2019/11/10

Dexter Gordon Quartet / Manhattan Symphonie ('78)

A1As Time Goes ByB1Body and Soul
A2Moment's NoticeB2I Told You So
A3TanyaB3Ltd
 映画『ラウンド・ミッドナイト』をごらんになった方なら、おわかりでしょう。デクスター・ゴードンは背が高く、そして動作の鈍い、じつに絵になる男でした。でかくて、とろい。そういう特徴は、外見のみならず音楽にも顕著です。
 ナンバーワン・テナーマンになり得る才能に恵まれながら、ハード・バップ全盛の50年代を薬物中毒で棒に振り、後発の同業者ロリンズやコルトレーンに大きく水を開けられちゃいました。そういう意味でのとろさも、人間臭くて好きだ。

 まずは何といってもA1。まるで原曲の歌詞を噛んで含めるかのように、やさしく、いつくしんで、テナー・サックスへと息を吹き込むデックス。その音色は太くて、深い。あたかも使い込んでツルツルになったスエードの手袋のような、歳月や風雪のもたらした味わいがあります。
 映画『ラウンド・ミッドナイト』序盤における「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」は、このバージョンを再現しようとしたのではないかなあ。

 デックスのテナー・サックスは、急テンポの曲でとろさがいっそう際立ちます。ワンホーン・カルテットの本作は、とろい親分、いらちなリズム・セクション、両者の対立抗争が聴きどころです。

「どうしてウチのボスはこんなにとろいんじゃ!」と若頭のジョージ・ケイブルスが猛り狂い、まるでピアノをマシンガンのように乱射するB2が凄まじい。ヘヴィーメタルのギタリストかお前は、ってなくらいの鬼気迫る高速ピアノ・プレイです。
 しかしデックスにはきかぬ。きかぬのだ。子分たちの訴えも糠に釘。悠々と、マイペースでサックスを吹いてます。何というでかさ。何というとろさ。

 そうか、これは馬場だ。リング中央で、動かずに立っているだけで相手を呑んでしまう圧倒的な存在感。決して相手のペースに合わせない試合展開。デクスター・ゴードンは、テナーサックスのジャイアント馬場だったのです。ボクにも吹けた。

 デックス、伴奏陣ともに好演する本作、残念なことに少々長いです。両面合計で50分を超えてしまいました。さすがにこれはつらい。片面15分、両面で30分くらいにまとめてほしかったですなあ。
★★★

Dexter Gordon: Tenor Saxophone
George Cables: Piano
Rufus Reid: Bass
Eddie Gladden: Drums

Produced by Michael Cuscuna
Executive Producer: Maxine Gregg
Recording and Mixing Engineer: Jerry Smith
Editing Engineer and Tape Operator: Ken Robertson
Recorded at CBS Recording Studios, New York, New York
Design: Ed Lee
Photos: Ronald G. Harris

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