クリーンルームは清浄度の管理された部屋のことである
クリーンルームは、ゴミ一つない清浄な部屋という印象を持つかと思います。
正確には違うのです、清浄度が管理された部屋なのです。
ゴミ一つ落ちていなければ、掃除をする必要もないではないですか、掃除用具もなければ掃除機もないはずです。
しかし、クリーンルームの中にもチリやゴミはあるのです。
実際のところ、清浄度のレベルの違いによって発生してしまうのです。
もし、クリーンルームの中にほこりや虫の死骸があったとしても失望しないでいただきたい。
どこの施設にフォローを入れたか分かりませんが、クリーンルームの中の清浄度は色々とレベルがあることを知っていただきたいのです。
さて、調べたところによると、日本のロケットイプシロンのユーザーマニュアルの中に清浄度環境があったので記載しておきます。
ちなみに、ユーザーマニュアルとは一般的な説明書みたいなものです。
人工衛星は色々なカスタマイズを行うために、一品ものと称されることが多いのですが、ロケットは形というか構造がほとんど決まっています。
ただし、人工衛星と接続する部分であったり、ロケット内部のデータ取得のための機器など、オプションによって違います。
共通する部分をユーザーマニュアルで記載し、これ以上の要求があるならオプションとして追加料金が発生するという、乱暴な言い方でいうとそんな感じなのです。
まあ、よくよく考えてみると自動車と同じですね。
宇宙業界にいると、忘れてしまう人もいますが自動車と同じで、別に不思議なことでもないんですね。
http://www.jaxa.jp/projects/rockets/epsilon/pdf/EpsilonUsersManual.pdf
ロケット上段への組立/結合時のクリーンルーム:クラス100,000
設備動への移動:クラス5,000
ロケット全段組立:クラス5,000
さて、突然、単位のない○○クラスといっても理解に苦しむところなのでISO 14644-1と米国連邦規格であるUSA Fed.Std.209Eを再び引用しておきます。
ISO Class5:Fed.Std.209E クラス100相当
0.5μmの粒径が1m3以内に3,520個
0.3μmの粒径が1m3以内に10,200個
ISO Class6: Fed.Std.209E クラス1,000相当
0.5μmの粒径が1m3以内に35,200個
0.3μmの粒径が1m3以内に102,000個
ISO Class7:Fed.Std.209E クラス10,000相当
0.5μmの粒径が1m3以内に352,000個
ISO Class8:Fed.Std.209E クラス100,000相当
0.5μmの粒径が1m3以内に3,520,000個
さて、調べていくうちに、どうもJAXA相模原キャンパスでは、ISOクラス1のスーパークリーンルーム「フロアーコーチEz」があるそうです。
まずは宇宙以外の用途としては、精密部品であったり医療、微小試料の分析研究に使用されることが多いようです。
画像での作業者の服装を見る限りは、すべてがISOクラス1ではないようですが、類似シリーズの製品を使用していることが分かります。
さて、宇宙関係ではまずは、大型低温重力波望遠鏡かぐやです。
検出器に入るレーザにコンタミネーションが入り込むと観測データに影響があるようで、望遠鏡の鏡の部分に取り入れらえているようです。
次は、JAXA相模原の研究室で、人工衛星や地上アンテナに使用される電子デバイスに使用されているようです。
半導体製造の過程でコンタミネーションがデバイス内部に入り込みことで発生する影響を軽減させるために使用されるているようです。
あとは、実際に宇宙用に使用されているか明言はなかったのですが、光学レンズメーカーのオハラです。
オハラはハワイに建設が予定されている口径30mの望遠鏡Thirty Meter Telescope(TMT)や上記の大型低温重力波望遠鏡かぐやの鏡(レンズ)を製造しています。記事によるとクラス1000のレベルですが、高精度を要求されるレンズの製造には使用されているとみてもよいのではないでしょうか。
清浄度管理に関しては品質保証プログラム標準でも規定しており、「JERG-0-017 品質保証プログラム標準解説書」で次のように管理することが望ましいと記載されています。
作業環境、工具、治具、取扱、貯蔵等の容器及び検査器具等の清浄度要求を文書化し、その要求に従い物品等の加工、処理、組立、配線、検査及び試験の現場を管理し、物品等の汚染を防止する必要がある。技術文書には、清浄度要求とそれを満足させるための維持と測定の方法を規定する。
工具、治具、検査器具等は、必要に応じ技術文書に従って使用前又は使用中に清浄度の確認を行う必要がある、また、管理が要求された場所は、定期的に清浄度の検査を行い清浄度が維持されていることを確認する必要がある。
物品等の清浄度要求は、技術文書で指示されるが、物品等だけでなくそれを組立てたり試験する環境、設備についても清浄度要求とその維持方法を技術文書で規定し、物品等に汚染がないよう保証すべきである。
必要な場合は、作業者の限定又は認定をするなどして管理することが望ましい。
つまり、品質プログラムを計画し、品質プログラムの中に清浄度を規定してくださいと言っているのです。
ただ、品質プログラムは(おそらく)かなり上位文書になるため、「清浄度を規定する」とだけ記載し、詳細な環境条件は改訂のしやすい別文書にて規定するというのもありかもしれません。
そして、清浄度は試験仕様書にも記載することにもありえます。
二重規定ならないように、上記、清浄度管理を規定した品質プログラム(あるいは詳細な環境条件が記載された文書)を関連文書として記載した方が、文書の改訂が少なくて済みます。
必要に応じて、手順書などには参考と記載し、常に上位文書のもと実施している旨、記載することで上位文書との差異による文書改訂の手間を減らすことができるテクニックもあります。
また、試験するときも管理(保管)するときも、清浄度の環境を測定する可能性もあります。
半永久的に人工衛星を製造するのであれば、清浄度の自動管理・記録を導入した方が良いでしょう。
もちろん、様々な事情で、一時的に、ある期間内のデータを取得するという限定的な運用をするというのも、理屈(チャンバーや密封コンテナ容器に入れて保管するなど)をするのもありです。
そもそも、JAXAも関わらないし、汚染されていても、打上げ直前にアルコール洗浄や人工衛星を高温真空条件下でコンタミネーションを吹き飛ばすので問題ない、という理屈もなくはないのです。
清浄度が打上げロケット側の条件に合致している(相乗り条件など)のはもちろんですが、汚染されていても問題ないミッション機器の搭載、直前に高温真空条件をヒューマンエラーで壊してしまうリスク、洗浄による外部機器への接触破損リスクなどの対策をしていれば万全かと思います。
まあ、気を付けるの一言で済むのあれば、何も言うことはありません。
試験環境や輸送衝撃はいずこに
さて、人工衛星に限らず宇宙機を製造しようとしたときに、クリーンにしなければいけないクリーンにしなければいけないといいつつ、どこまでの環境にすればいいか目安となる値がJAXAの共通文書の中に潜んでいます。
今まで、過去の知見や組織の中で公言されない常識としてある一定の環境にしてきたかと思いますが、JAXAの共通文書の中にしっかりと記載されているのです。
正直、この画面で確認せず、ぜひ、原文にて確認していただきたい。
ちなみに公共規格も同文書内に記載しており、次の通りです。
※電子機器等の精密機器の組立、試験時には通常ISO 14644-1クラス8のクラス100,000)
一応、リンクは張っておきますが、改定などが発生する場合がありますので、JAXA標準といったワードで検索してもらいたい。
さらに注意したいのは、あくまで一例ということで、使用するコンポーネントや試験目的によって、より厳しい環境で試験する可能性もあります。
考えなく、環境要求の値を使用しない様に注意して決めないと、後々のシステム試験で、厳しい要求で試験する必要があるときにロジックが崩れてしまうので注意しましょう。
ちなみに、この一般環境標準は宇宙機と記載されていますが、一般物の落下衝撃の計算式や宇宙機に限らない梱包貨物-輸送時の振動について情報も記載しています。JIS Z
0200:2013. 包装貨物と合わせると、輸送振動試験の試験条件が炙り出されていくのではないのでしょうか。
まあ、宇宙関係以外でこのブログに辿り着いていればの話ですが
宇宙機用のコンテナや宇宙機専用の輸送スタートアップとか、立ち上げるのであれば熟読しておいた方がためになります。
火星や月への清浄度要求
惑星等保護プログラム標準がJAXAの中で制定されているのを知っているでしょうか。
既に、月や火星、衛星のエウロパやエンケラドスのミッション要求が存在しています。
ここで記載されているミッション要求とは最低限、到達すべき目標(制限)というものです。
もちろん、JAXA標準なのでJAXAが関係するプロジェクトに適用されるため、民間では必ずしも縛られない条件ではあります。
ただしこの標準は、国連総会決議によって発効している宇宙条約第9条の目的を果たすために制定されているのです。
シンプルにいうと、惑星という資源を人工物により汚染させるな、といったものです。
そこでは、基本ISO Class 8以上の環境下で構成され、達していない清浄度レベルの対象は十分に洗浄してくださいと、何度も記載されています。
もし、ISO Class 8未満の物体を打上げて、惑星に接近させるとしても、打上げから50年後までの落下しない確率を保つ設計をするようにという念の押しようです。
逆に、この条約が地球外惑星での自給自足の妨げになるのではとも思えなくはないのですが、どうなんでしょうね。
現在、日本においては月面活動の計画がありますが、そこで重要となるこの標準にはまだまだ”(現時点では定義しない)”といった一文が多く記載されています。
今日は書きすぎた。