2020/02/29

Eric Carmen / Change of Heart ('78)

A1Desperate Fools OvertureB1Change of Heart
A2Haven't We Come a Long WayB2Hey Deanie
A3End of the WorldB3Someday
A4Heaven Can WaitB4Desperate Fools
A5Baby I Need Your Lovin'
 エリック・カルメンのアルバムが手元に1枚くらいあってもいいかな、と思って買ったもの。
 アリスタ時代の、彼のアルバムならどれでもよかった。1stや2ndと比べると、ジャケット・デザインが秀でていたこいつにしたわけです。

 どうですかこのデザイン。色のないモノクロの世界だけに、光と影の構図が寸分の隙もなく完成されています。見事じゃ。

 サマンサ・サングに提供した「チェンジ・オブ・ハート」の作者バージョンがB1。
 ダラダラと無気力に歌って、なかなか得難いテイストになっていたサマンサのそれと、あまりにも違うのでちょっと驚きます。作者バージョンはじつにキビキビと、こざっぱりと歌われているのでした。

 永遠の愛を誓ったあなた。しかしあなたの心はうつろい、さすらい、やがて迎える別れの朝。
 まあだいたいそういう内容の歌詞です。愛を失った心の痛みを、苦しそうに、呻くように歌ったサマンサに対し、作者のエリック・カルメンは軽快に、サッと流しています。

 苦しいのは、どちらもいっしょ。男女差なんてない。しかし私が共感を覚えるのは、だんぜんエリック・カルメンの方。
 破れたハートを、笑顔で隠す。つまり寅さんです。70年代アメリカ西海岸にも、寅さんがいたのです。

 そういえばずいぶん前に、ウィーンの市長が飛行機の機内上映でたまたま『男はつらいよ』を見て、すっかりファンになってしまった、なんて話がありましたね。
 恋に破れても、泣いたりわめいたりしない寅さんのダンディズムは、昭和ニッポンに止まらない、普遍的なものなのでしょう。あらゆる時代の、あらゆる場所に、寅さんがいるのです。

 エリック・カルメンが、寅さんを知っていたのか否か。それはわかりません。たぶん知らなかったと思う。しかし彼の中にも、寅さんがいます。私たちリスナーの心にも、もちろん寅さんがいて、お互いの寅さんが太平洋を越えて握手し、ハグし、酒を酌み交わすのです。人種も言語も、国家も文化も、そして時代さえも異なるポピュラー音楽に共感するというのは、きっとそういうことなのでしょう。

 帽子をかぶって座っているエリック・カルメンが、だんだん寅さんに見えてきた。
★★★

Produced by Eric Carmen
Engineered by Greg Ladanyi and Dennis Kirk

Assistant Engineer: George Ybarra
Recorded at the Sound Factory, L. A.
Mastered at A&M Studios by Bernie Grundman
Aphex System

Art Direction: Donn Davenport
Photography: Garry Gross
Stylist: Nora Lee

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