2020.3

モヤモヤした気持ちを残しながら、
それでも彼に会えるわたしの心は高鳴っていた。

夜、予定があったので
午後の早めの時間に行く。
閉店まではいられない。

・・・当然ハグもできない。

それでもわたしがガラス扉の外側から
彼の姿を確認すると
わたしに気づいた彼は嬉しそうに笑った。

顔を見ただけで

ホッとした気持ちとか
久しぶりに会えた嬉しさとか
でも
なによ、フン、
みたいなやさぐれた気持ちとか


いろいろな感情が溢れてきて
涙が出そうになる。

だけどわたしは努めてクールに
ずっと会いたいと思ってたなんて悟られないように

「元気?」

と訊くと、

「ヤバイわ。死ぬな俺。」

と言った。

わたしは途端に彼の身体が心配になって、
自分の気持ちばかりになっていた自分を
猛烈に反省した。

「大丈夫なの?」

わたしが言うと彼は

「大丈夫だよ」

と笑顔を見せた。

いつもより時間が少なかったこともあり、
わたしは淡々とジムでの運動に没頭し、
彼はいつものように
わたしの問題点を指摘してくれたら
2週間前にできなかった課題を
次々にクリアできた。

予定の時間が迫ってきたので
少し物足りなかったけど終わることにした。

2階で着替えを終えて階下に下りようとすると
彼が登ってきて、
わたしの手を掴んでロッカーの前まで戻ると
フワッと後ろから抱きしめてきた。

「来週はさ、時間作るから」

「無理しなくてもいいよ?
忙しいんでしょ」

「いや。無理。
俺が耐えられない」

「それじゃ、それまで死なないでね」

わたしが言うと彼は笑った。

靴を履き替えて帰ろうとすると、
彼が大きな包みを渡してきた。


なぁに?

わたしが驚いて訊くと、

「この音でわかんない?
いつものだよ」

と言った。

「オンラインショップで取り寄せたから」

それは、わたしが彼に出したことのある
お菓子だった。
わたしがハマっていたそのお菓子に、
誰よりも反応してくれたのが彼だった。

「えー!なんで?」

「昨日なんの日かわかる?」

彼に言われて初めて、
昨日がホワイトデーだったことに気づいた。

オンラインショップ以外では売っていない味のものを
いろいろ取り寄せてラッピングしてくれていて、

「えー!意外!嬉しい!」

と声をあげると
彼も嬉しそうに微笑んだ。

去年も渡したけど
お返しは特にもらわなかったし
だから今年ももらえると思っていなかったので
驚いたけど、
覚えててくれたんだな、と、
嬉しく思った。

夜、

「今日は来てくれてありがとう」


LINEがきた。

いつもはそんなLINEは送ってこないので、
彼なりに何かを感じていたのかもしれない。