magisyaのブログ

小説となぞなぞを投稿してます

9話 悪魔の爪痕

40階に向かうエレベーター内は

まるで病院の待合室の様な重苦しい雰囲気。

そして

 

「頭が凄く痛い・・」

 

「足の震えが止まらない」

ガクガク・・

 

「苦しい・・吐き気がする。ううっ何で?」

口々に症状を訴える。症状はプラネタリウムを出て

更に悪化している様だ。

今まで健康だった筈なのに、急に体調が悪くなり

誰もが不思議でならない様子。

そして、一人の大人しそうな女性が・・

 

「・・何か私おかしいの・・誰でもいいから

私・・傷つけたい・・助け・・ぐうおおおおおお」

そう言って暴れ出す。

その表情は鬼の様な形相で、まるで別人。

皆驚き、彼女を取り押さえようとする。

その細身の体からは想像できない程の力で振り払う。

 

「うわっ駄目だ、一体どうしたんだい? 

頼む、正気になってくれえ」

これは、恐らくユッキーを見て暴走したのだ。

目の焦点が合っておらず、無差別に周りを攻撃する。

 

 人の脳は、普段全力で行動する事を抑制している。

しかし、ユッキーを見た事で脳が暴走し

そのリミッターを強制的に外されてしまう。

その結果、本来の力を超えた力を出す事が出来る。

 

更には

誰しも心の奥底にほんの少しはあるであろう破壊衝動を

表面化するまでに増幅させる力がある。

当然、自分の限界を超えた力を出し続ける事は

ものすごい負担となる。

彼女にとっても、良い事ではない。

これが長時間続けば、彼女の命も・・

 

「ガアアアアアアアアアアアッ」

数人に取り押さえられ耳をつんざく様な

咆哮をあげつつ暴れる女性。

 

「だ、駄目だ、止められない・・」

押さえている人達が諦め始める。

 

「私に任せて」

アリサが女性の前に立つ。そして・・

 

「大丈夫! どうにかなりまーす。

Don’t worry. Be happy! 熱く お米食べなさーい! 

頑張れ! しじみ

 

これは? 一体何だろう?? ふむ 

アリサは、彼女自身も尊敬する、松谷修造の使う

ポジティブワードを彼女に語りかける。

 

「私、熱いお米食べる・・蜆の味噌汁で・・ハッ!」

どうやら気づいてくれた様だ。

 

「大丈夫かい? ああ良かった。ありがとうお嬢ちゃん

一体何を言い出すかと思ったけど効果があるんだね」

 

「ふふん、修ちゃんは万能なのよ

しかし・・これがユッキーの隠された秘密なのね・・」

ユッキーの残した恐ろしい爪痕を

初めて目の当たりにしたアリサ。

そしてエレベーター内の皆は

いつ再発するか分からぬ不安を抱えたまま40階を目指す。

初めてユッキーを見た瞬間感じた

不安は的中してしまった・・

アリサは益々正義の心が膨れ上がる。

 

 一般人は色々な症状が出ている様だが

暴走は特に酷い症状である。

人によって症状に差があるのは

恐らくユッキーが真上にいる席にいた為

直視してしまい暴走したのかもしれない。

そして、軽い症状の人は

離れた距離で周辺視野に入った程度と言う事であろう。

そして、症状は見た直後に起こるのではなく

少し経ってから起こるという事もわかった。

悪魔の爪痕は遅れて効果が発動する様だ。

そして、その中でもアリサは

見た瞬間に少し痛みを感じたが

後から来る症状が一つも出ていない。

それを周りの一般人と比べた事で

自分はやはり特別な耐性があると再確認する。

 

そして40階に到着。

自動ドアを開けると

大地と緑の香りがアリサを包み込む。

入り口で大きく深呼吸する。

すうーー はーーー

 

「あれ? 少しリラックス出来たかも知れないわ

大自然っていいわね。

よし、少し元気も出たしあれを探そう」

他の皆も、入り口付近でへたり込んではいるが

少し改善されている様である。

ここは、数回ユッキーを見る度に戻る拠点として

何度も訪れる事になるかもしれない。

 

この植物園は40階のフロアを全て使っていて相当広い。

世界の珍しい植物もある。 

ヤシの木 桜の木 サボテン ヒマワリ ハス

まだつぼみタンポポ ハエトリソウ ベイリーフ

偶偶タマタマ生えていた謎の草 ウツボカヅラ

ラフレシア チコリー フシギバナ キレイハナ 

至る所に緑、緑、緑。呼吸する度に

新鮮な空気が、体の内部を洗浄してくれる様だ。

 

毒はまだ残っているが、少し楽になり

足どりも軽くスキップなどしてしまう。

「よーし化け物を探すぞー

♪スキップスキップランランラーン♪」

 

植物園の中央には、大きな木がある。看板を見ると

コノキナンノ木というらしい。

 

「大きな木だなあ。見た事も無い木ですから

見た事もない花が咲くのでしょう」

確かにアリサの言う通り何かこう

気になる木であるな。なんとも不思議な木である。

なんとも不思議な実がなるのだろうな。

 

 アリサはこの木の周りを見てみる。すると

数人の人達が、その木の付近で苦しそうにしている。

 

「どうしたの?」

 

「はぁはぁ、この木の傍に来たとたん急に

髪の毛がボロボロ抜け出して、吐き気と頭痛が起こり

右肩が脱臼してしまって苦しいんだ」

何という不思議な木であるか・・男子にとって

毛が抜けると言う事は、命を失うに等しいと言うのに・・

恐ろしい・・一体何が起きているのだ?

 

「私もだ、私は左肩が脱臼してしまって・・

髪の毛も信じられない速さで抜けて行ったんだ

これ見てよ」

そういって携帯を差し出す。

見るとフサフサの男性が笑っている写真。

しかし、目の前にいる人は

髪の毛一本すら生えていない

人の理を遥かに凌駕する現象が

アリサの目の前で起こっている

何が起きたというのだろうか??

 

「え? この写真息子さんじゃないの?」

 

「違うって本人本人! まだ独身だって・・

こんなになっちまったらもうお婿に行けないよ・・」

泣きながら話す男性。

よく見ると髪の毛が地面にもっさりと落ちている。

そして、その毛は涙で濡れている。

今正に抜けたてほやほやの毛髪である。

 

「まさかこれは・・」

 

「え? 心当りあるのかい?」

 

「多分・・ね」

そういって木の周辺を探す。すると・・

規則的に並んでいる木の穴の様な物を見つける。

 

「あら? この木の穴、確かうろとかいったっけ? 

上の二つが目で、下の縦長のが口みたいに

見えるのよねー。まさかねー」

 

しかし、よーく見てみると、その三つの穴の上にも

もう二つ丸いうろがあり、それが耳の様になっている。

まるで絵画

 

『ムンワの雄叫び』

の表情をしたユッキーがうろで描かれていたのだ。

これは人工的に加工しているだけで

自然に起こった物ではないようだ。

 

「これも多分あれか。

そう思うとやはり脳に来るなあ。一応撮影っと

うわ・・こんな物心霊写真じゃない」

パシャリ

それまでうろだった物も

一度そう見えてしまうと瞬時に凶器になる。

うろ一つ一つには罪は無い。

しかし、その形を脳で感じ取った瞬間に・・

それは牙をむいて襲ってくる。

そして、一般人には、そこを通りかかっただけで

脱臼 脱毛 脱力感等を引き起こす。

・・? そういえば

プラネタリウムのユッキーとは症状が違う。

ユッキーの種類により、人に及ぼす症状も違う様だ。

しかし、人類に良い影響は何一つ与えてくれない

斉藤隆之はなんと厄介な物を量産しているのだ・・

何とかしなくては被害が拡大してしまう。

アリサに止められるのであろうか?

 

「流石にこれもマジックで塗り潰せないなあ。

うーんうーんどうしよう・・」

脳をフル回転させる。キュルルル

 

「そうだ! どこか一つ、うろを土で埋めればいいか

せっかく治療の為にここにきたって言うのに

これを見たら台無しよね

禿げてもてなくなる男の子達を守らなきゃ」

そう言うと、地面から手ですくった新鮮な土を

一つのうろに入れて埋めてあげる。

ポンポン

うろに土を詰め固める様に優しく叩く。

これで隠れユッキーとしての機能は損われた。

 

パアアアアア

 

周囲から邪気が消える。

するとコノキナンノ木の傍で

倒れていた人が起き上がる。

 

「あれ? 脱臼していたと思ったけど直ってる?

それに何か産毛が頭から生えてきている?

あー良かった・・」

 

 

「よし終わり・・って・・うーんまだ感じる

このフロアの何処かにあるみたいね」

 

しかしながらアリサレーダーは

まだここに隠れユッキーがある事を示している。

それが指し示す方向へと歩く。

 

「悪の気配、悪の気配!」

 

「どうしたの? 悪の気配ってどういう事?」

植物園の係のお姉さんが気になって声を掛けてきた。

 

「え? 隠れユッキーだよ。あれは人を弱らせる

ここの入り口にも大きな木の傍にもその被害者がいるよ」

 

「え? そうなの? そういえば最近偏頭痛が酷いのよね

まさかあれが作られたから? 言われてみれば

・・食欲もなんか無いし、よく眠れないし

そのせいでお肌もかさかさよ。急に老けたんじゃないか? 

って兄者にも言われたなあ」

 

「兄者って・・侍?」

 

「ううん? うちでは普通よ? 

そう言えば先月位から君主が準備していたわね。

しかも、色々な人に指示出してたわ。

庭師とか人間国宝のガラス職人とかもいたのよ! 

雑誌で見たから間違いないわ」

 

ガラス細工で出来たユッキーが

いずれ登場すると言う事であろうか? しかもオーナーは

人間国宝を招き、その技術で作ったガラス製のユッキーを

ホテルのどこかに隠しているかもしれないと言うのだ。

それを無下に破壊は出来ない。彼は金を持っている。

それをどう使おうが文句は言えない。だが

それによって最悪死人が出て

その関係者が悲しみに暮れてしまう未来を

ありありと予想出来る今、どんなユッキーであれ

暗黒空間に閉じ込めなくてはならないのだ。

アリサは戦慄する。

 

「君主って・・あの巻き○その事か・・変なお姉さんね。

まあ、何となくプラネタリウムのユッキーやさっきの木で

写真だけではないというのは分かってはいたけど

ガラス細工なんて出てきたら太刀打ち出来ないよ」

 

「お嬢ちゃん、何を怯えているのか知らないけど

私が頭が痛くなった場所まで案内してあげようか?」

 

「はいっ!」

 

お姉さんに案内され、辿り着いた所は

一見ただの平地である。

そこに、幾つもの芽吹いたばかりの

何かの植物の双葉が生えている。

 

「ここよ」

 

「これの何処がユッキーなの?」

と言いつつも感じてしまっている。

レーダーは正にここで最大の反応を示しているのだ。

 

「ユッキーかどうかは私にも分からないわ。

一見ただの草原よ。

でも、ここに長くいると頭が痛くなるのよ」

 

「お姉さん。

もし良かったらアリサをおんぶしてくれない?」

レーダーはこの位置で、少し上だとの事だ。

なので高い所から見てみる事に。

 

「何か分かったの? まあいいわ

アリサちゃんって言うのね? よいしょっと」

 

「わー高い! 私高所恐怖症なのよね。

でも頑張って見ないと」

 

もう一度、今度は違う角度で草原を見てみる。

すると・・双葉が何かの形を作っている事に気付く。

そう、隠れユッキーだ。何もない平原に双葉の種を

ユッキーの形になる様に植え、双葉が芽生えた時

緑色の悪魔が誕生した。一流の庭師の成せる業である。

斉藤隆之が雇ったのであろう

その悪魔を形作る為だけに呼ばれた死の庭師を・・

 

本来、目に優しいと言われる緑色。

この緑は別物である。目に悪いだけでなく

このユッキーの効能・・ではないな、症状は

偏頭痛、眩暈、睡眠障害、肌荒れ、破壊衝動など

色々な症状を引き起こすブラッディグリーン。 

お姉さんは、その初期症状になっている様だ。

ステージが進めば、この優しいお姉さんも狂戦士として

周りの人を攻撃してしまう。何とかしなくては

 

「うっ・・何よプラネタリウムの時と同じじゃない!

でも、地面にあるだけさっきより楽ね」

パシャリ 撮影を済ます。

 

「この子達に罪はないわ。森林伐採は趣味じゃないし

そうなると・・うーんどうしようかしら?」

 

「そうよね、でもこの顔の形になっただけで

気分が悪くなるなんて怖いわねー」

 

「そうなんだよ。プラネタリウムにも

別のユッキーがあったんだけど

係の人に消す前に追い出されちゃって」

 

「そうなんだ・・でも、ここのは絶対に消しましょう」

アリサの言う事をすんなり信じてくれる。

従業員の筈なのだがオーナーを良く思っていない様だ。

 

「うん」

アリサは暫く考える。

 

「閃いたわ お姉さん! この芽を根っこから抜いて

別の形に植え直しましょう。

そうすれば頭痛はなくなるよ?」

と言うとアリサは、携帯のお絵かきアプリで

簡易図面を作成し、お姉さんに見せる。

 

「アリサちゃん本当? 分かったわ手伝う」

 

彼女は相当頭痛に悩んでいる様だ。

救ってやらなくては!

 

「ポポンのポンのスッポンポンってかぁ」

 

優しく芽を抜き、図面通りに植え直す。

すると・・! ユッキーの形から

アリサの笑顔の形に変わってしまった!

これなら道行く人に笑顔を与えてくれるであろう。

 

「うん。反応が全て消えた。よし帰ろう」

 

「ご苦労様。

あ、これね、ここの植物園の植物達で作られた青汁よ

すごく臭くて苦くて不味いけど、あまり健康効果はないの

でも役に立つと思うから持って行って!」

半ば強引に渡された青汁。少し喉が渇いていたので

 

「いただきます」

ごくごく

 

「うーまずい! もういっぱ・・いや、やっぱり要らない」

飲んでみると臭いし不味い。だが

なんと! アリサの体に異変が!

体の中の毒がきれいサッパリなくなった!!

 

「ふー。ありがとうお姉さん。十分役に立ったよ!」

 

「そう良かった。私もこれで安心して眠れるわ。

ありがとね!」

 

「この地域の平和も私の手で守られた。

よし、そろそろ一旦部屋に帰ろう!」

 

ここまでお読みいただきありがとうございます

次週の木曜に次を投稿しますがこちらに行けばすぐに続きが読めます

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