おもしろきこともなき世を
「面白く」
これは幕末ニッポンの革命児・高杉晋作、その辞世の句といわれています。
オモシロくもなんともない世の中を自分はオモシロおかしく生きてきた。
人生を面白くするのもしないのも、普段の心がけ次第である。
そんな句であると解説されるのです。
本日のテーマをこの句になぞらえて詠んでみると、
“食べにくきモノをとにかく食べやすく”
今日は食べにくい食材を食べやすく変えてきた、この地に生きた祖先たちの知恵。
それについて述べてみようと思うのです。
食べにくい食材が何であるかといえば、答えは
「大豆」
大豆は実に食べにくく、扱いにくい食材のひとつ、このようにいえるのです。
食の歩みを眺めてみると、ハードなものを工夫によって
“克服”
していく、このようなケースが少なからず見られます。
そして、そのストーリーを辿っていくと、先人たちの素晴らしい
「知恵の輝き☆」
に気づかされ、驚かされることも少なくないのです。
そこで今回は、「伝統食材」について考えてみることで、
医者を遠ざけ、クスリを拒む。
そんな生き方のヒントについて述べてみます。
■鬼と大豆
大豆は世界で最も多く栽培されている豆類なのですが、日本でも
「味噌・醤油・豆腐・納豆」
といった私たちの食卓に欠かせない食材の原材料になるものです。
大豆は、“畑のビーフ”なんていわれるように、タンパク質を豊富に含んだ食材なのですが・・・、
これが実に食べにくい。
大豆のタンパク質は、「難分解性」といわれる特徴があり、人体にはかなりハードな食材になるのです。
大豆に含まれるタンパク質の“グリニシン”という物質、これがとにかく
“カタ過ぎる”
ガチガチのタンパク構造を持った物質で、鬼退治の「豆まき」で大豆が使われるのも、このカタさと強さに理由がある。
カタい大豆を鬼にぶつけることで、散々にイヤな目に遭わせてしまう。
鬼が、こんなカタくてイタイものをブツけられるくらいなら、もうこの家には二度と
「来ない!」
こうして、禍いを家から退散させ、福のみの招来をひたすら願う。
鬼が逃げるほど、大豆はカタい。
先人たちのシャレ心が豆まきには込められているのです。
■知恵の宝庫!
大豆の煮豆は日本の伝統料理なのですが、グリニシンの固いタンパク構造質を壊すことができない。
そのことから、どれだけ煮豆を食べても体の中でその半分も
「消化できない」
といわれています。
こうした大豆の特徴を熟知していた私たちの祖先たちは、タンパク質が固くなる前に収穫して食べる。それが
“枝豆”
の伝統になります。
枝豆の状態なら、ムリなく美味しく食べられ、心地よく消化できるというわけです。
また大豆を砕くことで、そこから煮汁を取り出し、固めたものが
“豆腐”
になります。
豆腐も固い大豆を食べやすくした、知恵に満ちた食材の1つといえるでしょう。
また、「もやし」も同じ理由で食べられてきたわけだし、大豆の煮豆を作り、それをワラに包んで保温する。
ワラに住む納豆菌に大豆の固いタンパク質を食べてもらうことで、人が食べやすくなるように菌たちにお願いして加工してもらう。
それが納豆の知恵というわけです。
そして、同じく大豆を煮て、麹菌をはじめとした微生物たちに食べてもらうことで、カタいタンパク質をじっくりゆっくり、分解してもらう。
そしてほぼ完全に大豆タンパクが分解され、
“アミノ酸や有機酸”
などの深い旨味の味わいに変化していく。
さらに微生物たちが働くことで、生理活性物質といわれる豊富な栄養素をたくさん作り出してくれる。
それが世界に誇るスーパー調味料の
「味噌・醤油」
というわけです。
このように苦手なものを菌を始めとした周囲の自然の力を借りて、より食べやすく・より美味しく変えてきたのが、日本の
“伝統食”
古くから今日まで繋がれている食材群は、先人たちの知恵の宝庫であり、この先も代々繋いでいく、素晴らしい食材群であろうと思っているのです。
こうした伝統食材の素晴らしさを、今後もこのブログで発信していけたら良いなと思っている次第です。
■反自然食が堂々と!
でも、こうした素晴らしい伝統食材たちが今では加工の段階で、元の姿とは
「ホド遠い」
ものに捻じ曲げられてしまっている、こうした現状があることも事実。
味噌・醤油・納豆は発酵食品と呼ばれていますが、発酵の主役であるはずの菌たちが化学的に
“操作・培養”
されているのです。
発酵菌たちに放射線や紫外線を照射し、その後さまざまな薬剤で分離培養していく。
こうした人工改造菌を発酵食品に使っている。それはもはや
「当たり前」
になってしまっているのです。
自然食品店で売られている味噌も醤油も納豆も事情はみんな同じ。
大豆やお米などの原材料が有機や無農薬のものであっても、発酵菌は操作され改造されたものばかりとなっているのです。
自然食とは自然の摂理に則して作られた食材のことをいうのだから、これらの食材は
“反自然食”
といわねばなりません。
それはお酒も味醂もお酢も何も、事情は同じ。
反自然食が自然食の名で平然と売られている現状があるのです。
なぜだか天然酵母パンだけが別枠となっているのが不思議なのですが・・・。
それはさておき、私たちの食卓欠かせないもう1つの大豆製品の
「豆腐」
豆腐も実に巧妙で消費者からは見えにくい、そうした数々の操作がされている。
こうした現状があるのです。
■暴力の代償
最近は、安くないと食べものではない。
このような価格破壊ならぬ
「価格暴力」
が大手を振って堂々とまかり通る世の中になっています。
安いものが悪いと言いたいのではなく、安いものが当たり前になっている。
この現状を暴力と呼びたいわけなのです。
食材は安いのが当たり前で、高いのは非常識で悪いもの。そこに
“適正か否か?”
というモノサシが全く働いていない。それは豆腐であっても同じというわけです。
ムリな低価格を常に迫られるメーカー側は、以下の3つの対策でこの窮地を凌ぐしかありません。
1、ウソをつく 2、誰かに泣いてもらう 3、材料費を徹底して下げる
これ以外の手段は見当たらないのが現状です。
豆腐であれば、国産大豆などは夢のまた夢。
材料費が大幅に引き上がってしまい、価格暴力に耐えられなくなってしまう。
そこで使われるのが輸入大豆。アメリカ産、カナダ産、オーストラリア産の大豆を使うことを余儀なくされてしまうのです。
輸入大豆は遺伝子組み換えの心配がつき纏うものですが、そうであっても普通に使っているようでは、
「一丁38円」
の豆腐は作れない。そこで最も価格暴力のターゲットになるのが
“凝固剤”
豆腐を固める際に使われるこの凝固剤を工夫することで、何とか利益を生み出そうとするのです。
通常は、塩化マグネシウム(にがり)を使うのが豆腐本来の製法なのですが、これでは安く仕上げることができません。
そこで代わりに使われるのが、硫酸カルシウム(すまし粉)やグルコノデルタラクトン(グルコン)といわれるもの。
これらを使えば、塩化マグネシウムを使うよりも
「2倍以上」
の量の豆乳を固めることができてしまうのです。
これらはちょっとの量で大量凝固を可能にする、そんな強力な薬剤になります。
価格暴力下では重宝せざるを得ない、こういうことになるのです。
味に敏感な人なら、硫酸カルシウムやグルコンで固めた豆腐を即座に見抜いてしまう。
本来の豆腐とは違った味になってしまうのです。
特に、グルコンで固めた豆腐は苦味やエグミが出てしまいやすい。そのため冷やっこなどの生食用の豆腐にはあまり使われない。
グルコン使用のものは味の悪さを悟られないようにするために厚揚げ用として、よく使われるといった次第です。
こうして、大豆の量をケチって豆乳部分を薄くして、強力な凝固剤で固めれば、まともに作った場合よりも製造価格を
“1/3”
程度にまで抑えることができてしまう。価格暴力に耐えられる、こういうことになるのです。
■マヤカシを暴く!
では本来の塩化マグネシウムを使った豆腐なら、問題はないのか?こうした疑問が生じます。
当然、価格暴力下でコレを使うには使うなりの工夫が必要になる。それが
「乳化にがり」
の氾濫現象になるのです。
塩化マグネシウムを使って豆腐を作る際は、技術が必要になるといわれています。
投入後、スグに上手に適切に処理をしないと、不満足な状態で固まってしまう。
塩化マグネシウム・にがりを使った豆腐は、凝固スピードが速いといった特徴があるのです。
技術の乏しいメーカー、熟練のスタッフが不足しているメーカーにとって、ニガリを使った豆腐はハードルがかなり
“高くなってしまう”
失敗も多く、材料をムダにしてしまう温床にニガリ豆腐はなりやすい。
硫酸カルシウムやグルコンは凝固スピードが遅いので、初心者でも処置しやすいものというわけです。
そこで塩化マグネシウムを使いながらも、初心者でも簡単に豆腐を作れる凝固剤が開発されるに至りました。
それが「乳化ニガリ」になるのです。
乳化ニガリを使えば、そこそこの豆腐の味を実現でき、しかも失敗をカンタンに回避することができてしまう。
よって大量生産が可能となり、コストを圧縮するに至る。
豆乳の中で乳化ニガリが充分混ざり合ってから、徐々に固まっていくように工夫されている、
乳化ニガリはこうした薬剤というわけです。
しかもメーカーにとってオイシイのは、乳化ニガリを使っても、
“塩化マグネシウム(にがり)”
と表記できてしまうこと。
あたかも自然のニガリを使っているように見せかけることができてしまう。
価格暴力下でそこそこ味の良い豆腐製造に、もはや
『欠かせない』
乳化ニガリはそんな薬剤になっているのです。
■その正体は?
とはいえ、乳化ニガリであっても味が良くて安全性に問題がないのなら、
「良いんじゃないの?」
そう思われるかもしれません。
そこで乳化ニガリこと、「マグネスファインGT剤」の成分表示を見てみると、
“植物性油脂、塩化マグネシウム(にがり)、水、グリセリン脂肪酸エステル、ミックストコフェロール、ビタミンCパルテミート”
このようになっていると、『激安食品の落とし穴』で著者の山本謙治氏は指摘しています。
グリセリン脂肪酸エステルは、豆腐を作る際にどうしても発生してしまう泡を消すために使われる薬剤。別名、
「消泡剤」
と呼ばれるものになるのです。
食の安全を大切に考える私たちにとって、凝固剤の成分、そして消泡剤使用の有無は安全な豆腐を見分ける大きなポイントになるものです。
乳化ニガリに消泡剤は使われているにも関わらず、、表記をする義務は
“一切ない”
食の安全を思う人々が消泡剤不使用!と勘違いして、安心して買ってしまう。
こうしたケースが多発していると想像できるのです。
前出の山本氏によれば、アメリカでは塩化マグネシウム、本来のニガリを使ったもの以外の豆腐は販売されていないそうです。
本家本元の私たちの国でこうしたマヤカシが行われていることは、嘆きと悲しみ、それ以外に表現のしようが私にはないわけです。
本当のニガリを使った豆腐は安くないし、技術だって必要となるもの。
こうした知識と尺度を持って商品に接しないと、結果として
「ダマされる!」
そんな結果を招いてしまうのです。
以下で紹介するお豆腐は本物のニガリを使ったものになります。
興味がある方は是非、本来のお豆腐の味わいを安心して堪能してもらいたいと思います。
■食の安全・百冊読むよりこの9章!
~今日からあなたも自然食鑑定士!~
■参考文献