後に我に返り
私に連絡してきたのは
何故か・・・?
救ってほしかったのか
自分がいたという証を
私に刻んでおきたかったのか
居なくなった以上分かりようもない
しかしこれだけは言える
今の私なら救えた
ひと時であるならば・・・だ
躊躇なく
初段階で警察に突き出す
だが・・・
覚せい剤に手を出して
まともな人生を送れる人を
私は未だに知らない
それだけ恐ろしいものだと知りながら
やりたいなら好きにすればいい
他人に迷惑をかけず
静かに死んでいく覚悟があるのならね・・・