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ヨシヒロの読書ブログ

ヨシヒロの気が向いたときに読書記録をつけていくブログ(小説・文学・哲学・心理学・経営・経済・ビジネス)

ストラクチャーから書く小説再入門 第21章

シークエルの「決断」の選択肢

 

人物の「決断」は、「シーン」のブロックの中で最も本能的に行われるものかもしれません。「ジレンマ」を経て「決断」すると、次のシーンのゴールが生まれます。ひょっとしたらジレンマに悩み続けて一生を終える人もいるかもしれませんが、それではストーリは動きません。よいストーリーはどんどん前に進みます。どんな結果を招こうと、人物に決断させるしかありません。

 

「決断」にも、ジレンマとの因果関係を持たせましょう。突拍子もない決断をさせてプロットを進めても、読者は納得しないでしょう。ジレンマがお、「夕食は何を作るべきか?」なら、具体的なメニューを決断させるべきです。「じゃあ、病院に行って献血しよう」ではつながりません。

長期のゴールと短期の決断

大きなジレンマは、一つの決断で解決しきれません。むしろ簡単にカタがつくものばかりだと、重みが出ません。「一難去ってまた一難」を軽いレベルで続ければ、ストーリーがこま切れになっているような印象が生まれます。読者はリアリティを感じにくくなってしまうでしょう。

 

そうした問題に対処するには「長期のゴールと短期の決断」を考えます。長期にわたって抱えていくジレンマやゴールと、その中で起こり得る多少の小さなジレンマを揃えてみて下さい。「どうすれば隣の女の子と結婚できるだろうか?」は長期的に抱える悩み。短期間で乗り越えられる小さなジレンマと小さな決断を作ってつなげると、話がばらばらになるのを妨げます。

ストレートな決断か、遠回りの決断か

人物がどう決断するかによって、プロットの行方が決まります。ありきたりの決断ばかりではつまらなくなりそうですね。奇をてらわず、面白くて意外なものを考えたいです。

 

「隣の女の子と結婚したい」なら、一般的な決断は「よし、デートに誘うぞ」でしょう。これでも面白い展開ができるでしょうから、悪くはありません。でも、さらに意外性を出したければ、何か違った決断をさせてもいいかもしれません。

 

「夜更けに窓辺で歌を歌おう」でもいいし、「彼女のことをきっぱり忘れてでも。しまおう」でもいいでしょう。あるいは、「彼女に近づくために、生活パターンを細かく観察するぞ」でも。

シークエルの「決断」の選択肢

「決断」ほど単純明快なものはありません。基本的な選択肢は次の二つだけです。

 

1 行動する。

2 行動しない。  

シークエルの「決断」を考える時に 

シークエルが書けたら、念のため、次の質問を考えて下さい。

 

1 その決断は、ジレンマから自然に生まれているか?

2 その決断は強いゴールを生み出すか?

3 長期にわたるジレンマに対して、小さな決断が解決の一歩になっているか?

4 「決断」で物事が安易に解決してしまっていないか? 誤った決断をしたり、ジレンマが解決したせいで新たな問題が生まれたりして、新たな展開ができているか?

5 「行動しない」決断をさせるなら、それがプロット上論理的であり、重要なステップになっているか?

6 その「決断」は、はっきり書き表すほど重要か?

7 「決断」で書いている内容がジレンマ、もしくは新たなゴールと重複していないか?

ストラクチャーから書く小説再入門 第20章

シークエルの「ジレンマ」の選択肢

「リアクション」で感情に訴えたら、次は知性に訴えます。「災難」に遭って反射的に「リアクション」した人物は、気持ちが落ち着いたら次の行動を考えねばなりません。苦しい「ジレンマ」に悩み、「これから、どうしよう?」と考え始めます。

 

シーン/シークエルの中で、「ジレンマ」は最もリアリティが問われる部分かもしれません。色々な解決策を考える局面ですから、論理的な思考が大事です。プロットも破綻しないよう、注意が必要です。ただの思いつきではなく、読者も納得できる筋道を通さねばなりません。

 

「ジレンマ」では人物と一緒に、読者にも悩んでもらいましょう。優れた「ジレンマ」はテンションを高めます。読者の心は、人物に引き寄せられ、ページをめくる指にも熱がこもるでしょう。

ジレンマの三段階

振り返り:

主人公は「災難」を振り返り、何がそれを起こさせたか考えます。この思考を、前の「リアクション」ブロックに書き込むこともあるでしょう。分量はページ数やペースの配分次第です。「災難」が起きてから「リアクション」 → 「ジレンマ」と速いペースで続けるなら、くどくならないように加減して下さい。逆に、「ジレンマ」の前に他の場面を一章以上挿入する場合は、「災難」の内容を簡潔に振り返るとよいでしょう。

 

分析:

「振り返り」が一段落したら、頭を働かせて状況を「分析」します。人物は「どうすればこの状況にから抜け出せるか?」と考えます。

ここで命題をはっきりさせましょう。何が問題で、何を考えるべきなのか。読者も自分の言葉で言い表せるようになるぐらい、明確に打ち出せるようにして下さい

 

計画:

問題を分析したら、「計画」に移ります。「計画」を終えたら、人物は「決断」します。

ジレンマを考える時に

ジレンマを書く際は、必ず次の質問について考えましょう。

 

1 前シーンの「災難」に合う内容になっているか?

2 「どうしよう」などと曖昧に書くだけでなく、具体的な言葉で表現しているか?

3 例、または文脈からジレンマを読み取って理解できるか?

4 プロット上での重要度に合った分量が割かれているか?

5 「振り返り」の記述に、くどさはないか?

ストラクチャーから書く小説再入門 第19章

シークエルの「リアクション」の選択肢

シークエルの中心は「災難」に対する語り手のリアクションです。深い心理描写をするなら、ここがチャンス。人間的な側面を表現しましょう。

 

シーン部分で描くのは対外的なアクション。シークエル部分で描くのは、人物の内面の動きです。語り手の心理だけを書く時と、他の人物の心理も一緒に書く時があります。後者では行動やしぐさの描写、会話を使います。

読者を退屈させることを恐れずに

アクションとリアクション、どちらか一方に比重を置く場合もあるでしょう。理想的なバランスはジャンルや作品によって様々です。いずれにしても、読者を夢中にさせたいなら、アクションとリアクションの両方が必要です。

 

「人物の気持ちを詳しく書いたら読者は退屈するんじゃないかな?」という不安は捨てましょう。リアクション描写がない本を書いて読者を退屈させる方が問題です。

 

人物の内面を掘り下げ、どう感情が動くか探りましょう。彼らの本当の望みは何なのか、行動によって内面がどう変化していくかを考えて下さいね。

シークエルの「リアクション」の選択肢

シークエルの「リアクション」では感情、「ジレンマ」では、知性、「決断」では身体的なアクションが焦点です。「リアクション」では、出来事に対して反射的に感情が起きるでしょう。

 

人間の感情は多種多様。少し、例を挙げてみましょう。

 

  1. 高揚感
  2. 激情
  3. 怒り
  4. 困惑
  5. 落胆
  6. パニック
  7. 後悔
  8. ショック

 

「災難」の内容と人物の性格に合ったリアクションをさせましょう。

シークエルの「リアクション」を考える時に

シークエル部分のリアクションが書けているかどうか、次の質問に答えて再確認して下さい。

 

  1. 直前の「災難」に対して反応しているか?
  2. 直前の「災難」の文脈と合っているか?
  3. 人物の性格に合っているか?
  4. 描写の分量に過不足はないか?
  5. 語りや地の文、アクション、会話などを使って強く表現できているか?
  6. 状況説明をしようとして、すでに読者が知っている情報を繰り返していないか?

 

リアクションを書けば大きな成果が期待できます。出来事が人物に与える影響を、内部の深いところまで探って下さいね。同時に、人物の性格が表れる反応を選んで下さい。

 

 

 

 

ストラクチャーから書く小説再入門 第18章

シークエル

「シーン」前半で出来事や人物の行動を描いたら、後半はシークエルと呼ばれる部分で人物のリアクションを描きます。出来事や行動を書くだけでは、物語はうまく伝わりません。人物が出来事をどう思い、何を考えるかを描くことも必要です。シークエル部分では、人物が過去を省みたり、落ち着いて会話する様子を通して内面の変化を表現します。

シークエルを作る三つのブロック

シークエルも三つのブロックで成り立ちます。三つをうまく使えば、抑揚のあるドラマが描けます。

第一ブロック:リアクション

このブロックで中心となるのが「リアクション」の描写です。語り手が前の出来事を振り返って考える内容を描きます。ここで読者も、語り手が何をどう感じているかを読み取ります。このブロックがなければ感情は読者に伝わりません。物語でどんなバトルを描こうと、人間的な反応が書かれていなければ心に響かないからです。

 

再び、収容所の例を出しましょう。捕虜が衛兵を買収しようとして、独房に放り込まれることになりました。これはわりと大きな「災難」です。ここまで書いたら、彼のリアクションが目に浮かぶでしょう。叫びながら引きずられていくか、何食わぬ顔をしながら心の中で悔しがるか、衛兵にくってかかるか。彼の反応を描けばストーリーががさらに発展し、心理描写もできます。

 

経験の浅い書き手の中には、リアクション描写が抜けていることに本人が気づいていないケースがよく見られます。なぜそういうことが起きるかと言うと、人物にどっぷり感情移入して書いているからです。人物の気持ちになりきって書いているうちに、読者も同じ気持ちだろうと思い込んでしまうのです。人物の心理は文脈からも想像できますが、きちんと書いておきましょう。

 

リアクションの描写は、出来事や行動描写の間に書いてもかまいません。簡潔にまとめて書いてもいいし、心の声や会話でじっくり綴ってもいいでしょう。どこにどれだけ書き込むかは作品次第です。シーン部分で描くアクションの分量と、うまくバランスをとって下さいね。

第二ブロック:ジレンマ

「災難」に遭遇した人物は反応した後、ジレンマに襲われます。わかりやすく言えば、「じゃあ、どうしよう?」。実際はもう少し具体的です。

 

「どうすれば、この災難をなかったことにできるだろうか?」

「どうすれば、親友に事実を知られないで済むだろうか?」

「どうすれば、補導員に見つからずに逃げられるだろうか?」

「息子が家を出ていく前に、どう謝ろうか?」

 

捕虜収容所の例なら、「この独房で正気を保ち、一刻も早く出るためにはどうしようか?」と、「衛兵の買収は、もう無理だ。じゃあ、独房を出た後、どうやって収容所から逃げようか?」。

 

シーンの結果が「災難」になって新たな問題が生まれ、シークエル部分で状況を分析し、手段を見つけようとする。そして次のシーンで実行する、という流れになります。

 

ジレンマは文脈から読みとれることも多いでしょう。捕虜が独房でくさっていれば、彼が困っていることは明らかです。それでも、文章に書き表していけないことはありません。特に初期の原稿できちんと書くようにすれば、書き手自身が人物の心理を把握するのに役立ちます。「わかりきったことを書いているなあ」と思ったら、後で削除すればいいのですから。シーン同様、焦点をタイトに絞って仕上げましょう。

第三ブロック:決断

人物はジレンマを経て決断します。次のシーンに移るためには新たなゴール設定が必要。うまくいくかは別として、新たな計画を立てなくてはなりません。

 

ここは人物にとっての作戦タイム。大敗を喫し、戦略を練り直しにかかります。地図を広げて反省点を話し合い、新たな手を考える。流れが一旦落ち着くわけですが、「次はどうする?」と緊迫感が高まりますから、楽しいアクション描写に引けを取らないほどエキサイティングになるでしょう。

 

収容所の捕虜は独房で必死に考え始めます。憎たらしい衛兵を買収するか、脱走そのものをあきらめてしまうか。何かを決断するまで、シークエルは終わりません。次の動きが決まれば新たなゴールができ、次のシーンへと移れます。

 

このように、シーンとシークエルはひと続き、切っても切れない道理ですから、片方を失えばプロット進行に打撃を与えるほどです。「災難」の後で、「ジレンマ」に苦しみ、抜け出すために、「決断」する。その「決断」が次のシーンの「ゴール」を表す、という筋道を覚えておきましょう。

葛藤かテンションか?

どちらかと言うと、シークエル部分には葛藤よりもテンションが表れます。この区別は重要です。葛藤を前面に出して書き続けると、物語のペースがどんどん上がって読者を疲れさせる可能性があります。人物の心情を書く余地もなくなります。怒涛のスピードで展開したい作品でも、少しは人物のリアクションを書き入れて息抜きをしましょう。

 

葛藤とテンションは似たような意味でよく使われます。二つが同じだからではありません。ストーリーの中で、似通った働きをするからです。

 

「葛藤」とはぶつかり合いや困難との遭遇を指します。口論する二人。戦争をする二つの軍。あてにしていた宝くじの当たり券を失くしてお金に困る、というのも葛藤です。

 

「テンション」は将来起こりえる葛藤に脅かされている状態を指します。シークエル部分で描くのはこちらです。例えば、地下に隠れて次の砲撃を待つ兵士の場面にはテンションがあります。これから大変なぶつかり合いが起きそうだ、と人物も読者も感じるからです。

 

葛藤とテンションはピストンのようなもの。押したり引いたり、互いに連携してメリハリを作ります。どのページも葛藤で埋め尽くせば、かえって単調になってしまって「あれ?」と思うことでしょう。

 

テンションの仕組みを理解して使えば、穏やかな場面を書く時も読者の興味を持続できるでしょう。緊迫感が高い場面は「何かまずいことが起きそうだ」と感じさせるため、読者はぐっと膝を乗り出すのです。

ストラクチャーから書く小説再入門 第17章

シーンの「災難」の選択肢

「災難」はシーンのオチであり、読者が心待ちにするところです。シーンは「ゴール」と「葛藤」で出した問いに「災難」で答える三段構え。問いが「僕は隣の女の子とデートできるだろうか?」なら、答えはイエスかノーのどちらかです。

 

少し前に「災難」という言葉が好きになれない人もいる、と述べました。なぜなら、「災難」と聞けば、どのシーンも必ずハラハラ、ドキドキで終わらせろ、と強制されているような気がするからです。

 

でも、ご心配なく。ストーリーに合わせて「災難」は色々なサイズや形に変えられます。「災難」の役目は惨事を起こすことではなく、プロットを前進させることです。失敗も問題も起きなければ何もかも主人公の思うままですから、葛藤せずに物語が終わってしまいます。

 

ですから、あえて「災難」と強調しておきましょう。人物がゴールを目指して障害に出会い、結果に失望するような流れを考えたいのです。手も足も出ない状況に封じ込めろという意味ではありません。

 

「がっかりすることもあったけど、うまくいった部分もあるから、次の目標に向けてがんばろう」と思える状況でもいいのです。要は、うまくいっている時でも軽いプレッシャーを与えること。シーンで「災難」を乗り越えていくたびに、本人は意識していないけれど本当に必要としているものに近づいていきます。

「災難」を災難らしくするために

「災難」はシーンの発火点。パチンと火花を飛ばせるか、不発になるかの瀬戸際です。人物に厳しい結果を与えましょう。「災難」が甘ったるいと読者は満足できません。「災難」にパワーがないと、それに対する反応を描くシークエル部分にも力が出ません。必然的に、次のシーンへの架け橋も弱体化してしまうのです。

 

では、どれだけパワフルな「災難」を書けばいいかと言うと、人物やプロットの要求次第。「ケーキを焼くが、焦がしてしまう」だと、スパイ小説には不釣り合い。ライトノベルならいいかもしれません。チアリーダーと仲良くしたい女子高生が「手作りのおっきなデコレーション・ケーキを持ってくるね」と約束する話なら、なかなかのリアクションが期待できます。

 

災難らしくする共に、ストーリーの世界観から逸脱しないことも大事です。お菓子作りが趣味の女子高生のキッチンに核爆弾が落ちると、災難としてレベルが大き過ぎますし、話の流れにも合わないでしょう。登場人物がみんな吹っ飛ばされてしまっては、話も当然、続きません。

「うまくいったと思いきや」の災難

プロットの進行上、あえて「災難」を災難らしく見せない時もあります。「ゴールの部分的な妨害」もしくは「うわべだけの勝利」を描く場合です。

 

「『うまくいったと思いきや』の災難」とは、シーンの中で人物が「うまくいきそうだ」と感じたり、確実に成功を収めたかのように見えたものの、後になって不都合な事実が発覚するパターンです。

 

「ゴールの部分的な妨害」とは、相手からの条件つきの「イエス」がもらえた場合や、人物が期待通りの結果を得られない場合などです。

 

「うわべだけの勝利」とは、人物がいったん成功を収めるものの、後になって、むしろ成功しないほうがよかったと気づくパターンです。

シーンの「災難」の選択肢

「災難」とは「まずい結果、よくない出来事」ですから、シーンを構成するブロックの中で最も見つけやすいです。おおまかに、次の種類に分けられます。

 

1 ゴールへの道が直接的に妨害される(例:情報がほしいのに、相手が教えてくれない)

2 ゴールへの道が間接的に妨害される(例:出世コースを外される)

3 ゴールへの道が部分的に妨害される(例:必要なものが部分的にしか手に入らない)

4 成功したかに見えるが、実は失敗だったことがわかる(例:ほしいものを手に入れるが、むしろそれが害になることが発覚する)

 

ちょっぴりサディスティックな想像をしてみましょう。「災難」の例をいくつか挙げてみます。

 

1 死。

2 身体が傷つく。

3 心が傷つく。

4 よくない知らせを受け取る。

5 人物自らミスを犯す。

6 人物自身に危険が及ぶ。

7 誰か他の人物に危険が及ぶ。

シーンの「災難」を考える時に

シーンの「災難」を考えたら、次の質問に答えて下さい。

 

1 シーンのゴール設定時に作った問いへの答えになっているか?

2 シーンにうまく溶け込んでいるか?

3 「災難」の程度は軽すぎないか?

4 「災難」がおおげさになっていないか?

5 シーンの終りで人物が半ばうまくいきかけているなら、後に「うまくいったと思いきや」と言わせる展開が用意されているか?

6 その「災難」を経て人物が新たなゴールに向かっているか?

ストラクチャーから書く小説再入門 第16章

シーンの「葛藤」の選択肢

人物のゴールが決まったら、お楽しみの始まりです。必ず障害をぶつけて葛藤を起こしましょう。そうしなければ一瞬でゴール達成。全てにうまくオチがつき、ハッピーエンドで終了です。登場人物にとっては都合がいいかもしれないけれど、読者は呆れてしまうでしょう。

 

それとは逆を行きましょう。さあ、舞台をご覧下さい。

 

一人の男が、楽しげにスキップしながら目的地に向かいます。もうすぐクリスマス。彼は孤児たちに寄付金を届けようとしています。すると、じゃじゃん!悪者たちが躍り出て、「そのカネを全部よこせ」と通せんぼ。

 

途端に面白くなりますね。かわいそうな孤児たちにお金を届けられるのか、ぐっと興味がわくでしょう。

 

葛藤が起きると物語は進展します。妨害されたら、新たなゴールに進路変更せねばなりません。すると再び葛藤にぶち当たり、またゴール変更。この連鎖を続けていって、人物がついに思いを遂げた時にストーリーは終わります。

 

小説を書いていると「葛藤が足りない」と思う時があるかもしれません。人物がみんなと仲良く、何もせず、淡々としているだけ。あるいは、事件がすんなり解決するのでつまらない。盛り上がらない。

 

そんな時は、葛藤を大小さまざまなレベルに分けて考えてみてほしいのです。あなたの小説のなかで、一番大きな規模の葛藤は何でしょう?エイリアンが地球を恐怖に陥れるような宇宙規模のものや、戦争のように人間の世界で起きる大きなもの。それが作品で最も大きな枠になります。しかし、それは一番大きな枠でしかありません。「戦争の葛藤を描く」と言うだけなら、戦争という出来事が焦点になりますから、アイデアをそこから先へ深めていけません。出来事を書く本でいいならかまいませんが、ストーリーテラーとして小説を書くなら、小さなレベルの葛藤も必要です。人間同士の小さな対立描写に、物語の真の力が宿ることが多いからです。

 

「人間同士の対立」と聞けば、大抵の人は主人公と敵を思い浮かべます。そこで発想を止めていませんか?他の人物たちとも小さく対立させてはどうですか?主人公と家族。主人公と仲間。敵対者と仲間。どのシーンにも、ちょっとした意見の相違から激しい衝突まで、さまざまなレベルの葛藤をちりばめて頂きたいと思います。

 

人物がかわいそう、と思わずに。葛藤して悩まない人物など、登場させる意味がありません。あらゆる場面に「思い通りにいかない状況」を盛り込んで下さいね。

葛藤はプロットに合っているか?

読者に対して、筋を通さねばなりません。前にあった出来事や、人間としてのリアリティのある思考と辻褄が合った行動を人物にさせるべきです。ボクサーが理由もなく警官を殴ったり、競技場の係員を蹴ったりするとおかしいです。若いごろつきたちが、捕虜になった兵士に腐った卵を投げつけるとしても、なぜ、今、投げるのか。しかも、その兵士が誰だか知らないのに。そういったことに筋を通さないと、読者は納得しません。

 

「孤児たちへの寄付金が悪者に奪われる」は「寄付金を届ける」というゴールを妨害していますから、よい葛藤と言えます。しかし、その後、悪者が二度と登場しなければ、そこだけが浮いてしまいます。悪者を都合よく登場させているように見えるでしょう。

 

シーンの葛藤には、前の出来事との因果関係が必要です。また、主人公のゴールをストレートに妨害するものを選ぶこと。

 

プロットの中で意味が通り、流れに合う葛藤をさせましょう。プロットを考える時は、常に登場人物に目を向けること。性格だけでなく、なぜそんなことをするのか、目的は何か、出来事にどう反応するかも想像しましょう。ストーリーの推進力は、主人公のゴールに真っ向から何かが衝突する時に生まれます。

 

葛藤というコンセプトは単純に見えます。「要は二人がケンカすればいいんでしょ。それのどこが複雑なのかしら」と思いますよね。しかし、書き手はもっと深いところで対立を把握せねばなりません。対立を生む真の原因は何か?二者がぶつかり合うことで、どんな変化が引き起こされるか?これらの問いへの答えがわかれば、説得力のあるプロットが自然にできてくるはずです。

登場人物の中から葛藤を生み出そう

葛藤は人物の性格や内面のゴール、対外的なゴールとも合わせることが必要です。

 

人物に自己主張させることも大事です。たとえ仲良しの相手とも、ゴールをめぐる主張をし、衝突させましょう。実社会では「温和な人=いい人」とみなされますが、フィクションを書く時は頭を切り替えて下さい。温和なキャラクターは小説から生き血を奪う吸血鬼のような存在。物語から力が奪われ、生命力がなくなってしまいます。好感が持てる登場人物は魅力的ですが、いい人過ぎると困ります。どんな問題があるでしょうか?

 

もう、おわかりでしょう。ご機嫌な朝を迎えて和気あいあいとする人たちを描いても、シーンに必要な葛藤はちっとも生まれません。

 

人物に多くの欠点を与えましょう。そして、たくさん衝突させること。ぶつかり合う動機を与え、敵対人物も作り、葛藤不足にならないように注意して下さい。

会話の途中で葛藤させるには

・ポイントをずらさない。

プロットに影響を及ぼす内容にすること。行き当たりばったりの口ゲンカでは何の役にも立たない。プロットの進展もなく、人物の面白い側面も見えない会話は読者にとって意味がない。

 

・会話も序盤、中盤、終盤の軌跡を持たせる。

物語全体の構成と同様、徐々にヒートアップさせ、頂点から解決に向かわせる。最終結論を出すのを作品の後半に持ち越したい時も、一つひとつの議論には当座の着地点が必要。

 

・人物の変化の軌跡を維持する。

議論をする理由と目的は何か?わけもなく口論する人はめったにいない。理由、目的、意図があるはず。人物たちは何を求めているのか?相手から何を得ようとしているか?

 

・テンションに強弱をつける。

必ずしもケンカごしにさせる必要はない。むしろ、声を荒げてばかりではよくない。静かな雑談をしながら、水面下で葛藤させることも可能。会話のテンションを様々にして面白さを保つ。

 

・言葉の真の意味を利用する。

会話を通して、隠れた事実を表に出す。「猫をどうして外に出してやらなかったの」と相手を責めるセリフの裏に、「私たちの関係がうまくいかなくなったのはあなたのせいよ」といった意味を含ませることも可能。

 

・アクションで効果的に表現する。

一ページ丸々続く会話を、一つのアクションに置き換えることも可能。夫婦ゲンカの会話を書く代わりに「妻が夫を、買ったばかりのロブスターでひっぱたく」といった行動で表現もできる。

会話の中で葛藤させる時の注意点

・議論をむやみに長引かせない。

天気の話から徐々に口論に発展し、両者が激怒するまで引っぱると回りくどい。

 

・言葉を言いっぱなしにさせない。

語り手のリアクションを描写すること。

 

・あっさり解決すると不自然。

「ろくでなし!」から突然「愛してる」にかわることは稀。二者が対立するやりとりには自然な上がり下がりがある。あっさり収束させて読者をがっかりさせないこと。

 

・性格に合わない争い方をさせない。

嘘や不正を憎む人物は正々堂々と戦う。いじめっ子なら、巧妙に隠れて攻撃するかもしれない。性格と価値観に合った葛藤をさせること。そうでない場合は、それなりの理由が必要。

シーンの葛藤の選択肢

シーン内の葛藤にも無限の可能性があり、種類は様々。おおまかには次のように分類できます。

 

1 真っ向からの対立(他の人物や天候などが主人公の邪魔をする)

2 内面で起きる摩擦(ゴールに対する考え方を変えるようなことに気づく)

3 不利な状況(ケーキを焼きたいのに小麦粉がない、ダンスのパートナーがいない、など)

4 能動的に表現される対立(議論、殴り合いなど)

5 受動的に表現される対立(無視される、暗い場所に閉じ込められる、相手から避けられる、など)

 

葛藤には次のようなものがあります(これらは一例です)

 

1 ケンカ、殴り合い。

2 言い争い、口ゲンカ。

3 物理的な障害

4 精神的な障害

5 物質の欠如

6 知的財産の欠如

7 行為をしないことによる攻撃

8 間接的な妨害

シーンの葛藤を考える時に

どんな葛藤をさせるかが決まったら、次の質問に答えて下さい。

 

1 人物は妨害されていることを意識しているか?

2 その葛藤は、人物のゴールとぶつかるようにできているか?

3 敵対者が対抗する理由はストーリーと辻褄が合うか?

4 その葛藤は、論理的な結果につながっているか?

5 その葛藤は、主人公のゴール達成を直接的に妨害したり、脅かしたりしているか?

 

 

 

ストラクチャーから書く小説再入門 第15章

シーンの「ゴール」の選択肢

ストーリーもシーンも、まずはゴール設定で始まります。人物には何かほしいものがあるはずです。それは手に入れにくいものだったり、到達が困難なゴールだったりします。人物のゴールに従って、プロットを大小の括りに分割することができます。人物の人間性や作品のテーマも、ゴールに表れます。

 

やはり、これもドミノに例えることができます。一つのゴールに向かって進むたび、物語は一歩前進。一つが次につながり、またその次につながります。一つが列から外れていたら連鎖反応はストップ。ストーリーは行き詰まり、致命的な打撃を受けます。

プロットのゴールvsシーンのゴール

プロット全体のゴールとは、人物がプロットの最初から最後までを通して追い続ける目標です。「大統領になる」や「誘拐された娘を救い出す」、「隣の家の女の子と結婚する」、「父の死を乗り越えて再出発する」などです。こうした長期にわたる目標を視野に入れ、短期で達成できる目標を想像してみて下さい。遠い道のりも、小さな一歩を続けた先にあります。

 

ストーリーの序盤で、人物は願望や目標をはっきり意識できていないかもしれません。だからと言ってぼんやりさせるわけにはいきません。最初のシーンから、小さなゴールでもいいので何か設定することが必要です。

 

隣の女の子が犬を飼っているとします。とりあえず、主人公の男の子は「あの犬がうちの庭の花を噛みちぎるのを、やめさせてほしいな」と意識して、「犬を鎖につないでほしい、と頼まなきゃ」。頼みに行くと、隣の子がかわいくて一目ぼれ。「あの子をデートに誘いたい」、「でも、悪い印象を与えちゃったから、どうにかしなきゃ」。だから「花束を贈ろう」と思い立つ……というふうに続けることが可能です。これが「シーンのゴール」の例です。連鎖的に次々とゴールが生まれ、物語全体のゴールへと進んでいくことがご想像頂けるでしょうか。

 

「シーンのゴール」だからと言って、そのシーンの中で無理やり結果を出す必要はありません。男の子がシーン3で「よし、隣の子をデートに誘うぞ」とゴールを設定するもののうまくいかず、ようやくシーン11で成功、というプロットもあるでしょう。

 

このような場合、さらに小さなゴールを設定し、連鎖させていって大きなゴールに合流させます。「デートに誘う」という大きなゴールのために「偶然を装い、どこかでばったり会う」、それから「電話番号をもらう」。そうした小さいゴールを重ねていって、「花束を贈る」、それから「犬に怒ってごめんねと謝る」というふうに続けます。

共通のゴール

「ヒーローと悪者」と聞けば、正反対のイメージがあるでしょう。しかし、名作を見てみると、実は共通点が多いと言ったら意外でしょうか? 両社が似ているほど、ストーリーが訴える力は強くなります。人物描写がリアルになり、テーマも深まります。

 

主人公と敵対者とを強く対比できるのは、両者が強く共通している時だけである。共通点があるから、同じ問題に対して少し異なるアプローチをする。似ているからこそ、重要な相違点が浮き彫りになる。

 

共通点で最も重要なのは「メインのゴール」でしょう。同じ目的で動くから両者は結びつき、ぶつかり合うのです。何が同じで何が違うか、お互いが相手を映す鏡のような存在になります。

 

また、「性格や価値観」の一致も重要です。

 

二人が性格的に似た者どうしだと、面白い可能性が開けます。悪役にはヒーローの性格の悪い面を表現させることができます。また、「一歩間違えばヒーローもこうなってしまう」というふうに、敵対者を反面教師的に使った表現もできます。

 

二人の価値観も、同じにすることが可能です。双方に強い理由や主張があれば、それをどう行動で表すかで差を見せることができます。兄弟が敵と味方に分かれる戦争物語などは、同じ価値観、異なる行動がベースのものが多いでしょう。

 

原稿を書き始めたものの、人物が何をしたいかわからなくなったり、敵対者が全く無力だと気づいたりしたら、二人の共通点を探すだけで解決します。人物やプロット、テーマやシーンを強化するチャンスが随所に見えてくるでしょう。

シーンのゴールの選択肢

シーンのゴールは色々。「手紙の束を燃やす」、「昼寝をする」、「クローゼットに隠れる」、「ボートを沈める」など。内容により、おおまかに分類できます。

 

登場人物が求めるものは、次のいずれかに当てはまるでしょう。

 

1 具体的なもの(品物、人など)

2 無形のもの(尊敬、情報など)

3 身体的な状態からの脱出(身柄の拘束、苦痛など)

4 精神的な状態からの脱出(心配、疑惑、恐怖など)

5 感情的な状態からの脱出(悲しみ、憂鬱など)

 

こうしたゴールを達成するために、よく取られる手段は次のようなものです。

 

1 情報を求める。

2 情報を隠す。

3 身を隠す。

4 誰かを隠す。

5 誰かと対決する。または、誰かを攻撃する。

6 物を修理したり、破壊したりする。

シーンのゴールを考える時に

シーンのゴールがきまったら、次の質問に答えてみましょう。

 

1 そのゴールはプロットの中で意味をなすか?

2 そのゴールはプロットに溶け込んでいるか?

3 そのゴールの達成は、新たなゴール・葛藤・災難につながるか?

4 そのゴールは内面的なものか? 身体的な行為を伴うか?

5 そのゴールの成否は語り手に直接影響を及ぼすか?