人気ブログランキングへ

Shining Rhapsody

オリジナル小説の投稿がメインです

268話 合流

 268話 合流

 

 

魔拳の基本と応用を披露し、用は済んだとばかりに移動を再開するシュウ達。本来の予定であれば、アースによる偵察が済んでからのはずであった。しかし見渡す限りに広がる墓場に、その必要性を感じなかったのである。

 

進む程に強まる腐臭に、全員が耐えかねたというのも大きいだろう。風を自在に操るエアであっても、階層いっぱいに広がる臭いには対処出来ない。クサイ部屋の中で囲いを作った所で、既に手遅れである。

 

 

 

かつてない速度で飛ぶエアのお陰で、あっという間に21階層へと辿り着く一行。

 

「・・・今度は森じゃな。」

「じゃあ、早速様子を見て来るか。」

「待ってくれ。」

 

割り当てられた仕事をこなそうとするアースをシュウが呼び止める。

 

「何だ?」

「偵察は必要無い。」

「どういう事じゃ?」

「ここは見通しが悪いだろ?見付けられるかどうかは運の要素が大きい。だったら無理に探して合流しようとするよりも、先を急いだ方がいいはずだ。・・・魔物も狩り尽くされてるだろうし。」

「目的地はわかっていますからね・・・。」

「あぁ。それにもし追い越したとしても、オレだけがケルベロスの前で待っていればいいしな。」

 

シュウとは違って、ナディア達の目的地はもっと先にある。ならば、シュウに合わせて移動する理由は無い。何時現れるかもわからないユキを、一緒に待つのは時間の無駄だろう。

 

全員がシュウの意図を理解して頷き、すぐさまエアが飛び立つ。しかしその速度は今までよりもずっと遅いものだった。

 

見付けられるかわからないからといって、全く見ない訳にもいかない。全員が観察出来るよう、ゆっくりと飛ぶことにしたのである。そんなシュウ達の努力は、24階層で報われる事となった。

 

最初に気付いたのはエア。本来の姿の為か、その場の誰よりも感覚が鋭かった。

 

「この先・・・集団で移動する物音がするのじゃ。」

「集団?ならフィーナ達ね!このまま合流しましょう!!」

「いや、一旦追い抜いて24階層の出口で待とう。」

「何でよ?」

「今のエアが近付いたら警戒するだろ?」

「出口に降りても警戒するんじゃない?」

「それならそれでいいさ。奥に向かう以上、誰かしら偵察に来るだろ?」

「それはまぁ・・・そうね。」

 

シュウとナディアが言うように、エアの存在に気付けば警戒するだろう。しかし接触の仕方によって相手の対応は変わってくる。突然接近すれば身を潜めるはず。無理に近付こうとすれば、バラバラに逃げるかもしれない。それでは呼び集めるのに時間が掛かる。

 

一方でシュウが言うように、出口で待ち構えても警戒はされるだろう。しかし状況を確認せずに引き返すような真似はしない。彼女達の目的地はその先なのだから、どうにか進もうとするはずなのだ。

 

 

ナディアも納得した事で、エアは一気に出口へと向かう。そのまま出口の眼の前へと降り立つと、シュウは徐に料理をし始めた。昼食にはまだ早いのだが、決まった時刻に食事を摂れないのが冒険者。誰も文句を言ったりはしない。場合によっては食事抜きもあり得るのだから、食えるだけマシだろう。

 

直にフィーナ達も合流する事を考えると、人数分の調理には時間が掛かる。積もる話もあるだろうし、しっかりした食事でも構わないはず。そう考えたシュウは、肉をメインに調理する。

 

 

まずはナディア達に昼食を振る舞い、続けてフィーナ達の分へと取り掛かるシュウ。しかしその表情は険しい。

 

「流石にここから追加で冒険者20人分のハンバーグはキツイな・・・。」

「おかわりなのじゃ!」

「私もお願いします!」

「・・・・・。」

 

エアとアクアが元気良く、アースは無言で空いた皿を差し出す。

 

「やかましいわ!そもそも食い過ぎだろ!!野菜を食え、野菜を!」

「このはんばーぐ?とやらが美味過ぎるのがいかんのじゃ!」

「早くしろ!」

「よ、ヨダレが・・・」

「・・・・・。」

 

この3人、既に200グラムのハンバーグを各々10個平らげている。・・・ハンバーグだけを。

 

未だ収まる事を知らない食欲に、シュウは思わず声を荒げる。しかしそんな事はお構いなしに、おかわりを催促する竜王達。ナディアはそれを冷ややかな目で眺めていた。

 

シュウが文句を言うのも無理はない。そもそも、5人で1ヶ月分の食材しか持参していないのだ。しかも普段の食事量を把握していた為、その2割増しで。見通しが甘いと言われればそれまでなのだが、それでも肉をこれ程消費するとは思わなかった。だからこそ言わずにはいられない。野菜を食え、と。

 

 

賑やかなシュウ達は警戒心を解いていた。だからこそ、接近する人影に気付く事が出来ない。まぁ、相手に敵意があれば気付くのだが。

 

ーーガサガサ!

 

「「「「「っ!?」」」」」

草木が揺れる音に、騒いでいたシュウ達が一斉に顔を向ける。

 

「ルークのお肉の香りがする!」

「焼けたルーク肉の匂いだ!」

「言い方を考えろ!って、ソルトにブラスカ!?」

 

思わずツッコんだシュウだったが、相手の姿を確認して驚きの声を上げる。

 

「シュウ君!とりあえずハンバーグ!!」

「とりあえずビールみたいに言うな!って・・・」

「「「「「ユキ!?」」」」」

 

 

全く無警戒だった出口からの呼び掛けに、シュウ達が一斉に振り向く。まさか次の階層から戻って来ようとは、一体誰が予想出来ただろう。しかも、ハンバーグの匂いに釣られて・・・。