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Shining Rhapsody

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287話 50階層2

 

 287話 50階層2

 

 

 

 

出会う魔物全てを一撃で仕留め、危なげなく突き進むシュウ。初めの内は魔弾を見せていたその戦いも、50階層を半ばまで進んだ所で魔拳に切り替える。充分ナディアに披露したのと、自身のウォーミングアップを兼ねての事。

 

その魔拳についても魔物を一撃、或いは二撃を以て仕留めていた。ユキの「肉!」という視線を受けて、頭部を破壊するに留める為である。全て一撃でない理由は、単純に身長差があっての事。トロール等の魔物は、高身長のシュウよりも遥かに大きい。拳が届かなかったのだ。

 

足を払ったり、ボディーブローで相手の姿勢を崩す等の工夫を凝らして、相手の頭部を近付けていた。当然これに関しても、ナディアを考慮しての事。魔法を使えないナディアは、不用意に飛び掛かるといった真似が出来ない。いや、決して出来ない訳ではないのだが、身動きの取れない姿勢を作るのはお勧め出来ない。

 

 

そんなシュウの闘い方も、並の冒険者であれば呆然と「凄い」の一言で済ませるだろう。しかし、この場に居るのはいずれも実力者。改めてシュウの恐ろしさを噛み締めてる。

 

「・・・貴女達の夫は恐ろしいですね。」

「そう、ね・・・」

 

ポツリと本音を零したアクアの言葉に、すぐ横に居たナディアが答える。だがその反応も、心が込められたものではない。何故ならシュウの一挙手一投足を、自身の脳裏に焼き付けようと必死なのだ。

 

「オレ達には真似出来ないな。」

「そうじゃな。魔法だけでなく、武器の扱いに於いても隙が無い。さらに素手の戦闘も、となれば・・・正真正銘の化物じゃ。」

「特筆すべきは、規格外の状況判断と処理能力か。あれだけの乱戦にあって、必要最小限の威力に留めてやがる。」

「お手本のつもりなのじゃろうが、果たしてナディアは何処まで近付ける事か・・・。」

 

冷静に分析するエアとアースの先には、多種多様な魔物に取り囲まれるシュウの姿があった。統率の取れた魔物が居ない50階層では、遭遇した魔物が一挙に押し寄せる。ソロで挑む場合、数に対抗する為には幾つかの闘い方というものがある。

 

1つは圧倒的な大火力、或いは広範囲に強力無比な一撃を以ての殲滅。竜王達がこれに当たる。大別するなら、ユキもそうだろうか。本来ならばシュウも此方に含まれる。

 

もう1つは押すか引くかしながら、常に少数を相手し続ける事。これがナディアであり、ユキもある意味含まれる。

 

 

だが現在のシュウはその何方でもない、と言うか両方を選択していた。一挙に押し寄せる魔物達。だがそれは同じ速度、同じタイミングではない。魔物の種類によっては力も速度も異なる。厳密には、同種の魔物であっても個体差がある。

 

どの魔物の攻撃が、どの程度の時間差で到達するか。瞬時に見極め、最適な回避と攻撃を選択して行く。ある程度の実力者ならば、短時間は可能な闘い方。だがシュウは、それを継続しているのだ。竜王達やナディアが驚くのも無理はない。だがそこにあって、やはりユキだけは考えが異なる。

 

(基本的な突きや蹴りだけでも驚異だと言うのに、シュウ君には神崎の技があります・・・。対人戦闘に特化しているとは言うものの、魔物相手に全く使えない訳でもありませんし。今の私では、万に一つも勝ち目は無さそうですね・・・)

 

冷静に戦力差を分析するが、ユキは別にシュウと敵対するつもりなどない。だが冒険者たる者、何時誰と敵対するかわからない。優劣を付けたのは、長年冒険者として活動して来たティナの記憶と経験によるものであった。

 

そんな快進撃というか蹂躙にも、50階層のボス部屋間近で変化が訪れる。突然シュウの構えが変わったのだ。この変化に反応したのはユキ。当然他の者達も、ユキの戸惑いに気付く。

 

「っ!?」

「どうしたのじゃ?」

「ナディア・・・」

「何?」

「絶対にシュウ君から目を離さないで下さい。」

「?・・・わかったわ。」

 

良くわからないが、そう答えるナディア。何時になく真剣な表情のユキに圧倒されたのだ。

 

 

 

 

この時、シュウはウォーミングアップの仕上げに入っていた。

 

(ゴーレムが・・・3体?しかもあの色、前回は居なかったアイアンゴーレムか?クリスタルドラゴンの前に、丁度良い相手かもな。)

 

ここまで肩幅程度に開いていた足を、もう一段階広げる。軽く曲げる程度だった膝をさらに曲げ、左足を前に出す。左手を顔の前、右手は腰の辺りに構える。そのままアイアンゴーレムの突進を待ち構えようとしているのは、ユキ達の目にも明らかだった。

 

圧倒的体格差のゴーレムを相手に、真っ向勝負の様相を呈したシュウ。誰が見ても無謀としか言いようのない光景。それでも動く様子の無いシュウに、距離を詰めたゴーレムが右腕を振り下ろす。

 

「まずは・・・足技。飛燕!」

 

――ドォォォン!

 

ナディア達には頭部を目掛けたハイキックにしか見えなかったのだが、ゴーレムは何故か頭から地面に叩きつけられる。予想外の展開に、誰も声を発する事は出来ない。

 

もう少し知能が高ければ戸惑いを見せたかもしれないが、所詮はゴーレム。残る2体が躊躇う素振りも見せずに襲い掛かる。

 

「次は投げ技。鳴雷!」

 

――ドォォォン!

 

今度は左腕で掴み掛かって来たゴーレムの腕を取った。ようにしか見えなかったのだが、此方も頭から地面へ真っ逆さま。

 

「最後は・・・打撃かな。穿鏨(せんざん)!」

 

――ガァァァン!ズドン!!

 

シュウはゴーレムの右腕を引いただけにしか見えなかった。しかし結果は、胴体から真っ二つ。これには全員が声を上げる。

 

「「「「「なっ!?」」」」」

「・・・まぁ、こんなもんか。」

 

動かなくなった3体のアイアンゴーレムを一瞥し、シュウが不満そうに呟く。驚愕し固まっていたナディアも、この言葉で再起動を果たす。

 

「ちょっ、今のは何!?」

「ん?何って・・・初歩的な技?」

「な、何が起こったのじゃ!?」

 

初歩的な技。そう言われても納得出来ないエアが聞き直す。

 

「何って、態々手の内を晒す程、オレはお人好しじゃない。自分達で考えてみろよ。」

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

 

手の内を晒さない。それはこの場の全員に言える事。結局それ以上は問い質す事も出来ず、ただ只管思考に耽るナディア達なのであった。

 

 

 

 

 

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あとがき

 

随分と更新が滞ってしまい、本当に申し訳ありません。本業があまりにも多忙で、執筆する時間がありません。オマケに体力の面でも余力が無く、休日もほとんど寝て過ごしている状況です。

 

ただ、今後は少しずつ改善されるはずですので、近々執筆を再開出来れば・・・と思っております。予定としては、クリスタルドラゴン戦の後にちょっとした事件を挟んで第二部完結。それから省略した幼少期に入ります。

 

今年中に第三部(幼少期)まで終われるといいな・・・。

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