マルチリンガル医師のよもやま話

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ダイヤモンド・プリンセスを俯瞰しよう ~船内は外国だ~

クルーズ船に忍びこんだ教授の告発動画などでさらに注目がを浴びているダイヤモンド・プリンセス号ですが、僕はこの件に関しては「俯瞰」して見ています。また、TV報道には正直少し違和感を感じています。(ま、いつもですが。笑)

僕は感染症の専門家ではないので、感染管理については述べる気はありません

今回のテーマはダイヤモンド・プリンセス号の「ニュースを俯瞰」して、この問題の背景を掘り起こしてみましょう。

この記事を読んだ後にはまた違った目線でニュースを見てみてください。

 

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The Diamond Princess

ダイヤモンド・プリンセス号

まずは情報整理が重要。この船は日本の船ですか?

いいえ、違います。日本人客が多いだけで、船籍はイギリスで、所有会社はアメリカのプリンセスクルーズ(Princess Cruise)という会社の船です。そして製造されたのは日本で、約5億ドル*1かけて作られました。なんとややこしい経歴。しかし、これは非常に重要なことなのでよく覚えておいてください

リゾート船の中ではラグジャリー船に次ぐ2番目プレミアム船に属します。

ダイヤモンド・プリンセス号は日本市場に目をつけて、日本発着のクルーズを数多く行っているのが特徴です。

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肺炎患者の発生

今回の航路は横浜からスタートし、香港→ベトナム→台湾と回って最後また横浜に帰ってくるようになっていました。

横浜(1/20)から乗船した80代の男性は香港(1/25)で下船し、その後に新型コロナウイルス肺炎に感染していることが判明しました。そこで、予定よりも1日予定を早めて2/3に横浜港に帰ってきました。

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検疫の開始

横浜到着翌日(2/04)に、さきほどの感染者と濃厚接触した可能性のある人たちを中心に273名を検査したところ10名が陽性反応を示し、病院に搬送されました。初感染者の下船が1/25なので最後の接触から最短10日目ということですね。

船内では下船できない人のためにショーやダンスパーティーなどを行って勇気づけていました。これが原因で船内感染が広がった可能性もかなりあると思いますが。

翌日(2/05)早朝から船内の乗員・乗客合わせて3700名(うち1/3は日本人)は、最大の潜伏期間に相当する14日間の船内待機を命じられました。これがいわゆる「検疫」ですね。

検疫についてはコチラ

www.multilingual-doctor.com

 

俯瞰1:停留と隔離

さて、上にも紹介した前回記事で検疫法について少し触れました。その中に「停留措置」というものがあります。要するに今回乗員・乗客の全員は感染している可能性があります。彼らが入国することで感染が広がる大被害が予想されるならば、一定期間(今回は14日間)停留させることができるのです。

ちなみに検疫法では「隔離」というのもありますが、感染の証明がない限り疑いだけでは隔離はできません。現に発症した人は病院搬送されましたよね。

 

俯瞰2:外国籍の船

日本製でイギリスの船籍でしたね。運航会社はアメリカの会社。はい、これがすべての根源です。国連海洋法条約では基本的に船籍を持つ国が排他的な管轄権を持つとされています。

要するにこの船の中の状況についてはイギリスが管轄権を持っており、日本政府が口出しできない(しにくい)状態なのです。乗客が下船すれば、そこは横浜、日本の地ですから日本政府の手が出せる範囲です。

つまり、最初の段階で日本政府が外国籍のクルーズ船に対して法を行使してできるのは、その船を停留させておく検疫だけです。あとは人道的支援として食料を提供したり医療側のサポートをすることは可能です。

世界各国が日本政府を批判しましたが、日本はルール上はこれ以上することにはかなりの制約がありました。もちろん、強制力はないにしろもう少しソフトの面(援助や指導)でうまくやれたのではないかという部分にはたしかにその余地はあるかもしれません。

さらに言えば、日本は感染者がいる可能性があるとわかっていたため、「入港拒否」もできました。現に、香港発のクルーズ船ウエステルダム号は日本は入港拒否し、後にカンボジアが受け入れてくれましたね。

ダイヤモンドプリンセス号は、日本人客が多いことや人道的意味合いから入港を受け入れましたが、本来責任を負うべきは日本政府ではなくイギリスであることはしっかりと認識すべきです。

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俯瞰3:メディアの野党化?

ニュースは注意してください。TVはご存知の通りNHK以外CMが流れます。つまり広告主に配慮されており、多少なりともバイアスがかかっています。

あと、もう一つ背景として、ここ最近野党は人気が低く機能していません。本来ならば与党と政策でぶつかり合って、お互い高めていかなければならない存在ですが、揚げ足取りに徹底しており(?)、モリカケ問題や、桜の会の問題に重要な国会審議をつぶしています。そこで、その野党の代わりにここ最近メディアが政府批判を強めているように思えます。

とりあえず多くのメディアは安倍政権批判をやるという方針なんでしょう。少し前までは「14日間もあんな船の中に置くなんて非人道的だ」とかいう批判スタンスから、今回は例の教授動画以降は「日本の管理は杜撰だ!隔離をちゃんとしなさい」と意見を変えて政権批判に。。。

ところで、船内から感染患者が増えてるのは政府の危機感のせいだけでしょうか?中の人は部屋から出れず文句を言うくらいの半隔離をされてるのですが。『人道的問題』をしつこく口にしたメディアは『乗客を励ますために開かれたショーなどでも感染が広がった可能性がある』とは口が裂けても言えないでしょう。

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俯瞰4:ポピュラリズム傾倒

TVは視聴率がすべてです。いま話題の人をTVに出演させると視聴率が上がる。そして、そういう人を利用してまたいつもの政権批判というお決まりの方向。

政府は完璧ではありません。ダメなところを批判してそれをいい方向に持っていけるのであればそれは有意義な批判です。

ただ単にできていないところだけを批判して、視聴率の取るために話題な人を出演させて、政権批判に徹する報道は本当に「メディア」のあるべき姿でしょうか。

これに関してはご批判などあることは十分わかっております。一個人の意見としてお受け取りください

 

まとめ

ダイアモンド・プリンセス号は日本生まれの外国船。

船内は日本ではなく外国。

法によってできるのは検疫・停留と人道的支援、救助など。

 

いかがでしたか?日本政府の対応は確かに後手後手に回っている「印象」でしたね。TVを見る限りは・・・

実際は法律上、色々と制限が多く身動きできない状況だったこと、クルーズ船と言う特殊な状況で「理想論」通りには完全にはいかないことはあまり伝えられず。

政府批判の材料にと野党も情報番組でも2時間だけ船にいた医師の告発側のみを大々的に扱っていますが、そうすることで、感染のリスクを負って現場で対応していた医療団の頑張りを完全に否定してしまうことがあっていいのでしょうか。政権批判の為なら彼らの頑張りはすべて無視してもいいという姿勢なのでしょうか?

本来責任を負うべき国は丸投げで受け入れた日本の対応だけを取り上げて批判する各国については触れないのはなぜでしょうか?

 

はい、一度遠いところから俯瞰してみると意外なことが見えてくるものです。

TVの報道も100%そのまま鵜呑みにするのではなく、少し引いた目で見ることも重要です。

 

最後に・・・

私はもちろん自分の意見が絶対正しいと思っていません。

政府のやり方も100%正しいとは思っていません。ただ、中で命を懸けて頑張ってくれている人たちの努力を無視するような行為、報道はおかしいと思います。

皆様のご意見よければお聞かせください。

 

*1:約560億円