人工衛星の質量はどこで決まるでしょうか。
最近小型衛星という話が出てきていますが、サイズだけではなく質量も小型になっています。
この人工衛星の質量はどこで決まるのでしょうか。
- 大きさ?
- コンポーネントの数?
- ミッションの規模?
- ロケットの種類?
どれもどれも正解ではありますが、最も効力が強いのは仕様書ではないでしょうか。
その次に、製品コンセプトといえます。
まあ、仕様書の中に製品コンセプトが明示されていれば物事はとても分かりやすいのです。
今回は人工衛星の質量の決まり方です。
あくまで決まり方の話ですのでツールの話はありません。
ホワイトボードを使っても
Excelを使っても
PowerPointを使っても
トレードオフマトリクスを使っても
ディメンションツリーを使っても
フローチャートを使っても
なんでも構いません。
手法の一つとして考えていただければと思います。
まずはユーザーからの仕様書です。
ユーザーの使用に質量について記載があればそれに従うしかありません。
しかしポイントはそこではありません。
ユーザーはなぜその質量にしたのかということです。
そこに製品コンセプトがあるんですね。
必ずしもユーザーが製品コンセプトを示すとも限りません。
これは人工衛星に限ったことではありません。
そこで仕様書から読み取る必要があるんですね。
- 例えば、国産のロケットである必要があるから、国産ロケットペイロードから決めている。
- 予算内で打ち上げ可能なロケットの候補のうち最も制限の低いロケットペイロードから決めている。
- 既にシリーズとして打上げており、そのシリーズと同じものを買いたいから過去のシリーズと同じ質量にした。
- より経費削減のために、ロケットペイロードを減らすため(ロケットは搭載質量によって打ち上げコストが変わる場合が多い)いつもより小さい質量とした。
- 最新の人工衛星のシリーズを購入したいため、質量の要求はない。
まあ、こんなところでしょうか。
なぜ質量を読み取る必要があるのか。
ユーザー側としては費用の問題があります。
設計側としては、対象となるロケットを知ることでロケットの振動のアタリを付けることができます。
ユーザーの仕様書にはサイズや質量の制限があったとしても、ロケットの振動まで書かれていないことが多いのです。
これは想像ですが、ユーザーがロケットの振動の知識がないということもあるかもしれませんが、ロケットに制限を付けないことにもあるのかもしれません。
つまり、軌道上に打上げることができれば、手段は問わないということなのです。
現在開発済みの人工衛星も打ち上げ手段がないから、ロケットを探すなんてことはよくよく発生しています。
すべてのロケットの環境に合わせ人工衛星を開発できればいいのですが。設計の結果でアウトプットされるものは、構造的にとても硬い人工衛星となります。
構造的に硬い人工衛星と言うことは重くもあります。
構造が重いということは、搭載できるコンポーネントに配分できるリソースが少ないのです。コンポーネントに配分できるリソースは少ないと、コンポーネントの性能に関わってきます。性能が落ちることでできることも少なくなり、宇宙の有効利用とは程遠いものしか作れなくなります。
そのことから、ある程度ロケットの目安は付けておく必要があるため、ユーザーの質量から分析しておく必要があるのです。
既にユーザーと契約済みであれば問題ないのですが、ユーザーからすればより安く目的に合った物体であれば問題ないため、RFPをもとに競合他社との価格と性能の競争を行っていくことになるのです。
RFPとは、日本の宇宙業界では、宇宙は国策によるものが多く、JAXAという研究機関を通じて依頼することが多かったため、研究提案書(RFP:Request For Proposal)を各組織から集い審査、選定していた経緯があります。
さて、大まかな質量が分かったとところで、質量を決めていきましょう。
初めに決めるのはミッション機器と呼ばれるコンポーネント機器です。
ミッション機器とは、気象衛星ひまわりでいえば気象を観測する機器、探査衛星はやぶさえいえば、天体表面の標本の採取機器や大気圏へ突入させるサンプル回収機器といったものです。
といっても、ミッション機器がすべてを優先というわけではありません。
ミッション機器の前に、目的が優先されます。
人工衛星の目的の中に、精度の高い姿勢制御を求められれば、ミッション機器と同等以上に姿勢軌道制御機器も優先度が高くなるのです。
例外はあるかもしれませんが、ミッション機器と同等の優先度が高い機器になりうる対象は姿勢軌道制御機器ぐらいでしょう。
ミッション機器と姿勢軌道制御の次は、電力制御機器となります。
電力制御機器で最も気を付けなければいけないものはバッテリー、すなわち電池です。
電池は人工衛星の中で超重量物なのです。
そして太陽電池セルの枚数などの電力収支を検討していく必要があります。
その次が通信機器となります。
通信機器の大きさは電波の送信や受信のしやすさに関わってきます。
この辺りまで決まってくると構造の検討も大まかに決まっていきます。
質量のリソースから、太陽電池セルの枚数や太陽電池セル用のパネルが必要となるのか、人工衛星の主構造などを決めていきます。
そこから残りの機器への配分を行いつつ、ミッション機器や姿勢制御機器をはじめとした、それまで決めていた機器のリソース配分の見直していきます。
リソース配分の中で、現状で難しければ、ロケットの変更や仕様書といった大本への変更も視野に入れていきます。
ただ、RFPの段階ではここまで踏み込むことはほとんどないでしょう。契約が決まってからといえます
目的実現へなりふり構わず行動を起こすことも必要になってきます。
ただしこれはマーケットインの考え方です。
ユーザーが欲しいと言っていた(仕様書に書かれていた)製品を提供するのだから仕様書が前提となります。
これが今までの人工衛星の質量の決まり方でした。
ただしマーケットインとは逆のプロダクトアウトの考え方も今後増えてきます。
これは開発側が打上げるロケットの目安を付け、ペイロードから機器を選定し、機能や性能を確定していくというものです。
この製品を提供・展開すれば、買ってくれるだろうことを前提で売り出していくのです。
マーケットインより新規要素が少なく、開発費が断然抑えられます。
多くの人工衛星開発のスタートアップ企業では圧倒的に後者のプロダクトアウトで作られているのです。衛星バスでの販売でも同じです。
人工衛星としての成立解を持ってきて、それに当てはまるようなミッション機器を製造する、先に挙げた順路とは逆にミッション機器の重量を後に決めるという手法を取ることも多くなってきています。
プロダクトアウトで製造する人工衛星はミッション機器の機能制限が発生してしまうことがデメリットですが、打上げ期間の短縮と即応性もとても高いです。
このように人工衛星の質量も、決め方が変わってくるため注意が必要です。