ここ数年、翻訳もの中心に読書しているので英米で流行っている書籍が気になる。時折、アマゾンUSAのベストセラーサイトを覗いている。
 発売後、20年前後を経た「ハリー・ポッターシリーズ」が数冊、常に上位にランキングされているのが気になっていた。今日は「賢者の石」が1位にランキングされている。
 アマゾンUSAにはベストリード書籍というランキングがある。電子書籍では読者が読んでいる書籍がわかるので、週毎に最も読まれた書籍を発表しているのである。今日のランキングでは、上位20に「ハリー・ポッターシリーズ」の7冊が入っている。残りの13冊は最近のベストセラー書籍である。
 英米人は「ハリー・ポッター」を糧として育っているのではないかと疑わせる事態である。

 作者J・K・ローリング(本名: Joanne Rowling、1965~)は英国の小説家で、ロバート・ガルブレイス (Robert Galbraith) 名義で推理小説も書いている。
 ウェールズのグロスター州で生まれ育ち、隣の州にあるエクスター大学を出てロンドンで就職、大学時代の恋人を追ってマンチェスターで一緒に暮らしたがすぐに破局し、ポルトガルに職を得た。同地で出会った男性と女子をもうけ、結婚したが出生後破綻、妹の住むスコットランド、エディンバラに帰った。生れたばかりの赤子を抱え生活保護に頼って生活したという。パート生活をしながら、カフェで書き上げた「ハリー・ポッターと賢者の石」を発売する事が出来たのは1997年。2作目「ハリー・ポッターと秘密の部屋」がベストセラーとなりローリングはベストセラー作家への道を歩み始めた。ローリング、33才、娘ジェシカは5才になっていた。ローリングは生家の家名である。

 「ハリー・ポッター・シリーズ」は全世界出版部数5億部超と言われ、不動のベストセラー聖書を実質的に超えている。英米の児童は聖書よりも「ハリー・ポッター・シリーズ」で世界の価値を学び、聖書を知らない異教徒もまた同じ。新たな神話の出現である。

 本シリーズが世界的ベストセラーになり、ローリングは歴史上2番目に稼いだ作家(1位はアガサ・クリスティ?)と言われており、英国王から勲章を授与されたレディでもある。
 「ハリー・ポッター・シリーズ」以降、発表している作品は少ない。ロバート・ガルブレイス名義で推理小説を発表しているが、てなぐさみのようなものである。新たに作品を発表する必要のない作家なのである。


 昨年暮、トランズジェンダー問題で物議を醸している。過激フェミニストから、「ハリー・ポッター・シリーズ」はジェンダー問題に理解がないと攻撃されているようだ。確かに、同シリーズにはレズもゲイも出て来ない。
 同シリーズの思想は「愛がすべて。愛はすべてを救う。愛を壊そうとする悪はやっつけろ!」である。温和な保守主義と言っていい。

 問題は、温和な保守主義は過激な思想(ドグマ)に弱い事である。ここで、過激な思想にアクティブに対抗しようとすれば自らもドグマの罠に嵌りかねない。中庸を出でないのが温和な保守主義である。

 安心して子供に読ませることが出来る。同シリーズを良書だと思っている方とは信用してお付き合いできる。国家や人種、民族、宗教には関係ない。このあたりに同シリーズが世界的に普及した秘密がありそうである。新世紀の聖書である。ハリー・ポッターは世界を平和に導く。

 本書は「ハリー・ポッター・シリーズ」の第1作で原題は”Harry Potter and the Philosopher's stone”だが米国版は”Harry Potter and the Sorcerer's stone”となっている。米国で出版される際、米語ではニュアンスが合わないと改題されたのである。後に作者は当時が立場が弱かったので受け入れざるを得なかったと言っている(米国での出版権は10万ドルだったとか)。
 本文も米国の児童に読みやすいよう米語にタッチアップされたのだとか。こちらは大作家の小説でも行われているようで問題はなかったようだ(むしろ、売れ行きが見込めない作家の書籍には手間暇はかけない)。
 日本語の定訳はフィロソファー”Philosopher”は哲学者、ソウサラー”Sorcerer”は魔術師である。日本語版は”賢者”としているが絶妙だと思う(ワイズマン”wiseman”の定訳が賢者だったりするが)。哲学者ではなかろうし、魔術師ではひねりがなくモロ過ぎる。言葉のニュアンスは難しい。

 日本語版は静山社から松岡裕子訳で刊行されている。大ベストセラーであり、とかくの論評も多いが小学生でも読みやすく、日本でのハリー・ポッター普及に大きな貢献をした事は間違いない。
 ローリングが児童書として書いた書籍なので英米版も比較的楽に読める。英語の教科書にして欲しい本である(なってる?)。

<作品概要>
 魔法の世界では10年前悪夢の時代があった。最強の魔法使いウォルデモートが私利私欲に走り、破壊と殺戮を始めたのだ。ハリー・ポッターの父母は彼と戦い殺された。幼子で一緒にいたハリー・ポッターは額に傷がついたが殺されず、逆にウォルデモートが消えた。
 魔法界ではハリー・ポッターを知らぬ者はいない。

 ハリー・ポッターは母の姉であるダーズリー家に預けられた。母は一族の恥さらしで、その子ハリーは厄介者だった。ハリーは、ダーズリー家の息子ダドリーに意地悪され、学校でもイジメられた。
 蛇と話しが出来たり、不思議なことはあった。だが、ハリーは自分に魔法が使えるとは夢にも思わなかった。

 11才の誕生日、ホグワーツ魔法学校から入学許可書が送られて来た。ダーズリーの伯父伯母は抵抗したが、ホグワーツの森の番人ハグリットが来て助けてくれた。
 ハグリッドは、学校で必要なものを買いに、ハリーを魔法の町に連れて行った。小鬼が守る地底の銀行に行き、父母が残してくれた金銀に溢れた金庫でポケットを一杯にした。ハグリッドは別の金庫に行って包みを手にした。大きな金庫はカラになった。

 ホグワーツ魔法学校は魔法の世界にある伝統ある壮麗な学校だった。生徒は4つある寮のいずれかに属し寮対抗戦に情熱を燃やしていた。校長のダンブルドアは魔法界の有力者で、ハリーが属する事になったグリフィンドール寮の責任者マクゴナガル先生は変身術の教師だった。校長の片腕で、幼児だったハリーを救い出してダーズリー家に預けたのは校長と彼女だった。

 ハリーは入学前から有名だった。学校ではクィデッチ(空飛ぶ箒に乗ってボールで競う競技)の選手に選抜されて活躍した。ロンとはすぐに仲良くなった。優等生の女の子ハーマイオニーとも信頼できる友人になった。ロンは古くからの魔法使いの家系の6人息子の末っ子で、ハーマイオニーはマグル(人間)の娘だった。奇妙だが友情で結ばれた3人組だ。

 魔法薬の教師、スネイブ先生はハリーを目の敵にしていた。闇の魔術への防衛を教えているクィレル先生は気が弱く、スネイブ先生にいつも脅されているようだった。いつもターバンを巻いていた。

 魔法の町の銀行が襲われた。金庫が破られたが盗まれたものはなかった。

 学校に3ッの頭のある犬に守られた部屋があった。親しくなったハグリッドの失言でハリー達は部屋に隠されているのは賢者の石だと推理した。誰かが奪おうとしている。
 銀行の金庫に預けていたが狙われていたのでダンブルドア校長がハグリッドに学校に持ち帰らせて守る事にしたのだ。賢者の石は、魔法使いの錬金術師ニコラス・フラメルがつくったもので、金と命を望み通りにできる。600才を過ぎたニコラスは引退して静かに暮らしていた。

 賢者の石が狙われている。先生に告げたが、賢者の石は先生たちの魔法で守られているの心配は不要だと云われた。

 ハリーは誰かが賢者の石に近づいているのが分かった。3人は3ッ頭の犬が守っている入り口から入り先生たちが仕掛けた魔法を一つづつ破っていった。ロンが二人を先に行かせるため倒れ、ハーマイオニーは犠牲となってハリーを先に行かせた。賢者の石を奪おうとしていたのはクィレル先生だった。ターバンをほどくと後ろはウォルデモートの顔だった。クィレル先生に寄生していたのだ。

 ハリーは賢者の石を狙っているのはスネイブ先生だと思っていた。ハリーは数度、窮地に陥り、スネイブ先生の仕業だと思っていたが実は仕掛けたのはクィレル先生でスネイブ先生がハリーを助けていたのだ。スネイブ先生はハリーの父の仇敵だったが、父から命を助けられたことがあり許しがたい心の傷となっていた。ハリーは憎いが、助けるのが仕返しだったのだ。

 賢者の石を手にしたハリーはクィレル=ウォルデモートと戦った。攻撃しつつ気を失った。

 気がついたら学校の病室だった。ダンブルドア校長が倒れたハリーを連れてきたのだった。ウォルデモートは消えており、賢者の石は廃棄する事にしたのだという。ニコラスは死にいく準備をしていると。

 翌日は学年末のパーティだった。ハリーも遅れたが出席した。ハリーの冒険は生徒には秘密なのに歓声でみんなに迎えられた。
 全生徒の前で恒例の寮対抗戦の結果が発表される。各寮間のスポーツ戦、生徒の成績、賞罰が総合的に点数になるのである。理事の息子で高慢ないじめっ子ドラコ・マルフォイのいるスリザリン寮が7年連続でトップだった。
 校長から結果が発表された。4っある寮の内、グリフィンドールがトップになった。全生徒が喚声を挙げた。3人は抱き合って喜んだ。魔法で食卓にはご馳走が出現した。

 ロンやハーマイオニーと知り合い、ハグリッドや先生たちに愛されてハリーは幸せだった。
明日から休暇だ。あのダーズリー家に戻らねばならない・・・
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