ダイアナ・ガバルドン(Diana Gabaldon 1952~)は米国の作家でアリゾナ州スコットデイル在住。
 ファンタステックフィクッションのベストセラー作家リストでは現在65位。この前後には、身近に感じる作家としては、46位リーズ・ボーエン、52位ジェフリー・ディーバー、66位トム・クランシー、75位ロバート・B・パーカー、96位パトリシア・コーンウェルなどがいる。

 ガバルドンのアウトランダーシリーズが好評な事は知っていた。近世スコットランドが精彩に生き生きと描かれている・・魅力的な登場人物・・等々。

 歴史推理小説は好みの分野である。初巻は特価(Kindle版250円)なのも手伝って、まとめ買いして積読本になっていたのだが、思い出して読了した。
歴史推理小説だと思い込んで読み始めたが事件は起きない。愛が語られ始め、恋愛行為が執拗に描かれ始めてロマンス小説だと気付いた。ロマンス小説を読みたいと思った事はない。現代の推理小説に恋愛は付き物だが、恋愛の苦悩や恋愛行為が執拗に描かれることはあまりない。(ちなみにボクのロマンス小説の概念は若竹七海の「古書店アゼリアの死体」に拠っている。推理小説だがロマンス小説の何たるかが語られていて参考になります)

 日本ではロマンス小説が語られる事は多くないが、英米での地位は高い(高かった)ようである。M・C・ビートンやジル・チャーチルなどロマンス小説を手掛けて推理小説に参入した大物作家も数多い。ロマンス小説=少女小説、あるいはロマンス小説=ポルノとされていた日本の現状とは違うようである。

 本書”Outlanders”(英国版は”Cross Stitch”)はアウトランダーズシリーズの初巻である。本シリーズは2014年まで8巻出ており、9巻目が近々出版されるようである。だが、登場キャラの派生本や解説本も多く、シリーズ関連は相当数になりそうである。

 本書の舞台は18世紀スコットランドである。時代的地域的雰囲気を出すためか、古語、スコットランド英語が頻発する。だが、古文書ではなく現代作家の作品なので慣れれば読みにくくはない。(ただ、スコットランド英語の発音が不明なので下記作品概要の人名地名はいい加減。米語の発音と違ったりするようです)
 長編である(英文642ページ)。だが、ケン・フォレットの大河小説「大聖堂」などと違い場面展開は少ないので注意深く読む必要は少ない。主人公クレアがやむなくジャミ―と結婚した後、寝室での語りや行為の描写に50ページ以上が費やされたりする。だが、恋愛がらみだけでなく、当時の医療事情(クレアは看護婦だったので医療者として活動する)、クレアが巻き込まれた魔女裁判、僧院での神についての対話などにも結構なページ数が割り振られている。淡々とした日常も描写され、スコットランド領主たちが支配していた18世紀スコットランドの事情も知れる。

 異郷好みで、恋に憧れる方々は溺れ込みそうである。恋と言っても18世紀の恋ではない。クレアは20世紀からタイムトラベルした現代の自立した女である。ジャミ―はクレアを信じ切ったキカンボウな18世紀のスコットランド騎士である。ドラマチックにならない筈がない。

 作者ガバルドンは、Wikipedeiaに拠れば「アリゾナ州スコットデイルで生まれる。父トニー・ガバルドンはアリゾナ州上院議員だった。父はメキシコ系だが母は英国移民の末裔。北アリゾナ大学で動物学を専攻した後、サンディエゴのカリフォルニア大学で海洋生物学のマスター取得。アリゾナ州立大学の環境研究所に籍を置き、サイエンスソフトウェア、科学分野のコンピューターソフトのレビュー誌を編集。科学読本やディズニー漫画も手掛けた。12年間、同大学で科学分野のコンピューター利用の教授を務めた後、1992年退職して執筆に専念」という人物である。

 本書の出版は1991年。当時流行したパソコン通信(コンピュサーブ)での投稿がキッカケだったのだと言う。インターネット小説のはしりなのも興味深い。

 本シリーズは推理小説やコージーミステリと違い、各巻ごとに事件が解決するスタイルではなく「指輪物語」のように延々とお話が続いていく。これから、クレアは20世紀に戻り、またスコットランド敗残後のジェミーの元に戻り、蹂躙されたスコットランドから逃れて独立戦争前のアメリカに渡ると言う展開になっていくようです(英文サイトで粗筋を紹介している)。

 ホントの恋を味わいたい女性、ホントの恋を求める女性の心情を理解したい男性には絶好のシリーズでしょう。ボクが2巻目以降を手にするのはかなり先になりそうです。だが、この作家の歴史調査には感服します。

 

【後日追加 20.3.29】

 本作品は日本でもかなり有名な作品でTVドラマ「時の旅人クレア」が放映されており、手練れの翻訳者、加藤洋子氏の手になる日本語版(第1巻「時の旅人クレア」Ⅰ~Ⅲは2002年刊)も出ている(本書は日本語訳文庫本だと3分冊になるのですね)。このブログを書いた当時、日本ではほとんど知られていないと思っておりました。ネットで多少は調べた筈なのだが。不慣れな分野に首を突っ込むとこうなります。
 

<作品概要>
 1945年、春、イギリス。戦争が終わり、空襲を恐れる事もなくなり、明るい日々が戻りつつあった。クレア・ボーチャンプ・ランドールは夫フランク・ランドールとスコットランドで休暇を楽しんでいた。歴史の教授だったフランクは、6年前、戦争は始まるとともに諜報機関に移った。同時にクレアも看護婦として大陸に渡った。結婚して8年になるが、この6年間は殆ど会えなかった。クレアは復員し、フランクは大学の教授として迎えられることになった。新居に移る前の休暇である。クレアは子作りに励むのが狙いだったが、フランクがスコットランドに来たのは家系を調べる目的もあった。判明している6代前の祖先がスコットランドにいたからである。宿のある村の老人や牧師に話を聞きまわった。
 クレアは、村の牧師館の老女からクレイナダンの丘にあるストーンヘンジを教えてもらった。村の女たちが祈りを捧げる場所だった。古さびた岩陰に入り込んだクレアは気付くと回りの風景が変わっていた。

 森になっている丘を降りると男達に遭遇した。隊長のジョナサン・ランドールはクレアの素性を疑い引き留めた。彼は夫フランクにそっくりだった。男達は近くにあるイングランドのウィリアム砦の守備隊だった。

 17世紀初めエリザベス女王の死後、イギリスはスコットランド王ジェイムズがイングランド王となり(スチュアート朝)両地域を支配していたが、クロムウェルに奪われた王権を奪回したスチュアートの王は名誉革命によって追放され、18世紀初めには独ハノーヴァーから王を迎え、ロンドンがスコットランドを支配する状況となっていた。スコットランドの領主たちは不満でスチュアート朝の王権復古への動き(ジャコバイト運動)が盛んであった。中心となったのはスチュアート朝最後の王ジェイムズⅡの孫チャールズ(ボニー・プリンス・チャーリー)で後ろ盾はフランス王である。
 ロンドンはスコットランド人領主たちを監視するため砦を設け、両地域は緊張関係にあった。スコットランドの奥地ハイランドではとりわけ強く、スコットランド人とイングランド人は互いに蔑称で呼び合うほどであった。アウトランダーは、ハイランダー(ハイランドに住むスコットランド人)がイングランド人を「よそ者」と呼ぶ用語である。この時代の緊張関係は、スコットランド領主がフランス王ルイ15世の支援を受けチャーリーを擁立して決起したが(1746年ジャコバイトの乱)大敗北し、以降、領主たちは掃討・殲滅の対象となりイングランドの騎士たちが領主に取って代わって行ったことで終息していった。クレアがハイランドに迷い込んだのは1744年春で大乱の直前である。

 その時、守備隊が攻撃され始めた。クレアは逃げて草叢に隠れたが男に捕まり、小屋に連れていかれた。小屋には傷つき腕を折った若者が横たわっていた。クレアは野戦病院で数限りない戦傷者を治療してきた。必要な薬品はなかったが緊急措置を行った。若者はジャミ―で、小屋にいた男達の頭はドウガル・マッケンジーだと言う。クレアを連れてきたのはムータフで、剛腕の戦士はルパートだった。

 ドウガル一行は馬で移動しだした。クレアは介抱しながらジャミ―と同乗した。昔のスコットランドだと悟った。リオック城に入った。領主のコラム・マッケンジーはドウガルの兄で、病気で足が不自由だった。戦場の指揮官はドウガルが務めていた。

 クレアはジャミ―を治療し、手腕を認めたコラムは前年死去した城の医療師の後任を依頼した。ジャミ―は回復し、馬係として働き始めた。彼はコラムの甥で、ウィリアム砦から脱走する際に兵士を殺して懸賞首になっていた。コラムの姉とフレーザー家の父が結婚する際に両家の契約でラリーブロックが与えられ、父の死後ジャミ―が領主となっていたがお尋ね者のジャミ―は領地には帰れなかった。
 クレアは城のハーブ園で働き、前任の医療師の部屋を整理し使い物にならない薬品を奥に仕舞った。城内の者たちや村人たちが治療に訪れ、クレアは情況が分かり始めた。城での行事や催しは多い。コラムはクレアを上席に座らせ丁重に扱ったが、腹の底は読めなかった。守備隊から追われたとはいえ、イングランドのスパイだと思われるのは当然だった。

 ドウガルが定例の領内巡察に出る事になった。税の徴収が主なので実務は書記のゴーワンが行う。彼はエジンバラで法学教育を受け弁護士をしていたが町暮らしに倦み、刺激を求めてハイランドに来た老人だった。兵士12人が付き添い、ルパートやムータフも一緒だった。ドウガルは、ジャミ―とクレアも一行に加えた。ドウガルはジャミ―を殺し、領地ラリーブロックを狙っているのかもしれない。ランドールと知人なのでクレアをウィリアム砦に引き渡すのかも知れない。ドウガルを信じられないクレアは不安だった。

 旅は順調だった。気のいいゴーワンはクレアの知性を愛し、領内の様子や城内の事情を気軽に教えてくれた。領民たちは産物を差し出し荷車に積まれた。村の宿では酒が振舞われ、賑やかな宴会が開催された。いつもはムッツリとしたムータフは吟遊詩の名手だった。

 領内でイングランドの警邏隊が出没し始めていた。遭遇すればジャミ―やクレアを引き渡さなければ戦争になる。ドウガルはクレアに結婚を迫った。結婚すればマッケンジーの保護民となり引き渡さなくてもよくなる。相手は未亡夫ルパートかキカンキでクレアには不愛想な若いジャミ―を選べと言う。
 クレアには愛する夫フランクがいる。ここで死ねば会う事すら出来なくなる。苦悩している間もなくジャミ―との結婚が進み始めた。ジャミ―は、「兵士は指揮官の命令に従う」と言うばかりである。丘の上の新しい教会で結婚式が進んだ。クレアがスコットランド観光で訪れた古い教会だった。

 宿で一階で宴会が始まり、程なく二人は上階の寝室に追いやられた。ロウソクの炎の中で話した。ジャミ―は23才で童貞だった。ラリーブロックで闘い、イングランド兵から逃れてフランスで3年、兵士として戦場にいた。領内では憧れる娘も多いハンサムである。クレアには信じられない。ジャミ―は訥々と結婚の信念を語った。種を与える事は責任を負う事だと。27才のクレアは6年の間、戦場で乱れた職場も見てきたが不倫に陥ったことはなかった。
 クレアはジャミ―を導いた。寝室を出ると火の傍で飲んでいた男達が喚声を挙げた。ジャミ―は彼らは見届け人たちだと言った。

 20世紀生まれのクレアは一人で出歩いて危険と言う感覚がない。近くで男達に襲われたがジャミ―は駆け付けて助けてくれた。ネス湖では怪獣に出会った。桟橋で眺めているクレアを住民の男が畏れて見ていた。
 ドウガルとジャミ―は兵士達を連れて近くの警邏隊が出没する村に行くことになった。クレアは不安を抱きながら宿で待つより一緒に行きたいと主張した。ジャミ―にはクレアの頑固さが分かっていた。村の近くまで同行して待つ事になった。

 森の空き地で待っていたクレアは、クレイナダンの丘に近いことに気付いた。空き地の先の渓谷の急流を渡れば歩いて行ける筈だ。20世紀に戻りたくて何度も行こうとしたが監視されて行けなかった地である。突然の機会に苦悩したが決心した。
 急流に流され、イングランド守備兵に捕まり、すぐ近くのウィリアム砦に連れていかれた。ランドールは執拗に正体不明のクレアに問いただし、部屋に監禁した。

 窓からジャミ―が姿を現した。弱ったクレアを抱えて逃げた。入口近辺はドウガルの兵士たちが占拠していた。ジャミ―は何度か砦でランドールに制裁されており砦の事情に詳しかった。ラリーブロックのマナーハウスに侵入し、姉ジニーを犯そうとした警備隊をジャミ―が攻撃したのが最初だった。隊長のランドールは姉を犯してジャミ―を砦に連れ帰り鞭打ちの刑に処した。死ぬかも知れぬジャミ―に会いに来た父はジャミ―の処刑後、心臓麻痺で死んだ。ジャミ―にはランドールは怨敵だった。

 ドウガル一行は城に戻った。ジャミ―はクレアは川に落ちて守備隊に捕まったと信じていた。クレアも黙した。

 城の財務官アーサー・ダンカンの妻ゲイリスは魔術師だと言う噂だった。ハーブにも詳しく発想が柔軟でクレアとは波長があった。ジャミ―は彼女には気をつけろと言った。

 城にロンドン朝廷の重臣サンドリンガム侯爵が訪ねてくることになった。以前にも来たことがありマッケンジーに好意的だった。コラムは首領や宴会など最大限のもてなしを準備した。
 宴会の最中、アーサーが急死した。毒死だった。ゲイリスは町の自宅に戻って行った。

 侯爵は狩猟に出かけ、ドウガルやジャミ―達も付き添って行った。足の悪いコラムは城に残った。城に残っていたクレアにゲイリスが会いたいと言っていると使いが来た。クレアはゲイリスの家に行った。彼女は酒浸りで、使いは出していないと言う。召使たちが逃げてしまったので酒しか残っていないと。

 家の前で群衆が「魔女だ」と騒ぎ始めた。家は荒らされ、二人は町のごみ溜めに放り込まれた。ここは犯罪者や浮浪者の収容場所であり宗教裁判の裁判官を待つ事になった。
 ゴミを食べて生き延び、二人の巡回裁判官が待つ町の広場に引き出された。裁判が始まり、証人たちの発言が始まった。教会の牧師は扇動した。血に飢えた住民たちが騒いだ。クレアがネス湖の怪獣を呼び出したのは魔女の証拠だと証言された。城からは誰も来なかったが、午後になりゴーワンがクレアの弁護士として法廷に出てきた。彼は長々と話し始めた。面白くなくなった観衆は帰る者も出てきた。夕刻になり、裁判官は翌日に延長を告げた。
 翌朝、魔女監察官が待っていた。二人を縛り、湖の桟橋に連れて行った。裁判官や群衆もぞろぞろとついて行く。湖に入り、浮かび上がれば魔女の証拠なのだ。魔女でなければ溺れ死ぬことになる。クレアは黙っていられない。抵抗した。汚れた衣服が脱げむき出しになった腕の傷(ワクチン接種の痕)を見たゲイリスは「私は魔女だが、彼女は違う」と叫んだ。魔女だと認めれば、妊娠中の彼女は分娩後火あぶりになる。
 クレアは、ゲイリスが妊娠した相手はドウガルで、アーサーに妊娠を発見されて毒を盛ったと聞いていた。ドウガルの夫人は先日亡くなっていた。ゲイリスはドウガルと結婚出来る事になっていた。ドウガルの夫人も殺したとはハッキリとは言わなかったが。

 完全軍装のジャミ―が現れた。群衆をかき分けてクレアを連れ去った。城には戻れない。ジャミ―は森に連れて行った。クレアは20世紀から来たとジャミ―に告げた。夫もいるのだと。ジャミ―に死んでほしくない。来年ジャコバイトの乱が起き、4月にはカルロデンの戦いでスコットランドは全滅すると教えた。チャーリーには近づくなと。茫然自失となったジャミ―は焚火の傍で沈み込み、信じると言った。ジャミ―はクレアをクレイナダンの丘に連れて行った。ジャミ―は丘下の小屋で見守ると帰って行った。岩陰があった。クレアは躊躇し丘の周囲を歩いた。崖から落ち、小屋がありジャミ―が寝ていた。
 二人はいつまでも抱き合った。クレアはジャミ―と永遠にいる決心をした。

 行き場のない二人はラリーブロックに行く事にした。姉ジニーは喜んだ。幼い息子はジャミ―と名付けており、妊娠中だった。夫は旧友のイアン・ムーレイで、ジニーがランベールに犯されて男子を出産したと言うのはジャミ―の誤解だった。犯されてもいなかったし、ジャミ―はイアンとの子だった。
 イアンは片足がなく義肢だった。ジャミ―が失踪し、父が亡くなった後、ジニーは強引にイアンに結婚を承諾させたのだと言う。母エレンはジャミ―の幼い頃亡くなっていた。ジャミ―を母代わりになって可愛がっていたのはジニーだった。

 領民は領主の帰還を歓迎した。クォーターの集まり(領民が税として産物を持ち寄る)がマナーハウスで盛大に開かれた。レディのクレアも暮らしに慣れハーブ園を世話し、病人の治療もし始めた。だが、時折イングランドの警邏隊が姿を現すこともあった。腰を落ち着けてはいられない。

 ジニーの出産が始まった。村の産婆マーティン夫人が呼ばれクレアも手伝った。死を覚悟していたジニーの出産が終わった時、イアンとジャミ―は酔い潰れていた。

 義肢を失くしたイアンが血を流しながら戻ってきた。ジャミ―と領内を馬で回っている際、警邏隊が現れてジャミ―を連れ去ったのだと言う。ジニーは即刻、クララと馬上で現場に向かった。近道をして警邏隊を見付けたがジャミ―はいない。狭い道の山中で最後尾の隊員をジニーが襲い白状させた。ジャミ―は逃げて川に落ち、行方知れずになったので死んだのだろうと言う。川を探した。ムータフが追い付いてきた。彼はジニーの一族だった。川辺の草叢に血痕が残っており、岡に向かっていた。ジャミ―は逃げたようだった。

 ジニーは戻し、クララはムータフとジャミ―を探しに道中に出た。ジャーミーがクララとムータフに気付くように村の宿で二人で演芸をした。ムータフは吟遊詩人である。クララは占いもした。道中で会った人たちにはジャミ―を見かけたら知らせるよう頼んだ。ジニーはクララにクォーターで集めた貨幣を預けていっていた。

 頼んでいたジプシーから連絡があり、付いて行くと小屋にドウガルが来ていた。捕まったジャミ―は近くのウェントワース監獄にいるという。3日前に裁判で縛り首になる事に決まったのだと言う。イングランド兵に守られた堅固の要塞である。出来る事はないと。
 ジャミ―の死後、結婚しようと言う。ジャミ―ではなく自分が結婚したかったのだが妻がいたと。ジャミ―の相続者のクレアと結婚すればラリーブロックも手に入る。ゲイリストの子は、認めることなく養子に出していた。コラムの息子も、子を作れないコラムが了解済みだとは言えドウガルの子である。クレアは憤然として断った。ドウガルは断ったが、親族のムータフは別としても、ルパート以下5名の兵士が命を賭けてくれる事になった。スコット仁義である。

 クレアはイングランドレディになりすまして監獄のフレッチャー所長に面会した。縛り首を翌日に控えたジャミ―は西翼の監獄にいると聞き出し、隙を見て監獄に行った。ジャミ―はランドールに小部屋に入れられて責められていた。見つかったクレアはランドールと取引し、地下倉庫に押し込められた。ジャミ―は苦しい息の中からクララに別れを告げた。ランドールが執着しているのはジャミ―だった。倉庫の暗闇の奥に戸があり、裏の石塀になっていた。滑り降りると狼が待っていた。狼と闘った。男が現れて森の小屋に連れていかれた。クマの毛皮を身にまとった地元の領主マックラノックだった。彼も出来る事はないと言った。クレアを見張っていたムータフが来た。ジャミ^の母はエレン・マッケンジーだと聞いて心が動いた。若い彼が求愛していた人だった。
 外は激しい雨だった。牛が逃げていると報告があった。数十頭がウェントワースの裏門から要塞に入って行ったと。牛泥棒の名人、ルパートの仕業だった。
 憚ることなく、マックラノックはサパー中のフレチャー所長に「盗んだ牛を隠している」と怒鳴り込んだ。彼は文官である。血腥い争いは好まない。地下に案内すると廊下で大型牛が暴れていた。マックラノックは部下に牛を取り押さえさせ、裏門から送り返した。ジャミ―も一緒だった。

 待っていたクレアもマックラノックのエルドリッジマナーに同行し、ジャミ―を治療した。マックラノックの妻はゲストとして丁重に扱い万全の扱いをしてくれた。ジャミ―は重傷で左腕は辛うじて動かせるものの右手の指は砕かれていた。クレアは泣くのも堪えて治療した。
 監獄からの脱走者は手配されている。いつまでも、ここにはいられない。

 早朝、クララとムータフは不自由なジャミーを馬に乗せて海に向かった。街道で4人連れの警備隊に出会い誰何された。ムータフは馬上からピストルを放ち二人を倒した。驚いた二人は逃げ出した。要塞に通報されては逃げられない。クララも追い、ピストルを放った。馬に当たり兵士は落馬した。十代の少年だった。父母は故郷で待っているだろうし、妻子がいても不思議ではない。傷ついた兵士の顔が見えないように雪の上に押さえつけナイフで首付け根を刺した。もう一人の兵士はムータフが仕留めていた。

 港から船でセント・アン・ド・ボプレに向かった。ベネディクト僧院でジャミ―の叔父アレキサンダーが僧院長を務めている。ジャミ―はひどい船酔いだった。アレキサンダーは僧院の治療師にジャミ―の治療をさせた。彼はすぐにクレアの力量を見抜き、クレアはジャミ―の治療に専念した。
 ジャミ―は落ち込んでいた。監獄でのランドールからの責め苦が体だけでなく、心も病ませていた。ランドールはジャミ―の体を弄ぶだけでなく、「クララではなくランドールを愛している」と言わせていた。
 クレアに近づけなくなったジャミ―は、ムータフにクレアをクレイナダンのストーンヘンジに連れていくよう頼んだ。クレアは苦悩し、僧院に来ていたフランシスカンの僧アンセルムと神について語り合った。20世紀の女性クレアは不可知論者である。証明なしに無条件に神を信じたりは出来ない。
 クレアはアンセルムに告白した。聴聞僧アンセルムは信じざるを得ない。深くクレアを信じて愛しんだ。

 ジャミ―は何も食べず、衰弱していった。アレキサンダーは死が間近と判断し終油の儀式を執り行った。クレアはジャミ―に付き添った。深夜、クレアは胸の傷を開きジャミ―にランドールを思い起こさせ向き合わせた。ジャミ―は凶暴になった。
 激しく抱き合った後、ジャミ―は「死にたかった」と言った。クレアに別れも言ったと。

 憑き物が落ちたようにジャミ―は回復していった。クレアはジャミ―のベッドに入って付き添った。クレアは神に感謝した。
アレクサンダーから、フランス王の紹介状が届いた。フランス語が出来て優秀な戦士でもあるジャミ―は望めばフランス王の仕えることも出来る。並みのスコットランド騎士なら望外の喜びだが、クレアを信じているジャミ―は従えない。むしろ、チャーリーに会って無謀な戦争を控えさせるよう説くべきかもしれない。ジャミ―は、クレアの言うとおりにすると言った。

 元気を取り戻しつつあったジャミ―は、深夜クレアを僧院の地下に誘った。月明かりの下、海の方に開けた温泉があった。ジャミ―はクレアは命だと言った。語り合い、愛し合った。水面が揺れた。

 クレアは妊娠していた。ジャミに―に告げると「希望、新しい可能性」とつぶやきクレアの平らな腹を撫でた。

・・・2巻に続く