機械系の扱いやすさは地上操作によるもの
人工衛星の扱いやすさは軌道上に上がって運用時での取り扱いのしやすさによります。
今後、多くの人が人工衛星のデータを取り扱ったり、ミッション機器の操作をするには運用時の取り扱いのしやすさをどう工夫するかによります。
コマンド一つで、メールあるいは専用回線を使用して自動で運用するシステムを構築できると、とても楽です。
とても楽であるということは、人がいらないということです。
人がいらないということは、複雑な運用が必ずしもできないと言訳ではありません。
実際のところ、現在の人工衛星は半自動的であることが多いようです。
人工衛星自身の回転速度を感知し、自動で調整をし始めることから、電力が低くなれば、それ以上電力を使用できないような省エネルギーモードに移行することもあります。
ただし、選択肢が多すぎるとバグも発生してしまいます。
想定以上の動きをしたときに、半自動でプログラムされていた行動がどこまで有効か、自動で動き出したプログラムが逆に事態を悪化させないか考える必要が出てきます。
実際のところ、考えるというよりシミュレーションで確認していくしかないかと思います。
あるいは確認作業が煩雑になるため、シンプルな運用を目指すという考え方もあります。
人工衛星を複数打上げることができれば、初期はシンプルな運用だけであった者に対して、後続号機で機能を追加していくというものです。
日本の従来の人工衛星は、打上げ機会が多く取れなかったために、一つの人工衛星に多くの機能を追加したり、壊れないように多くのシミュレーションを実施してから打ち上げるということが多かったのではないでしょうか。
従来の人工衛星の作り方と、スタートアップあるいはコンステレーションの人工衛星の場合は、今後前者で上げたようなシンプルな運用を目指していくものの方が多いのではないでしょうか。
シンプルな運用、シンプルな衛星とはCubeSatのように小型で軌道上の目的もシンプルなものであるためうってつけです。
今はちょうど転換期なのかもしれません、かつてシンプルな機能を持った人工衛星を打上げていた各国が、少しずつ機能を追加あるいは高品質にして打上げるのです。
数が少なければ高品質のものが勝ちますが、高品質のものであっても数が多く集まれば、数に勝る方が勝てるのです。
1点集中、各個撃破というのはよく聞く話です。
高品質ではなく、相手に勝てるところを作り、徹底的に攻める。どうも現代世界の戦い方はどこも同じようです。
数をこなしていけば、品質も上がっていく。この数をこなすチャンスを与えるために、政府や投資企業がこぞって宇宙企業に投資し始めたのはこういった理由があるのかもしれませんね。
さて話は戻り、現在の人工衛星の運用は、より簡素に、少ない人数で、ミスが起きない操作が求められます。
人工衛星と違い、運用をコントロールすることの多くは、地上局のプログラムによります。
人工衛星のように、限られたスペックの中で動作するものを取り込むのではないため、今後、より便利で簡易的なものになってくるのではないでしょうか。
複雑な運用は、人員を必要とするために、人に偏った運用となり、運用でカバーという、ヒューマンエラーを作り出す要素を残してしまうのです。
形を設計してからは遅い、取り組むべき要素
人工衛星の機械系では、単にコンポーネントを配置するだけでは収まりません。
人工衛星開発のゲームがあったとしても、必要な機器が配置されるのみで、もっと必要な要素が入らないことがあるのです。
必要な要素は、試験に使う箇所があるということです。
振動試験なり、熱試験なり、どうやってその試験をするのか考えなければいけないのです。
力技であれば、ある程度は解決しますが、力業ではどうにもならないことがたくさん出てきます。
力技に頼るということは、人工衛星にダメージを与えるということになりますからね。
機械系としては、軌道上に打ち上がるまでの環境を振り返ることが必要です。
ロケットに結合させるインターフェースはもちろんですが、人工衛星をどうやってロケットのインターフェース箇所まで持ってくるのか。
どこまで手作業で、どこからクレーンを使うのか。
クレーンでなくとも、治具を用いてどうやって移動させるのか考えていく必要があります。
クレーンを使う場合は、引っ掛ける場所が必要になります。
ただ引っ掛けるだけではなく、引っ掛けるフックの数やサイズも検討する必要がります。もちろん、吊り上げている途中で、フックや人工衛星が壊れないために構造計算が必要です。
吊り上げるところに、1G以上の負荷がかかります。
使用するクレーンの速度。自動でクレーンを動かせるのであれば、どの程度の速度まで問題ないかを考慮する必要があります。
ということで、フックあるいはアイボルトを締結させる、それなりに硬い場所を選定しておく必要があります。
締結穴は、ロケットに搭載するときに使用できればいいのですが、他にも試験で使用することになるかもしれません。
パネルがある場合は、パネルの展開試験の時に邪魔にならないような箇所を締結穴に選定する必要があります。
そもそもパネルの展開時に接触してしまうようであれば、吊り上げでの試験は不可能ですので、別の部分で固定することを考えなければいけません。
それが不可能であれば、パネルは人工衛星本体に結合せずに、単品で確認することも考えなければいけません。
単品で確認すると、人工衛星とのインテグレーション時での試験していないから、心配になるということも考えだしたら、やっぱりパネルの展開試験でも邪魔にならない位置にフックやアイボルトの締結箇所を設計初期から盛り込んでおくべきです。
インテグレーションを考え始めると事態は少しややこしくなります。
人工衛星のインテグレーション前とインテグレーション後 、それぞれの試験では機械的にも分かる大きな違いがあります。
機器の配置やケーブル長、コネクタの噛みこみ具合が違う可能性があるのです。
機器配置が違うことでの影響は、姿勢系の精密な姿勢情報を取得するためのベースラインが明確に違います。
配置により電磁力も変わるため、ノイズ干渉も発生してしまうこともあります。
熱的接触の違いから、機器の放熱に失敗し、熱を籠らせて電気的に環境が悪化することもありえます。
吊りだけではないのです。
インテグレーション後でもなるべく容易に電気試験を実施できるようなコンフィギュレーションが可能なように、一部分解や組み立てが容易なように締結ネジの方向や配置にも気を配る必要があります。
人工衛星の試験中は、不具合などで機器に触ることも可能性に考慮入れておくべきです。
もちろん、人工衛星のコンステレーションにより複世代目の開発・製造ではそうそう分解することはありませんが、1代目や新規要素が含まれている場合は、よくよく人工衛星の構造上のパネルを開いて分解してしまうことが多いのです。
つまり、インテグレーション中の電気試験や、不具合対応のための開梱も考慮に入れて、便利な締結穴を用意していたり、治具を検討しておく必要があるのです。