教養ドキュメントファンクラブ

自称「教養番組評論家」、公称「謎のサラリーマン」の鷺がツッコミを混じえつつ教養番組の内容について解説。かつてのニフティでの伝説(?)のHPが10年の雌伏を経て新装開店。

このブログでの取り扱い番組のリストは以下です。

番組リスト

3/22 TBS系 世界遺産「火山島バリ!600キロの大水路網と絶景の棚田」

火山の島バリ島の美しい棚田

 インド洋に浮かぶ熱帯のバリ島。火山島の荒涼たる溶岩台地の中に美しい棚田が広がる。1000年かけて人の手で作り上げられた絶景である。


『世界遺産』3/22(日) 4K特別篇 火山島 バリを覆う巨大水路網 〜バリの棚田と水利システム(インドネシア)【TBS】

 この棚田では米が二期作で栽培されており、稲刈りと田植えが同時に行われる。バリ島はインドネシア有数の米の大産地となっているが、それを支えているのが全長600キロにも及ぶ水路である。この水路は棚田に導かれ、順に下の棚田へと流れて行く。

 

水路の水源となる豊富な湧き水

 これらの水源はすべて湧き水である。その水は雨期の湿った季節風が山に当たって雲となって降り注ぐことで供給されている。降った大量の雨は湖に流れ込む。最大の水源はカラデラ湖であるバトゥール湖。大量の水を湛えているが、不思議なことにこの湖から流れ出す川は一本もない。バリ島の地盤は溶結凝灰岩というキメの粗い火山岩で出来ている。水はこの岩石の中を抜けて各地に湧き出すのだという。

 

水と共に生きてきた人々

 水のあるところは必ず聖なる場所として祀られている。やはりカルデラ湖であるタンブリンガン湖のそばにも水を祀る寺院が建っている。ここの湖の水が減った時に湖にそなえたお供えが、山を越えて15キロ離れた麓の泉から湧き出したという伝説がある。その泉は今でも水を湛えており、供え物の泉と呼ばれ祀られている。このような水寺院は島全体で1600以上あるという。これらの聖なる泉は沐浴に使用された後に棚田の水路に流されて農業に利用される。水路の分岐点には必ず小さな祠があり、稲刈りを始める前には水を撒いて感謝を捧げるという。

 これらの水路は同じ水路を使う島民達によって保守されている。同じ水路を使用する集団をスバックといい、これは「流水の分配」を意味する言葉だという。水路の水は公平に分け合えるように水の取り組み口の幅が決定されている。このスバックでは田植えや稲刈りが集団で行われるのだという。

 

 何やら自然を敬いそれと一体化して生きていくという、日本の農村集落の原点を見たような気がします。日本人にとって自然を敬い尊重するものから、技術によって支配して利用するものに変わったのはいつ頃からだったろうか。最近になって、そのしっぺ返しを食らっているような気がしてなりません。自然と共生という概念は農村集落が中心のアジア的な概念なんですが、これに対して狩猟民族だったヨーロッパ人は「産めよ、増やせよ、野に満ちよ」で自然は克服すべきものという考えがまだ強いです。しかし最近になってヨーロッパでもその考え方に限界を感じて、アジア的な思想に歩み寄ってくる動きは起こりつつあります。下手したら日本人は周回遅れになっているかもしれない。

 

忙しい方のための今回の要点

・バリ島には全長600キロに及ぶ水路によって支えられた棚田が存在する。
・これらの棚田は1000年に渡って作られたもので、棚田では米の二期作が行われており、バリ島はインドネシア有数の米の大産地である。
・棚田の水源は湧き水であり、この水はカルデラ湖に溜まった雨水が、キメの粗い溶結凝灰岩の中を流れて湧き出したものである。
・水のあるところは神聖な場所として祀られており、水寺院と呼ばれる施設が1600以上もある。
・水路は同じ水路を使用するスバックとよばれる集団によって維持されており、水の分配も公平になるようになっている。このスバックは共同で農作業をする単位でもある。


忙しくない方のためのどうでもよい点

・こういうシステムを見ると、ヨーロッパ的な視点では「遅れた未開な文明」と判断しがちなんです。しかし実は長期にわたる持続性という意味で考えると、一番進んだ型式である可能性があります。
・現在の欧米型の農業は大量の肥料を注ぎ込んで一気に大きな収穫を得ますが、結局は土地を疲弊させて農地の生産力はドンドンと落ちていき、それを補うためにさらに肥料を投入、それでも土地が痩せるからついには遺伝子改変作物まで投入という形でドンドンと農地をダメにしていってます。そういう農業の仕方から路線変更する必要が出てきているようです。

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