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Shining Rhapsody

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273話 シュウの仮説

 273話 シュウの仮説

 

 

作戦会議を終え、警戒しながら出発した一行。警戒とは言うものの、その対象は当然ユキである。そもそもユキが現れたのはシュウ達の先、25階層だ。即ち、25階層の魔物は狩り尽くされている事を意味する。他に警戒する対象がいないという事。総勢26名の注目を浴び、如何にユキと言えども隙を見付けられずにいた。

 

(流石にこの包囲網を抜けるのは難しいかもしれない・・・)

 

時折撹乱しようと緩急を付けるも、エリド村の住人達は難なく対応してみせる。決して包囲網を崩さずユキを取り囲むのだ。連携に加われないフィーナやナディア達に関しては、危ないと感じた所のカバーに入る。仮に突破されたとしても、すぐにフォロー出来るだろう事はユキにもわかる。

 

 

緊張状態を保ち続けるエレナ達とジワジワ焦り始めるユキ。そんな中でも特に目立った動きを見せないのがシュウである。だがそれは第三者目線での話。最も厄介な事は、誰よりもユキが感じていた。

 

(一番の問題は、シュウ君が付かず離れずの距離を崩さない事。勿論私が本気じゃないのもあるけど・・・)

 

自分が本気を出せば。そこまで考えて思考を中断する。何故ならそうなった場合、シュウも本気を出す事が容易に想像出来てしまったからだ。準備万端で待ち構える格上を相手に、真っ向から立ち向かうのは愚策である。そしてユキが本気を出すという事は、誰かが傷つくという事でもある。そこまでする価値も意味も無いのだから、考えるだけ無駄というもの。

 

(とりあえず、魔物を狩りながら隙を伺うしかない、か。せめて転移出来たらなぁ・・・。)

 

とりあえず、今出来る事をしようと気持ちを切り替えるユキであった。

 

 

 

 

(転移出来たら、とか考えてるかもな。転移不可で助かったって所か。)

 

長年連れ添っただけあって、相手の考えている事などお見通し。これこそが、ユキがシュウ達を出し抜けずにいた最大の理由でもある。駆け引きとなると、前世のユキでは圧倒的に経験不足。当然ティナの経験に頼るしかないのだが、そうすると今度はエレナ達がお見通しである。どちらに転んでも、ユキが圧倒的に不利なのは変わらない。

 

そして唯一の懸念である転移が出来ない事は不幸中の幸い。胸を撫で下ろしたシュウであったが、ここでふと疑問が湧く。

 

(考えた事も無かったけど、そもそも何故転移出来ないんだ?・・・入った者を逃さない為?いや、それだと近寄らなければ済む話。なら、簡単に最深部へ近付けない為?来られると困る物があるって事か?待てよ?その仮説だと、途中まで進むと転移出来なくなる説明がつかないか。)

 

どちらとも取れる疑問に、珍しく考察を続けるシュウ。普段であれば、答えの出ない疑問は切り捨てている。しかし今回いつもと違うのは、単に『勘』というだけであった。何故か考えなければならないような気がしたのだ。

 

 

ユキが大胆な行動に出ないと踏んで、シュウはさらに考え込む。

 

(以前は気にしなかったけど、カレンも足を踏み入れてるはずなんだよな。それって、何か目的があったって事か?それとも何があるのか確認したかった・・・ん?)

 

この時点で不可解な点に気付く。

 

(待てよ?ライムのダンジョンが向こう側に続いてる事を知っていたのは何故だ?・・・あのダンジョンは踏破してるって事か!なら、カレンが引き返したダンジョンは何処なんだ?)

 

他のダンジョンに関する情報を持っていないが、そうである可能性は高い。すなわち、今現在シュウ達が居るダンジョンである。そうなると、仮説はさらなる仮説を呼ぶ。それも悪い方向へと。

 

 

(魔神を封印した場所は、幾ら聞いても答えてくれなかった。逆に考えれば、その場所は此処じゃないはず。それ以外にカレンが訪れる理由があるとするなら、何があるのか確認したかった。もう1つは・・・此処に有る、或いは此処に居る何か、誰かに用があった?まさか・・・)

 

考え得る最悪の可能性。内心で呟く事も無く、思考を中断する。この世界には居ないと言っていた者の存在。それはアークも口にしていたのだが、鵜呑みに出来る程の信頼を寄せてなどいない。

 

 

(どうする?みんなにも伝えるべきか?・・・いや、こんなのはオレの想像でしかない。クリスタルドラゴンの存在が裏付けになるかもしれないが、言い換えればそれだけだ。もう1つか2つ、決定的な何かが見付かってからにすべきだよな。)

 

確度の高い推測であれば伝えるべきだが、現時点で伝えるのは無駄に掻き回すだけにしかならない。そう思ったからこそ、いつも通りに口を噤む。そして今後の方針が決まった事で、シュウは自らが取るべき行動を模索する。結局のところ、選択肢は1つしかなかったのだが。

 

(やっぱり片っ端から鑑定してみるしか無いよな・・・。)

 

久しく使っていなかった鑑定魔法。それを只管に使おうというのである。クリスタルドラゴンと同じ、『改造種』の表記を探す為に。おそらく居ないし、居てももっと奥深くだろうとは思う。だがそれを無理に探し出す必要は無い。現時点では、藪をつつく意味が無いのだから。

 

 

そのような存在が他にもいるようなら、シュウの仮説は現実味を帯びてくる。魔神かそれに近しい何者かが存在するという、荒唐無稽な仮説の証明・・・。