ゲイの銭湯事情

 せっかく三連休だというのに、三日とも家の中で過ごすというのも勿体無いような気もして、でも気合を入れてどこかへ出かけるという準備もしていないし、気分でもなかったので、引っ越しの見積で貰ったクーポンでスーパー銭湯へ彼氏と行ってきた。前に一度行ったことがあり、天然温泉100%の広い露天風呂がとても良かったので、また来よう思っていた。それが割引で入れるなんて何という僥倖だろうか。

 最寄りの駅で電車を降りて、歩く。歩く。
 あれ、前に来たときこんなに歩いたか。と記憶にアクセスしたら、前は車で来ていたんだと納得した。坂を登ったり降りたり、徒歩の客を拒んでいるんじゃないかと思っているうちに到着した。車で来ていないのに、車の凄さを歩きながら讃えた。 


 お客さんもそんなにいなかったし、タイプの人もいなかったので純粋に温泉を楽しんだ。
 タイプの人がいたらどうなんだと言われたら、そりゃあ見る。ちらっと見る。あまりジロジロは見ない。「露天風呂気持ちいい~、空がきれいだな~、塀の向こうには松の木が生えてるな~、おや、塀のこちらには松茸があるじゃないか。松茸食いてぇな~」くらいのテンションである。

 「ゲイにとって銭湯はパラダイスでしょ」と思われるかもしれないが、そうでもない。パラダイスがどんなところかは、人によって想像の幅があろうが、南の島のリゾートを想像していたらそれは大きな間違いである。
 銭湯なんて自分と同じような裸の男たちが風呂に入っているだけで、それ以上でもそれ以下でも無いのである。この不純な魅力を例えるなら、『福利厚生で利用できる郊外の保養所』くらいの魅力しか無いのである。

 そしてノンケ男性全員が、混浴に入りたいと思わないのと一緒で、ゲイの中には銭湯が苦手だという人もいる。自分も若いときは恥ずかしいと思っていた。おじさんになるにつれて平気になってきたが・・・。(今の体型の方が恥ずかしいはずなのに)

 

 結局二時間くらい入ってすっかりのぼせてしまった。

 帰りに靴のロッカーで、20代くらいの爽やかな二人組男子が入って来るのを目撃して、南の島の椰子の実を想像しながら、下唇を噛み締めた。