徒然草枕

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京都市交響楽団のライブ配信を聴く(日本センチュリー交響楽団もチラチラチェックしながら)

 今日は京都市交響楽団と日本センチュリー交響楽団のライブ配信がほぼ重なる時刻に。日本センチュリー交響楽団の方をタイムシフトで聴ければと思っていたが、残念ながらタイムシフト放送はないらしい(なぜ?)。では京都市交響楽団がアーカイブになるのを待つという手もあるのだが、実際にところはこっちもアーカイブになるかは保証がない。結局は両者を天秤にかけて比較した結果、京都市交響楽団をチョイス。日本センチュリー交響楽団は裏で音を切った状態でちょくちょくチェックするという形に。

 

京都市交響楽団第643回定期演奏会

広上 淳一(常任指揮者兼ミュージック・アドヴァイザー)
森谷 真理(ソプラノ)

シューベルト:交響曲第5番変ロ長調 D.485
マーラー:交響曲第4番ト長調

 シューベルトは弦楽主体の非常に滑らかで美しい曲。爽やかさの中に優美さがある。こんな沈んだご時勢下には心安らぐような曲である。さすがに京都市響のアンサンブルは美しい。また広上はこのオケを徹底的に優しく美しく鳴らす。

 後半のメインはマーラーの4番。苦悩が見え隠れする曲が多いマーラーの中で、珍しいぐらいに清々しくて爽やかな曲がこの曲なのであるが、広上の表現はそれを徹底的に美しく、そして非常に明るく描く。ゆっくり目のテンポで進む第1楽章などはまさに天上の音楽を思わせる美しさ。やや暗い影がよぎる部分がある第3楽章でも基本的に音楽が暗黒面に落ちることはない。力強く生命の讃歌を歌い上げるかのような趣がある。そして天上の歌が入る最終楽章へとなだれ込み、音楽は美しくうっとりとしたまま終わる。

 さすがに広上節が炸裂していたし、広上の小動物的なタコ踊りも絶好調であった。そして京響も広上の意図に従って見事な音楽を展開する。この両者のコンビが既に最高レベルにまで達していることを改めて感じさせる見事な演奏であった。

 

裏では日本センチュリー交響楽団がかなりの名演の模様

 ちなみに京都市響が休憩に入ったところで日本センチュリー交響楽団に切り替えると、ちょうど1曲目のフィンガルが始まるところであった。このフィンガルがかなりの名演。この曲は下手をするとまとまりのないグダグダの演奏になることが多いのだが、センチュリーの小編成であることも効果を上げているのか、非常にまとまりの良いキレのある演奏。また裏の京都市響を意識しているのか、飯森もオケも非常に気合いが入っているのが画面を通じても伝わってくる。今回の飯森は明らかに「良い時の飯森」。音楽に躍動感があり生き生きとした生命に満ちている。

 次のメンデルスゾーンの2本のクラリネットのための協奏的小曲が始まったが、この曲は初めて聞く曲なのだがこれが結構格好良い。またクラリネットの演奏もなかなかに見事で名演の予感。途中で京都市響の休憩が終わったので断腸の思いで放送を切り替えたが、これは最後まで聴きたいという思いを非常に持った。

 京都市響のマーラー終了時にはベートーベンの交響曲第7番の第3楽章の途中であったが、やはりセンチュリーと飯森のただならぬ気合いの入り方が伝わってくる。相当に熱を帯びた演奏であり圧倒された。日本センチュリー交響楽団のコンサートは何度か行っているが、正直なところここまで熱を帯びた演奏は初めて聴いたような気がする。

 

ライブ配信のレベルでは残念ながらニコニコ動画の圧勝

 結局のところコンサートの内容としてはほぼ互角に近いような印象を受ける(センチュリーの方を断片的にしか聴いていないので断定はできない)が一番の問題だったのはライブ放送の品質。以前からカーテンコールのライブ配信は音質・画質共に問題が多いが、今回ももろにそれが出ていた。最初から音量レベルが低すぎる上に風呂場のような籠もった音声で明瞭さに欠ける。さらに致命的なのがマーラーの第4楽章で、ソプラノの声がかすかに遠くから聞こえてくるだけ。マイクセッティングが根本的になっていないのである。この楽章でソプラノの声が聞こえてこないことは音楽の本質自体に関わる重要事だけにこれは深刻。正直なところ、クラシック専門配信サイトを名乗っている割にはお粗末に過ぎると断言せざるを得ない。非常に残念なことながら、ライブ配信としてはニコニコ動画に惨敗と言わざるを得なかった。カーテンコールの今後の奮起に期待したい。

 今回の配信で日本センチュリー交響楽団はかなりプラスの宣伝になったろうと感じる。いろいろと苦境が伝えられるオケだけに、これが転機となれば喜ばしいことである。ただカーテンコールの方は逆に悪評が広がることになりかねない。まさかとは思うが「無料だから仕方ない」という認識なら、これは組織としての存廃に関わる事態であると考えた方が良いと思う。私としてはヨーロッパなどに比べて非常に遅れている日本のコンサート配信の現状を考えると、クラシック専門配信サイトに期待するところ大であるので、何とかしてもらいたいところである。