米国のミステリ作家S・J・ローザン(S. J. Rozan、1950年 - )のリディア・チン、ビル・スミスシリーズ第3作。1996年発表の作品である。本シリーズは、3人称1視点のハードボイルドのフォーマットによる作品だが、各作品ごとにリディアとビルが交代することになっている。今回はマンハッタン、チャイナタウンに母と暮らす中国系アメリカ人の若き女性私立探偵リディア・チンの視点で語られている。

 今回の舞台はニューヨークのファッションの世界である。シカゴで成功した中国人家庭で育った姉妹がマンハッタンに出て来て、姉は夢だった自分のブランド「マンダリン・プレイド」を立ち上げられそうになったところから話が始まる。プレイドは格子縞の事だが、マンダリンは北京官話(官が定めた中国の標準語)、黄色のミカンの意味で使われる事が多い。ここでは中国皇帝(黄帝)の色(金色のような黄色)として使われているようだ。含みの多い言葉なので日本の読者に分かりにくいと思ったのか、日本語訳では「新生の街」と原題からは離れた作品内容からインスピレーションを得たタイトルとしている。これは第1作、第2作も同じである。で、第4作からは概ね原題に沿ったタイトルとしている。第9作「シャンハイ・ムーン」、第11作「ゴースト・ヒーロー」は原題そのままである。翻訳者(編集者?)の悩みを伺えるようで興味深い。ローザンは2011年の「ゴースト・ヒーロー」以降、本シリーズを出していなかったが2019年「Paper Son」、2020年「The Art of Violence」と立て続けに発表している。いずれも原題のままでは日本語訳のタイトルにするのは難しそうである(本シリーズは「ゴースト・ヒーロー」まで日本語化されている(早良和美訳創元推理文庫)。

 リディアとビルは各々独立した私立探偵で、必要に応じて相手を雇うという関係である(今回はリディアの案件なのでボスはリディア)。年齢も違い(リディア20代、ビル40代)、経験も違い、いつもビルが支払うので、稼ぎも違うようであるがリディアはビルを深く信頼している。殆ど愛しており、離婚して独身のビルは求めているがリディアは踏み込めない。母が嫌がっているし、中国女だから。
 理解しがたいアメリカの中国社会、中国女の事情は生真面目(?)な中国系アメリカ人ローザンが描くからこそ受け入れられるように思う。
 
 ローザンは動物愛護や、最近では話題となっている黒人差別反対運動に熱心なようです。生真面目な作家なのです。

<ストーリー>
 リディア・チンは母とチャイナタウンの共同住宅の4階にある実家で暮らしている。コックだった父は亡くなり、子供は5人いたが、4人の兄たちは医者や弁護士になり家を出た。旧正月には実家に集まる。問題は兄たちは三十路も近いリディアを未だに赤ん坊扱いすることだった。目を離すと危ない。母も同じだ。しかも一人では部屋代も稼げないだろうと。クィーンに住む長男のテッドが母の部屋を用意しているのだが、リディアを口実に母は実家から離れようとはしない。
 リディアはチャイナタウンの西端に私立探偵の事務所を構えている。チャイナタウンを離れる積りはない。うざいくて面倒だと母と離れる積りもない。中国の女だから母の世話をするには当然なのだと。
 
 3番目の兄アンドリューは、他の兄たちと違い話が通じる。プロカメラマンで、グリニッジ・ビレッジの近くのロフトに住んでいる。事務所が近いので会うことも多い。一緒に暮らしているトニーはルームメイトという事になっているがパートナーである。リディアは知っているが、アンドリューは母や兄弟たちには黙っている。今時、マンハッタンではゲイは隠すほどのものでもないがチャイナタウンは別である。

 アンドリューから「探偵の仕事があるので来てくれ」と電話があった。ビレッジに住んでいるビル・スミスと行くことにした。リディアの家族と親しくなりたいビルだが疎まれていた。白人だから。だが、アンドリューとだけは親しくなった。彼が必要なら駆けつけるのは当然である。

 ロフトにはアンドリューの友人ジーナ・ジンが来ていた。彼女はファッションデザイナーとして働いていたが独立して新レーベル「マンダリン・プレイド」を立ち上げようとしていた。ニューヨークのファッションシーズンは3月から始まる。各ブランドが公園に天幕を張ってファッションショーを華やかに繰り広げる。ジーナは天幕を張れるほどビッグではないので近くの知人の邸宅でショーを開く段取りだった。事務長のジョン・リヨンも来ていた。シーズン直前で慌ただしい時期である。
 ジーナはアンドリューの妹が腕利きの私立探偵だと秘書のブラッドから聞いて、アンドリューにリディアを紹介してもらっていた。アンドリューは気の合う仲間のブラッドにはリディアの活躍譚を聞かせていたらしい。

 ジーナの事務所からデザイン画が盗まれ、犯人から5万ドルを出せと電話があったのだという。金を封筒に入れマディソン・スクウェアの指定したゴミ箱に入れろと。リディアは警察に通報するように薦めたが、ジーナはショーを直前に面倒を起こしたくないので払うという。ジョンは、金は用意して、自分が持っていくと頑張ったがジーナは頑なに拒否した。ジョンはニューヨーク屈指の富豪の一人息子で、リディアの恋人だった。ジーナは、これ以上ジョンに迷惑を掛けたくないし、投資家から集めた金を身代金に使うわけにもいかないので自分で用意するという。金をゴミ箱に運ぶのはジーナに頼みたいのだと。

 犯罪がらみの依頼だと知ってアンドリューは青くなってリディアが引き受けるのは止めさせようとした。リディアに難しい仕事だとは思えない。引き受けた。アンドリューはビルと一緒ならと、しぶしぶ諦めた。リディアは。アンドリューまでもが他の兄たちと同じように赤ん坊扱いするのは許せなかった。

 翌早朝、リディアは指定された時刻に、ジーナから預かった封筒を抱えて公園に行った。ビルはホームレスの隣のベンチに座っていた。ゴミ箱に封筒を置いて振り返らずに歩き始めた。銃声がし、咄嗟に木陰に走り伏せた。横で土煙が上がった。銃声が止み、ゴミ箱に戻ると封筒は消えていた。ビルもいなかった。

 警察車両が集合し始めた。誰も何が起きたか分からなかった。人垣の後ろにビルがいた。刑事がビルを見つけてからんだ。ハリー刑事は、以前ビルが介入した事件で不法捜査がバレ左遷された過去がありビルを恨んでいた。ビルも何も話さず逃れてきた。銃を撃った男を追ったが見失ったという。封筒の行方は分からない。ドジな探偵。リディアは悲しい。

 シェルシーのジーナのスタジオに行った。会議室にはジーナがデザインした息をのむような衣服があり、メインモデルのアンディーが着ることになっている。モデルたちの写真が壁に掛かっていた。ジーナはリディアがモデルをやれば似合うといった。身長のないリディアにモデルが務まるとは思えない。しとやかさがなく、トラックのように歩くと言っている母に聞かせたいものだ。
 金は横取りされたようだが、まだ犯人からは連絡がなかった。ジーナは犯人の心当たりがあると言い出した。先月辞めたウェイン・ルイスではないかと。ジーナのスタジオではボタン問屋が急に売れないと言ってきたり、チャイナタウンの縫製工場がスケジュールが合わないと断ってきたり問題が相次いでいた。ウェインは自分で辞めたのだが、辞めさせる積りだったので恨んでいると思うと。問題が起きる都度、ジョンが飛び回って対処していると。
 チャイナタウンの縫製工場の主ローランド・ラムは知人だった。ロスで整形外科医をやっている兄エリオットの同級生である。ハーバードでMBAを取得していたが長男なので父の死後、工場を引き受けていた。香港から移民してきた母は縫製工場で働いた。子供時代リディアは母の横で糸を切るのを手伝い工場で飛び回って遊んだ。縫製工場は自分の家のように詳しい。今でも大半は不法移民労働で成り立っている。今でも繁忙期には手伝いに行く母は、福建ばかりで広東語が通じなくなったと嘆いている。

 ウェインはビレッジの近くに住んでいた。電話して、説き伏せて午後会う約束をした。ビルを呼び出して、ゆっくりとランチし、一緒にウェイン宅に向かった。
警察車両が来て、野次馬が集まっていた。男がサイレンを鳴らさずに救急車で運ばれた。殺されたのはウェインだった。強盗事件のようだという。
 ビルはハリー刑事に狙われている。警察に話さなければトラブルになりそうだが、ジーナの事情を考えれば話せない。ビルは承知して帰っていった。

 ブースで母に電話しているリディアの前で、モデルっぽい女が男を待ち構えて歩き始めた。男はジョンだった。リディアは尾行した。ドアマンと知り合いらしい最先端のクラブに入っていった。リディアは髪をくしゃくしゃにし、ブラウスのボタンをギリギリまで開けて、ジョンと約束していると入っていった。不審げにながめながらもドアマンは通してくれた。
 クラブはロックのサウンドが響きモデル風の男女が群れていた。ジョンの相手はモデルのアンディーだった。リディアはテーブル席で顔を寄せている二人が見えるカウンターに座った。調子のいい男が声をかけてきた。「モデルで成功する」と。リディアはロスからモデルになりたくて出てきた女の子を装った。「ミシカ・ヤマモト」だと。男はエベレストモデル事務所のエド・エベレストの名刺を渡し、明日来てくれという。アジア系のモデルを専門に扱っているのだと。
 男が去ると、モデル風の女が隣に座り「エドとは付き合うな」と言った。フランシーと名乗った。
 
 ジョンはアンディーに金を渡して帰った。リディアがアンディーに話しかけるとフランシーが来て「ウェインが殺された」とアンディーに言った。アンディーは困った様子だった。リディアは、アンディーとウェインが知り合いなのは分かったが詳しい事情は教えてはくれない。

 クラブを出て事務所に電話を入れるとジョンの母親から留守電が入っていた。電話すると、話があるので、すぐに来てくれという。アッパー・イースト・サイドの屋敷に向かった。ジーナから何用で雇われたのか話してくれという。金は払うと。人からノーと言われたことのない強引な夫人だった。彼女には孫に中国人の血が混じることは耐えられない。ジョンとジーナを引き離すため、ジーナを破滅させようとしていた。探偵のライセンスを取り上げることもできると脅された。だが、リディアは断って屋敷を出た。

 アンドリューが至急会いたいという。ビルに連絡して店に向かった。途中で忍者装束の男に襲われた。リディアはテコンドウの黒帯である。負けはしなかったが勝ちもしなかった。男は「事件から手を引け」と言って消えた。店の化粧室で頬の傷にあたった。アンドリューは気付かなかったがビルは気付いていた。店は最近開店したアンドリューお気に入りのコリアン・サパークラブ「デヴィッド・キム」である。アンドリューは今回の事件はジン姉妹の家庭問題だろうという。ジーナの8歳下の妹ドォーンはモデルだがあばずれでジーナが手を焼いていたと。警察に知らせないのは犯人が妹だからで、ウェインが犯人らしいと言ったのはリディアが気付かないよう他に目を向けさせたのだろうと言う。アンドリューはドォーンの居所は知らない。姉妹問題だから、これ以上手を出さない方がいいと。

 11時過ぎ、チャイナタウンに戻った。長い一日だった。アンドリューがリディアに手を引かせたがっていることは分かっている。ドォーンを見つけて話を聞かなければ。

 翌朝、寝過ごしたリディアはビルに電話を入れた。早起きのビルはジーナとジョンの口座を調べていた。ジーナは先日クレジット枠マックスまで借り入れていた。5万ドルの出所である。ジョンは文無しだった。口座の借入枠もなかった。何故、ジョンが5万ドルを出すといったのか不審だった。

 良い子のリディアは母に頼まれていた野菜を買いに屋台に出かけた。帰りにローランド・ラムに声を掛けられた。チャイナタウンは狭いので偶然に出会っても不思議ではない。返還を控えた香港から進出してきたベーカリー「マリヤ」でお茶することになった。次兄エリオットの同級生なので7歳ほど年長である。家族の近況を話し、仕事の話になった。ジョンからリディアの評判を聞かれたので誉めておいたと言う。チャイナタウンの仁義である。ジーナから頼まれた仕事を聞きたがったが話せる訳がない。また会おうと分かれた。
 戻ると母は既に知っていて舞い上がっていた。ローランドはハーバード出のMBAで工場のオーナーである。

 ドォーンの行方を捜した。シカゴの実家に電話したがジーナを通じて連絡しているという。ジーナには聞けない。モデル業界にあたったが昔も今もドォーン・ジンというモデルはいなかった。別名で働いていたのかもしれない。アジア系専門だというエベレストを探ることにして、リディアは再度ヤマモトになってエドの事務所を訪問した。リディアを歓待したエドは美容院、服飾店、写真スタジオに行くように言った。モデルは経費は自前なので悪質なモデル事務所はモデル志望者をカモにしてピンハネをを業としている処もある。だが、エドは金を用意できないのなら自分が出すと言って、美容室を秘書に予約させてリディアを送り出した。

 モデルご用達の美容室「チューリップ」はエベレストと特別契約をしているので予約なくとも至急で対応してくれる。受付の女性は目を合わせようとしない。無理に話すとエベレストはモデル事務所と称しているがモデルと言えそうな人は聞いたことがないという。リディアは声を上げる暇もなく坊主頭に近いヘアスタイルになった。ドォーン・ジンは来たことはないと言う。ドォーンを見たことがないのでジーナの風情の女性を尋ねるとパール・ムーンかもと。一時、エベレストにいたのだという。

 ビルに電話してランチした。ビルはリディアのヘアスタイル、ファッションが気に入った。ビルはリディアのすることなら何でも気に入る。
ビルは警察署の知合いに頼んでマディソン・パークの銃撃の弾痕とウェイン殺害時の弾痕の写しを入手していた。同じ銃から発射されていた。警察の管轄が違うので、関連しているとは知らない警察も知らないはずだ。

 アンドリューはパール・ムーンを知っていた。クラブで会うと。引き合わせてもらうことにした。ドォーンかもしれないと言うと絶句した。

 ビルとウェインのマンションに聞き込みに行った。住民がウェイン宅が侵入されているのを発見して警察に通報したところだった。警察と誤解された二人は住民にせかされてウエイン宅を調べに行った。PCや電子手帳のマニュアルはあったがデータは残されていなかった。強盗事件だとしている警察が証拠物件として持ち去った筈はない。本物の警官が来たので逃げ出した。

 ローランドから電話があった。「仕事を頼みたい」と。工場の女工が行方不明になったと。移民の中国女が一人消えたからと私立探偵に調査を依頼する工場主はいない。リディアが問い詰めると、ローランドは自分の子供を宿しているからだと言った。会ったばかりなのに探偵仕事が生じるのも都合がよすぎる。リディアは疑念を抱きながらも引き受けた。
 女工の雑居宿に連絡すると男が出て、クィーンズに逃げたと言い、曖昧な場所を教えてくれた。男は広東語を喋った。女工は福建の筈である。工場前の宝石店で働いている知人に聞くとローランドには女はいないと断言した。リディアは、ローランドはジーナの事件から目を背けさせようとしているように思えた。

 兄アンドリューが重要な話があるというので彼のロフトに行くと、ジーナがウェインが犯人だろうと言ったのは妹のドォーンを庇っているからだという。妹はモデルだったが問題児で薬の金に困っていた。妹だから事務所の事情にも通じている。姉妹の問題だから手を出すなと。アンドリューはドォーンの連絡先は知らなかった。パールムーンと名乗っているかも知れないと言うと、彼女なら知っているという。時々、クラブで出会うと。

 リディアはアンドリューとトニーに連れられて、ジムと近くの高級クラブに出かけた。モデルファッションのリディアは追い返される恐れはない。
 トイレで、「エドの事務所の女だろ。帰れ!」とハイファッションの女から声を掛けられた。パールムーンだった。ウェインとエドの間で、このクラブはエドの事務所の者は立ち入らないことになっているのだと。彼女がドォーンだった。
 アンドリューはパールムーンは高級娼婦だと知っていたがドォーンとは知らなかった。彼女はエドと知り合って、娼婦の道に入り、今ではNYでNO1のコールガールだと言った。ウェインは紐ではなくドォーンのマネージャーだった。パールムーンと称しているのは姉ジーナの相手ジョンが上流家庭で迷惑を掛けたくないからだと言う。
 ドォーンはジーナの脅迫事件を詳しく知っていた。

リディアはローランドを女工の情報を掴んだとチェルシーまで呼び出した。渋りながらもローランドが出かけた隙に、移民管理局だと名乗って工場に乗り込んだ。大半の女工は不法移民なので工場はガラガラである。聴取するとローランドの事務室に入り調べ始めた。
 ゴミ箱に封筒が捨てられており、リディアが5万ドル入れて公園に置いてきた封筒だった。ローランドは恐喝事件に関わっていたのだ。

 ジムに報告しようと電話すると、ジムは13分署に連行されていた。ウェイン宅に侵入していたと知られ、刑事ハリー・コーチから知っていることを話せと責められていた。ハリーは無実の少年を殺人犯に仕立て上げようとしたのをジムに暴かれ、左遷されてジムを恨んでいた。リディアは分署に行った。ハリーの相棒、風紀課のロッシー巡査は、エドの事務所に組織売春を立件しようと潜入捜査していたフランシーだった。ハリーは、ドラッグ取引が疑われるウェインのリストを隠していた。ウェインはエドと関係している。ドラッグ事件になればエドの組織売春案件はハリー、ロッシーの手を離れ、ハリーが浮かび上がるチャンスは消える。ハリーがドラッグの顧客名簿だと思ったリストはドォーンの顧客リストだった。リディアは説明し、ジムと共に分署を出た。

 リディアはビルにローランドの事務室で見つけた封筒を見せた。ローランドはリディアをクィーンズに追いやろうとしていた。存在しない女工を探させに。今、何かが起きようとしている。

 アンドリューから緊急だと言われて行くと、ジーナのスタジオのスタッフ、ブラッドが来ていた。ブラッドは、ミセス・リヨンからゲイだと両親に告げると脅されて事務所の情報を流していたのだという。ジーナの取引先はリヨンが手を回してジーナとの取引を断ってきた。ブラッドがリヨンに話したらすぐにウェインが事務所を辞めたのも金につられたからだった。事情を知ったブラッドは回復不可能な情報だけは流さないようにしていたと言った。
 ブラッドは、リディア以外の家族にはゲイだと言っていないアンドリューを信じており、諭されてリディアに告げたのだった。

 ジーナが助けてと連絡があった。犯人から百万ドル出せと言ってきていると。犯人から、公園で受け取れなかった5万ドルを渡せと言ってきたので、ジョンが銀行に寄って自分の金5万ドルを引き出し、指定された電話ボックスに置いてくることになった。だが、ジョンは金を取った男を尾行し、見つかって連れ去られたのだという。犯人はジョンと引き換えに百万ドルを持って来いと云ってきたのだった。
 ジーナに百万ドルは調達できない。ミセス・リヨンに頼むしかない。ジーナに付き添って、リディアもミセス・リヨン宅に依頼に行った。

 ミセス・リヨンはジーナの話を信じなかったが、百万ドル貸そうといった。2度とジョンに会わなければ返さなくていいと。ジーナは彼女の冷酷な条件を飲まざるを得なかった。
 ジョンから電話があり、寂れた街のビルを指定された。ローランドは声を聴かれないためジョンに話させているようだった。事実だと信じたミセス・リヨンは蒼白になった。

 一緒に行きたいというジーナを説得して、リディアは百万ドルを抱えてビルに向かった。荒廃したビルの地下に、ジョンが目隠しされて椅子に縛られていた。銃を持った忍者服2人がおり、「本当に一人か」と言った。ローランドだった。「工場から逃げ出す機会を無駄にしたくない。リディアを巻き込みたくなかった」と云って銃を向けた。
 後ろから「銃を捨てろ!」と、ビルの声がした。ローランドは横に飛び銃を撃った。ジョンの後ろに隠れた。リディアも撥ねて床に伏し、銃を抜いた。ビルの後ろから銃声がして、もう一人の忍者服を倒した。覆面の下はアンディーだった。
 騒ぐジョンをローランドが殴り、ジョンは気絶して倒れた。姿を見せたローランドを射殺したのはドォーン。このビルはジョンの所有で、知っていたドォーンがジムを案内したのだった。
 ドォーンはジムから百万ドル恐喝の話を聞いてジョンの狂言だと見抜いた。ジョンは父の残した信託の名義人だが管理者はミセス・リヨンでジョンは実質的に文無しだった。ジョンに渡した金はジーナに行くとミセス・リヨンは思っていたのだから。銀行で5万ドル引き出せる訳もない。
 ジョンがジーナに渡していた金はドォーンが出していたのだった。姉の夢の実現を願っていたドォーンだったが、妹の金、売春で稼いだ金をジーナが受け取ってくれるとは思えなかった。

 警察に連絡した。ジョンは病院に運ばれ、ドォーンは消えていた。

 リディアは病院でジョンと話した。ローランドが考えた計画だったと云った。ローランドは工場に嫌気がさし、お気楽な兄弟達の面倒を見るのにも吐き気がしていたと。手持ち資金がないジョンにも好都合だし、ドラッグ中毒のアンディーは僅かな金で何でもしたと。だが、最後に自分も殺す計画だったとは気付かなかったと。

 ローランドがウェインを殺したのは、彼とドラッグ取引をしており発覚しそうになったからだった。
 リディアは事件の全容を警察には話せない。ジーナを悲しませたくはない。

 足止めされていたジーナが病院にジョンに会いに来た。「マンダリン・プレイドはいらない。欲しいのはジョンだけ」と泣いた。

 5日後、ジーナから電話があった。「ジョンが行ってしまった」と。
置手紙には「迷惑しかかけなかった。去る事で償いたい。詳しくはリディアに聞いてくれ。百万ドルでショーを成功させてくれ」と書いていたと。
 そして、リディアにショーでゴールドのガウンを着てくれと頼んだ。予定していたアンディーはいなくなった。

 ファッションショー当日、客席は満員で、前列にはカメラマン達が陣取っていた。ジーナも驚いている。リディアは震えた。ジムや母も来ている。
 ジーナに「なぜ、マンダリン・プレイドなの?」と聞いた。「中国3千年の歴史の中で、縞模様はなかったの。こんなにシンプルなのに」とジーナは囁いた。
 舞台脇のディレクターが「ゴールド、ゴー」と指示を出した。リディアは舞台に出た。モデルらしくない短身で、しかも裸足である。バッグもアクセサリーもない。ゴールドのマンダリン・プレイドだけである。リディアだけである。拍手が聞こえた。リディアは客席を見ることなく、ジムと母の姿を追った。