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久々のシリーズ木に迫る第5回。季節は違うが、雪と木の関係について記していく。


冠雪害
 雪が降ると、雪の重みで枝や幹が折れたり曲がったり、斜面に降った雪の移動で樹木が傾斜する。根元から引き抜かれたり、積雪が沈降して枝が抜けたりと様々な害が生じる。

 樹冠に被さっている雪が夜間凍って枝葉に完全に付着すると、それが解けるまでの間、長時間低温状態に置かれる。これにより耐凍性の低い常緑広葉樹は葉の細胞が凍結して死んでしまうことがある。

 初春、サワラの生け垣などに雪が降り積もり、長いときには半月近くも凍った状態で雪が被さっていた部分では、雪が解けた後も枝から新しい葉が出ずに枯れていることがしばしばある。これは、一度耐凍性を解除したサワラの葉が長い間凍結状態に置かれたために、細胞が凍結枯死した結果と考えられる。


斜面を移動する積雪の害
 積雪の斜面の移動はゆっくりと滑ることもあるが、雪崩のように速度の速いこともあり、その速さと深さによって被害の程度はまったく異なる。雪が斜面を徐々に移動する場合、根元曲がりで済むが、雪崩の場合は樹木が引き抜かれたり幹折れしたりする被害が生じる。

 多雪地の斜面では、樹木がまだ小さいときは毎冬のように雪の移動によって木は倒され、春に雪が解けるとあて材を形成して起き上がろうとするということを繰り返しながら成長する。やがて樹木が積雪に埋もれなくなるほどの高さに成長すると倒れなくなり、順調に大きくなる。しかし、斜面が急になると樹木が太くなっても寝たままの状態が見られる。

 自然の力で曲がった樹木は、意匠性が高いとみなされ、それなりのお値段で取引されることもある。


枝抜け
 積雪が沈降して低い枝が抜けてしまう現象は多雪地ではしばしばみられるが、積もった雪が下から解けるためだ。

なぜ雪は下から解けるのか?
 降り始めの雪ほど大気中の汚染物質や塩分などを多く含み、凝固点、すなわち融点が低い。また、地面に接した雪は土壌表面のさまざまな物質と触れてさらに融点が下がる。加えて、土壌には有機物が堆積しており、それが微生物によって徐々に分解・発酵しているので、雪が被さって逃げ場のない発酵熱が溜まる。

 これらが重なって積雪は下から解けて沈降するが、上部の雪は外気温により凍っているので、積雪中に枝全体が埋もれたり冠雪の重みで垂れさがって積雪中に先端が埋もれたりしている下枝は、重い氷が付着した状態になっており、積雪の沈降によって引き抜かれることになる。


初春の根元周囲の早い雪解け
 初春、雪が積もった森の中で樹木の根元の周囲の雪が解けている現象がみられる。この現象に対してメディアなどでは、春に樹木が活動を開始して、そのときに生じる生理的な熱で雪を解かしているのだという説明がされているが、これは間違い。

 初春、外気温が上がってくると樹冠に付着した雪が解けて樹幹を伝わって根元に流れてくる。また、ときには雪ではなく雨が降る。そのときも樹幹流が発生する。樹幹流は、樹皮表面を流れてくるので、さまざまな物質を溶かしており、純粋な水あるいは氷に比べて融点すなわち凝固点が降下している。それによって樹木の根元の雪が解けやすくなっている。

木の杭を使った実験
 土に木杭を打ち付けてある場所に雪が積もってしばらく経ってから行ってみると、杭に接する部分の雪が周囲の雪よりも早く溶けているのが観察できる。

 これは杭を伝わって流れてくる雨水あるいは杭の頂部に積もった雪が解けて杭表面に付着している物質を溶かしながら流れ落ち、杭に接する部分の雪の融点を降下させたためと考えられる。生きていない木杭も森の中の樹木と同様の現象を示す。


参考:絵でわかる樹木の知識 堀大才著