アン・ジョージ(Anne Carroll George1927 - 2001 )のコージーミステリー、「おばあちゃん姉妹探偵シリーズーSouthern Sisters」(全8巻の5巻目で1998年刊行の作品である。 

 アン・ジョージはアラバマで詩人、純文学者として活動していたが、退職した元教師パトリシア・アンを語り手とする本シリーズで、コージー作家の多い南部の代表的コージー作家となった。アン・ジョージも元教師でパトリシア・アンは分身ともいえる。

 

 アン・ジョージ作品の面白さは生活に根付いた語り口にある。もちろん、アラバマ州バーミンガムの生活である。日本にはないスーパーの店名や商品名が前置き抜きで出てくる。アラバマでは有名でも日本人には戸惑うばかりである。テレビの有名キャスターやアメリカ人なら誰でも知っている人物や歌も出てくる。翻訳者には辛いだろう(コージーに注書きは似合わない。翻訳が辛いからだろうとは思わないが本シリーズは3巻目までしか日本語版はない。面白いのに・・)。

 

 本作品でも、祖母が孫娘に「ブッシェルとペック」と伝えてくれという場面が出てくる。これがドリス・ディーの有名曲だと知らなければ、ストーリーが意味不明である。(宝塚でも演じられ、礼真琴が歌って有名らしいので宝塚ファンなら熟知? 「あなたを愛している」というメタファーらしい)。こういう事情が判明するのが面白いのである。

 

 アンの娘ヘイリーの結婚披露宴に、富豪の姉アリスが特製ウェディングケーキを持ち込む場面では、そのケーキは結婚式が86日なのでキノコデザインの原爆ケーキだと語られる。日本なら顰蹙ものだがアメリカでは誇らしくも冗談のネタなのであろう。生活感覚、常識の違いを垣間見ることができ興味深い。

 

 コージーミステリと言えどもミステリである。だが、探偵小説としての出来、不出来を云々するのは野暮というものであろう。

 

 本書に親しめばバーミンガムで暮らしているような気分にさせてくれる。アン・ジョージ作品の楽しみどころである。

 

<ストーリー>

 パトリシア・アン(通称マウス)60歳で退職した国語(英語)教師で、夫フレッドは鉄工所を経営しており、息子たちが継いでくれる見込みがなくなったので大手企業への売却手続きをしている21女の母親だが今では夫婦二人で暮らしている。次男のアランはアトランタに住んでおり、未亡人で看護師の娘ヘンリーは姉マリー・アリス(通称シスター)の義理の甥で、医師で大学教授のフィリップと結婚の予定である結婚後ワルシャワに移り住む事になっており、アンには辛い。

 

 近くの高級住宅地レッドモント・クレストの屋敷にシスターが住んでいる。正式名はマリー・アリス・テート・サリヴァン・ナックマン・クレインと長いが結婚した3人の大富豪の夫の姓を大事にしているからである。屋敷は、バーミンガム鉄鋼業の創業者の一人だった最初の夫サリヴァンの祖父が19世紀に建てたものである。

 最後の夫クレインも亡くなっているので未亡人だが恋人は常にいる。大柄で大胆な姉は、母の証言がなければ、小柄で几帳面なアンとは実の姉妹とは思えない。3人の夫との子供が一人づつおり、2番目の夫ナックマンとの娘デビーは弁護士をしており近々、出産の予定である。

 

 バーミンガムの夏は暑い。40度近い日が続く。アン宅の車道にシスターのベンツが止まり、裏口から彼女が入ってきた。ポリネシア、ボラボラ島でダイビング・ツアー事業をしている息子レイ・クレインが結婚したので、一足先に戻った彼の嫁サンシャインを招いてディナーパーティをやるのだと言う。アンの娘ヘイリーは婚約者フィリップのワルシャワ大学赴任が決まったので急遽、週末に結婚式を行うことになった。シスターの娘デビーの出産も近い。慌ただしい。

 

 パーティはデビーの夫でコックのヘンリーが準備した。レストランからドウェインを手伝いとして連れてきた。アンの夫フレッドはヘンリーの料理には目がない。

 

 サンシャインは祖母ミーモウとバーミンガム近郊のロカスト・フォークからボロ車でやって来た。ミーモウはアリスと同年配で押しの強い個性的な女性で、アンはアリスに対抗できる女性に初めて出会ったと感じた。若い時、宇宙人と出会い、いまでも宇宙人ガブリエルと交信しているのだという。アリスは投資検討中の株の見通しを聞いてくれるように頼んでいた。

 

 ドウェインはサンシャインの結婚祝いパーティだと知り帰った。大学のクラスメイトで、ひどい失恋の様子だった。

 

 ボラボラ島での結婚式のビデオを見ることになった。テレビに映ったのはアダルトだった。ミーモウはサンシャインの母ケリガン主演のビデオだと。サンシャインは慌ててビデオを交換した。ボラボラ島の浜辺でレイとサンシャインが結婚式を挙げている様子が映った。サンシャインの介添えをしているのはバックで、ロカスト・フォーク出身でレイの事業を手伝っている男だった。サンシャインは可愛く、アンはバービー人形だと思った。ミーモウはキャベツ人形である。

 

 翌日、シスターからランチのお誘いがあった。ロカスト・フォークの話題のレストランに行った。シスターの魂胆はサンシャイン一家を探ることである。ウェイトレスからミーモウは森の中にあるターケット・コンパウンド(ターケット家の集落)に住んでいると聞き出した。

 

 レストランにミーモウが来た。彼女から自宅に誘われた。ターケット・コンパウンドは大型トレーラーが5台置かれている敷地だった。ミーモウ、夫パウパウ、長男エディ、次男ハワード、娘ケリガンのトレーラーである。エディはチキン工場で働いており、ハワードはアトランタ市役所の仕事をしており、同地に家庭があった。ケリガンはAV女優である。普段、彼らはいない事が多い。

 サンシャインはミーモウと暮らしている。敷地には獰猛な犬達がいたが、転がっている棒を振り回しながらトレーラーに近づくことは出来た。

 

 ミーモウの夫パウパウ(本名メルビン・ターケット)はフォン・ブラウンと働いていたNASAの科学者だったがロケット発射の際の事故で聴力を失い、好きな釣りの出来るこの地に引っ越してきたのだ。子供たちが独立しトレーラーも増えていった。

 

 車で先に着いたミーモウがトレーラーの前で待っていた。ベンツから降りたシスターとアンが来たのでミーモウはドアを開け、なかに入ったが急に立ち止まった。シスターとアンはミーモウにぶつかった。倒れたミーモウの下で男がナイフで刺されて死んでいた。

 

 トレーラーでは、ミーモウとサンシャインが遊んでいたチェッカーゲームがそのまま残されていたがサンシャインは消えていた。チェッカーの駒は石ころで代用されているものもあり床に落ちていた。アンは拾ってポケットに入れた。ミーモウはサンシャインを探した。

 リユース保安官を呼んだ。以前の事件(第1巻)で関りがありシスターもアンも旧知の人物である。堅物だが、二人には好意的である。

 殺されたのは、近くのインディアン旧跡で、休日に観光客相手に酋長の扮装で写真を撮らせる商売をしていたチーフ・ジョセフとして知られていた男だった。よくある話だが、メキシコ系でインディアンではない。

 

 翌早朝、保安官の指揮により、ボランティアでサンシャイン捜索隊が組織された。シスター、アン、フレッドも馳せ参じた。ドウェインなど、サンシャインの友人たちも来ていた。暑くならないうちにと、早朝から大勢で森の中を分担して探し始めた。

 携帯に留守番電話が入っているのにシスターが気付いた。「元気だから心配しないで」と言うサンシャインからのメッセージだった。捜索は中止された。

 

 サンシャインが心配なアンは、彼女が通っているジェファーソン州立大学を調べた。大学には教師時代の親友のフランシスが退職後アルバイトで勤めている。サンシャインは叔父エディと暮らしていることになっており、住所はレッドモント・クレストだった。

 エディはチキン、ターキーの加工工場を経営している億万長者だった。エディ邸はシスターの屋敷に近い。仕事中毒で屋敷は夫人ノラだけでエディはトレーラーにいることが多かった。サンシャインはノラから可愛がられていた。

 アンはシスターとサンシャインが潜んでいるのではと調べに行ったが屋敷町の壁は高い。容易には探り出せない。 

 

 ボラボラからレイが戻ってくる。シスターとアンは空港に迎えに行った。バックも一緒だった。バックはロカスト・フォークの実家に戻り、アン達はシスター家に向かった。

 

 サンシャインの失踪に驚くレイに事情を説明した。アンのポケットに「手を出すな」とメモが入っていた。捜索隊の誰かが入れたようだ。アンが帰ろうと玄関を出るとターキーが置かれていて転んだ。頭にこぶが出来、目が黒ずんだ。ヘイリーの結婚式にひどい顔で出ることになる。ターキーも犯人からの警告だった。

 

 翌朝、リユース保安官が事情聴取に来た。シスターもいる。殺された男はダドリー・クロスという小悪人だという。ケリガンのトレーラーが荒らされていたので泥棒を働こうとして殺されたようだと。

 

 明日はヘイリーの結婚式。シスターはドレスが欲しいというし、アンは傷を隠すのが上手な化粧品屋に行かねばならない。

 

 知人の洋装店でシスターがドレスを買うのを待っていたアンは道路の向こう側をサンシャインが歩いているのを見た。飛び出して、危険を顧みず道路を渡ったがサンシャインは金物店に消えた。アンは裏口に気付いてドアを開けたが、ブロンドの女がピックアップで急発進して出て行く所だった。

 

 金物屋は知らないと言う。サンシャインは近くの店に行ったに違いない。隣のアンティークショップの若い男は誰も来ていないと言う。ドラッグストアも空振り。花屋もブロンドの女は来ていないと言ったが、急遽決まったヘイリーの結婚式に花を用意していないと察し、手持ちの花で間に合わせてもらうことになった。ウェディングの飾り花やブーケは入念に準備するもので間に合わせるものではないのだが。

 

 ミーモウがガブリエルから告げられたとアン宅に来た。アンはサンシャインを見たことや、ターキーで転んで傷ついたことなどを話した。真夏である。汗だくのミーモウをアンは引き留めたが、ボロ車で帰っていった。

 

 仕事の引継ぎをを終えたヘイリーが飼い猫のマフィンを連れてきた。亡夫トムが拾ってきた猫で、可愛がっていたがポーランドに行っている間、アンが預かることになっている。

 レイがバックと事情を聴きに来た。母の説明では訳が分からないと。

 

 シスターから電話があり、ミーモウが救急車でエディ邸からアラバマ大学病院に運ばれたという。駆けつけると、ケリガンとハワードも来ていた。ミーモウは日射病で倒れて弱っており、ノラが付き添っていた。

 

 夜になり、明日の結婚式のドレスを準備して寝付いたが深夜3時、サンシャインが訪ねてきた。「ミーモウは大丈夫だろうか?」と。事情を説明して、家に戻るように言った。サンシャインは、トレーラーの寝室にいたら男が刺され、刺した大男が迫ってきたので窓から逃げ、怖くて戻れないのだという。疲れた様子のサンシャインをソファで休ませたが朝にはいなかった。アンはトレーラーを見ている。トレーラーの寝室の境はカーテンしかない。アンには不自然に聞こえた。サンシャインに大男が気付いたら、狭い窓から逃げるのは出来そうもない。

 

 ヘイリーの結婚式が始まった。フィリップは20歳以上年上である。式にはフィリップの娘ジニーと息子マチューも一緒に並んだ。義孫が二人もできたフレッドは良い爺さんになろうと張り切っている。

 

 急だったが、なんとかホテルでパーティーを開くことができた。シスターは特注のウェディングケーキを準備させた。キノコ雲型のケーキである。結婚式の8月6日はフィリップの誕生日でもあった。しかも、アメリカが最終兵器を実現した日(広島原爆投下日)でもあった。

 二人の結婚を忘れない日にしようというシスターの思いが伝わり、参会者は感銘した。

 

 レイは、サンシャインの話を聞きたいとアン宅に戻った。アンはミーモウのトレーラーで拾った小石を台所のカウンターに置いていた。目にしたレイは黒真珠だと言った。ボラボラでは観光産業と黒真珠が経済の二本柱なのだと。アラバマとも縁があり、アラバマの川で採れた貝から核を作り、ボラボラの貝に植え込んで年月をかけて育てているのだという。

 

 ヘンリーから電話があった。デビーがアラバマ大学病院に行ったと。出産である。急いでみんなで駆け付けた。すぐには生まれそうもない。

 ミーモウの部屋に行くと、かなり回復していた。彼女は黒真珠だと知っていた。話を聞こうとするとケリガンが来たので詳しい話は出来なかった。ケリガンは先日あったアンティークショップの若い男が迎えに来て帰っていった。知り合いだった。

 

 シスターと屋敷に戻ると保安官が来ていた。黒真珠の話をした。黒真珠の密輸はFBI事件である。保安官はFBIにも報告するという。

 

 自宅に戻ったアンをケリガンとパウパウが訪ねてきた。サンシャインが置いていったものを返してくれという。家探しを始めた。断ると銃を向けられた。パウパウは補聴器をつけ聞こえている。シスターが裏口から入ってきた。「黒真珠を探しているの?」と聞いた。サンシャインが隠したパウチはソファの下にあった。パウパウたちは黒真珠だと気づかれたと知り、アンとアリスを連れ去る事にし、車に銃で押し込んだ。車はターケット・コンパウンドに向かった。バックがミーモウを連れてきて、落ち合うことになっているのだと。

 

 ケリガンとパウパウは黒真珠を持って逃げる予定だという。バックとミーモウも一緒である。

 

 科学者だったパウパウはNASAを辞めてアラバマに来た後、黒真珠の核を製造する工場で働いていた。自ら黒真珠を製造することを企て、ケリガンの愛人バックに相談し、彼はボラボラに行き事業を始めた。だが、製品になるまで長期間かかると判明し、育成中の黒真珠を奪うことにした。バックはダイビングの達人だった。

 粒よりの高級品を、何も知らないサンシャインをボラボラにクイズに当選したと偽って送り込み、バックからケリガンへの土産物だと持ち帰らせた。持ち帰ったサンシャインは包みを開いて石ころだと思いケリガンには渡さなかった。母の不機嫌な顔を見たくはない。

 黒真珠は、アンティークショップの若い男トディ・モンロウが処分することになっていた。トディはバックの異父弟で、ケリガンとも親しい。サンシャインがレイと結婚したのは想定外だったが困ることでもない。

 

 殺された男ダッドリー・クロスはアンティークショップで働いていた。黒真珠の密輸を嗅ぎつけて横取りしようとした。ケリガンのトレーラーを探したがなかった。ミーモウのトレーラーを探そうとして殺されたのだった。黒真珠の入ったパウチはサンシャインが持って逃げていた。パウパウはサンシャインを見つけて聞き出した。

 

 アンにも事情はわかったが、ケリガンたちが生かしておいてくれるとは思えなかった。

 

 ターケット・コンパウンドにバックととミーモウが来ていた。ミーモウは、黒真珠とは知らなかったと言う。サンシャインも知らず、石ころだと思っていたが、パーティの後、ドウェインが来てチェッカー盤の石ころを見て黒真珠だと気付いたのだという。

 

 ミーモウは事情は知らなかったが夫パウパウについていくという。シスターに、サンシャインに会ったら「ブッシェルとペック」と伝えてくれと言った。アンの母も言っていた。曲名だが「いつまでも愛している」という含意がある。

 

 敷地にはアンティークショップの大型トラックが駐車していた。バックとトディは、アンとシスターをトランクルームに入れ発進した。トラックは綿畑に置き去りにされた。

 銃で撃ち殺されはしなかったが、明日、日が昇れば昼前には蒸し焼きになる。姉妹は話し続けた。61年間、姉妹だった。思い出、言えなかった事。詰りあい、許しあった。だが、今の家族、未来の話はしなかった。

 

 朝になり、明るくなった。トランクルームの天井に天窓がついている。まわりは机や椅子などアンティークだらけだ。机や椅子を積み上げ、苦労して天窓を破り、綿畑に出ることができた。

 

 農道まで歩いて、通りかかった農家に助けられガソリンスタンドに行き、リユース保安官に電話した。

 FBIはバックとケリガンをケンタッキーで逮捕した。パウパウとミーモウは別行動で行方が知れなかった。

 

 シスターの屋敷に戻ると、保安官が来てサンシャインに事情聴取した後で、彼女は涙をぬぐいながら、レイと話し込んでいた。男が殺されたとき彼女はドウェインと寝室にいたのだった。だが、男が来たので二人で逃げ、一緒に隠れていたのだと言う。騒いで欲しくなくて、アンに警告したのもドウェインだったと。

 

 シスターは、ミーモウからだと「ブッシェルとペック」と伝えた。彼女は泣き崩れ真実を話し始めた。男に襲われて、サンシャインとドウェインは男を殺し、黒真珠を持って逃げた。黒真珠はアン宅に隠したのだが、ケリガンとパウパウが現れて喋ったのだった。

 

 サンシャインもバックも失ったレイは、ひとりでボラボラに旅立っていった。

 出産に苦しんでいたデビーは無事に男の子を生んだ。シスターはフィリップとだけは名付けないよう頼んだ(亡夫も、義理の甥でヘイリーの夫もフィリップ・ナックマンなので、3人目もいるとややこしい)。

 

 アンとシスターが誘拐され、ヘイリーとフィリップはワルシャワへの出発を延期していた。次の日、飛び立っていき、アンと夫フレッド、シスターは空港で見送った。シスターは泣きくれるアンをカフェに誘い、クリスマスプレゼントだと3名分のコンコルドのチケットを出した。

 今年のクリスマスはワルシャワで5人で楽しく過ごせる。アンの気持ちは明るくなった。前回、姉の招待でデンマークを訪れた時にはチェルノブイリ事件が起き、ホテルに閉じ込められて過ごした悪夢がよぎったが、シスターが一緒だからと言って不運に見舞われるとは限らない。