サノヤス、あなたも逝ってしまうのね……

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ここ最近、日本でも再びコロナ感染者が増加傾向にあるそうで、皆さん大変な環境におられることと思います。私もまたコロナ禍で仕事が大きく減少し、つらい中にあります。

さて、たびたび?このブログでも登場するサノヤスですが、なんと造船事業から撤退というショッキングな報道がなされました。

実は就活でお世話になったこともあります(結果は聞くでない……)。

今回はその内容を見ていきたいと思います。まずはサノヤス造船を知って頂きましょう。その後、本題に入ります。

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サノヤスとは

正確にはサノヤスホールディングスと呼び、造船事業は子会社であるサノヤス造船が担っております。もともと造船比率を下げようと言う動きがあり、2020年3月期決算短信では、売り上げに占める造船比重は60%となってました。

私個人としては、売り上げの半分以上を占める事業を手放すと言うのは非常に思い切った動きだと思います。もちろん、折からの造船不況とそれに続くコロナ禍で、造船企業は大きく被害を受けていたので、負債であったことも否めません。

さて、サノヤスホールディングスは①造船事業と②産業用・建設用機械装置や遊園地施設等の製造・建設・販売などを行うM&T事業(Machinery” と “Technology”)の2本柱で事業を展開しております。ちなみに、M&T事業は幅広く、大阪のHEPFIVEや東京のパレットタウンの観覧車なども作っていたりします。株主優待ではこの施設の利用券が配られてたそうです。

創業から水島への進出

実は、サノヤスの歴史は非常に長く、創業は1911年の佐野安造船所の創業まで遡ります。その後、1945年に当時の日本海軍に買収され一度会社解散となります。国に買収されると言う今ではあまり聞かれない事態が当時の状況を伝えるとともに、それだけの技術力があったことをまた意味してますね。

その後、1961年に陸機部門を設立し海陸両方に足を着けます。1967年には大阪証券所2部に上場するなど勢いを示し、オイルショックの翌年にあたる1974年に水島造船所が操業を開始となりました。

水島はドック長675m、幅63mであり、建造できる最大船型は8万総トンとなります。ドックの建設時期や能力から、VLCC市場への参入などが伺えます。事実、ドックは建造可能な設備能力を有してます。

※もっとも、サノヤス自体がVLCCを建造した記録はありません。中手企業で同時期に建設されたドックは大島造船所や名村造船所伊万里工場などがあります。

建造船種

事実上ドック1基であるサノヤス造船ですが、建造船種はバルカーが基本となります。大きさで見るとDWT6万程度のハンディマックスサイズからDWT8万2千クラスのパナマックスサイズまでが大く、たまにケープサイズやフェリーなどが見れます。

サノヤスのパナマックス型は同型としては世界最大級と自負しており、就活時には省エネ性と積載性を重点的に紹介されておられましたね。

実際100隻以上の建造実績があり、サノヤスの成長に大きく寄与していました。

発表の内容について

前提として知って頂きたい情報はこれくらいとして、いよいよ本題に入りましょう。

今回の事業譲渡は、サノヤス側の企業再編と言えます。まず、譲渡の理由を見ましょう。

譲渡の理由

造船不況が続いている現在ですが、サノヤスの建造船種であるバルカーは低付加価値船に分類されるもので、参入障壁が低く、決して利益率が良いとは言えません。サノヤス自身はこの不況に対応するため「作業船やフェリー等の一般商船以外の建造、舶用ガスタンク製造、船舶修繕工事の受注に注力するとともに、産業用・建設用機械装置や遊園地施設等の製造・建設・販売を営むM&T事業の拡充・強化に努めてまいりました」連結子会社の異動(株式譲渡)に関するお知らせ より)

不況対策としての多角化は、特段珍しい事ではありません。ただし、コロナにより主力事業である造船業はさらにダメージを負い、「新造船の不振を補完すべく期待していたM&T事業の事業環境も不安定な状況」となってしまったのです。あまりにも不況が強烈すぎるため、このまま抱えられなくなったのです。

操業確保のため製造原価を下回る船価での新造船受注を甘受せざるを得ず、ここ数年、大幅な赤字決算を余儀なくされた」とあるように、操業維持のための赤字受注が倒産に繋がった事例は産業を問わず多々あります。

造船業は特に設備産業であり、稼働させなくても費用が発生します。従業員についても社員約480名と協力会社員約350名と巨大なものであり、赤字でも操業をさせようとする意思がどうしても働きます。

新来島はどうして取得したのか?

私自身も、このタイミングでのM&Aは驚きました。「えっ、今!?」という感じです(笑)

新来島どっくについては、別の記事で企業紹介を投稿しております。よろしければそちらもご覧ください。

[再建王]坪内氏の遺産?新来島どっくグループ
企業紹介第3弾は、新来島どっくグループです。 新来島どっくといえば再建王「坪内 寿夫」氏と深い関係がある造船会社です。 その傘下には、かつて佐世保海軍工廠を引き継いだ佐世保重工も属していたほどで、もし坪内氏が経営参画しなければ佐世保重工は倒産していたと言われてます。

簡単にまとめると、中型特殊船を重視した建造戦略をとる中手造船専業企業であると言えます。再建王坪内氏が社長を務めたことでも有名で、あの佐世保重工業が一時傘下にありました。

ドックが魅力的だった?

新来島の新造ドックなどは瀬戸内を中心に広がっており、サノヤスの水島造船所は岡山にあるため遠くに出来るわけではありません。

また、新来島は中型特殊船を重視してはいるものの、小~中型バルカーも建造してます。ケミカル船や自動車運搬船だけではどうしても対応できないのでしょう。

しかし、中型船の建造が多いため、ドックもそれに沿ったものがほとんどです。長さ300m越えのドックは大西工場と豊橋造船の各1基しかなく、水島のドックは魅力的と言えなくはありません。

技術力や船種の補完のため?

年々厳しくなる環境規制に対応した技術開発力の強化や、規模拡大による資機材調達のコスト削減効果に期待する。同社と比べて、サノヤスは大型のばら積み船を得意とすることから、船種の補完関係も見込む。これまで参画できなかった大型船の受注も期待できるといい、森克司常務執行役員は「厳しい環境下で待っていては生き残れない。瀬戸内で事業を展開するシナジー効果を最大限に生かしたい」と話す」(新来島どっく「瀬戸内で相乗効果」 サノヤスから取得)とあるように、不況が続くことを見越して受注力の強化につなげるためとも考えられます。

事実、サノヤスは環境規制や省エネ性では優れた技術力を有しており、「パナマックスバルカーでEEDI(エネルギー効率設計指標)フェーズ3の規制値を世界で初めてクリアした」(サノヤス造船、次世代82型BC受注。世界初、EEDIフェーズ3対応)とあります。

世界的な環境規制の強化や不況対策としての受注力強化の可能性は確かにあるでしょう。

造船業は再編途中

日本の造船業は大幅な再編途中にあります。今回のように企業体が持たないと言う事例は今後も出てくるでしょう。それこそ、名村造船は株価が暴落し低迷を続けております。

ほかにも、三井E&Sは艦艇事業を三菱に譲渡し、大型商船の建造拠点であった千葉工場を売却し、中手造船専業企業の常石造船との資本提携に踏み出しました。ジャパンマリンユナイテッド(JMU)は今治造船と資本提携を結ぶ予定ですが、関係者の多くは今治による救済措置として見てます。三菱重工もまた香焼工場の建造ドックを大島造船所に譲渡する予定です。

このように、コロナによる影響で造船業界は一気に再編が進んでおります。

老舗の名門造船業が祖業を売却することは非常に悲しい事ですが、消滅するわけではありません。「新来島サノヤス造船」として、今後も建造が続けられます。

造船企業の陸上がりと言えば日立造船を思い出しますね。同社もまた陸上がりを果たした名門企業でした。

陸に上がった日立造船――復活にマジックはない あるのは技術力だ

終わりに

四面を海に囲まれた日本は、船なしでは生きていけません。造船業とはいわば国家の生命線と言っても過言ではないのです。日中韓とのし烈な競争で、多くの日本企業は傷ついております。しかし、だからこそ公的な支援が必要だと言えます。日中韓3ヵ国で世界の建造量の8割を占める中、日本の脱落は中韓に生命線を握られることと同意なのです。

日本造船業が滅ばないことを切に願います。

それでは。

 

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