終わりのない話

昨日のわたしと明日のきみが出会う話

空き地

「近所の大きな空き地でさ、工事が始まったんだ」

「お、なにができるんだろうね」

「コンビニだと普通だよね」

「そうね。またかって感じだね」

吉野家だとがっかりかな。狂牛病こえーみたいな」

「頭の中その段階か。時間たまってる感すごいな」

「いやいや。忘れただけだろ。なにも終わってないから」

「まあそうかもだけど」

「ありがちなのはドラッグストアな。マスクどれだけ売れるなさって」

「マスクだけで新規出店するわけじゃないけどね」

「コロナ出店だ」

「違うって」

「美容室もガッカリだなあ」

「それはわかる。よく考えればめちゃ便利なのにね」

「マーベルに出てきそうな美容師さんいるじゃん」

「想像できないや」

「髪が紫なのに瞳が緑みたいな。どんな進化だよって」

「まあそういう業界だから」

「美味しいレストランの太ったシェフ的な?」

「まあそういうことだ」

「フィットネスなら便利だよね」

「確かに。あちこち増えてるからね」

「お風呂もあるしさ、毎日入れるじゃん」

「家のお風呂使わなくなるかもね」

「シャンプーのボトルキープね」

「言い方があれだけどね」

「いきなりステーキだったらほんとびっくりだよね」

「いきなり感は半端ないね」

「釣り掘とかできたら絶句するけどね」

「確かに。おいおい令和だぜってるよね」

「ありがちなのは高齢者施設ね」

「需要がすごいから」

「保育園で面倒見てもらって、最後は老人ホームで面倒見てもらって」

「そういうことは口にしなくていいんだ」

「最悪なのは大使館ね」

「まあね。もはやなんにも用にいもんね」

「むしろ立ち入り禁止ね」

「小市民は入るんじゃねえぞってね」

「PayPay還元で頭がいっぱいな小市民めって」

「そこまでは言ってない」

「用がないといえばドムドムバーガーとかね」

「それは言いたいだけのやつだ。懐かしくなったじゃない」

「お互い小さい頃はドムったよね」

「そういう表現はしなかったな」

「えー。ドム帰りとかはしごドムとか」

「なかった。ごめん。地方の違いかも」

「寺とか神社とかもやばい」

「そう簡単にはできないだろう」

「あの信長ですら手を焼いたからね」

「まあそうだけれども」

「結束力がやばい」

「ほら、そういうのは安土桃山とかの時代だから」

「個人的に嬉しいのは常設のパブリックビューイング

「ほう。そいつはいいな」

「巨大モニターで毎日色々なスポーツを放送するわけ」

「近所だし、ビール片手に観に行きたいね」

「そこはレモンサワーだろ」

「まあそれでもいいけど」

「いや待て。一周まわってハイボール?」

「この際飲み物はなんでもいいや」

「放送はもちろんプロレスね」

「昭和かよ」

「昭和回帰だよ。人と人の絆を深める場所づくり」

「昭和ていうか戦後間も無くな感じだな」

「じゃあサッカーでいいよ」

「盛り上がるね。オリンピックもあるしね」

「ほら、8K放送とかG7であれすれば、迫力あるじゃん」

「なんか主要国首脳会議みたいなの入ってるけど」

「G20?」

「数値の問題じゃないんだよ!」

「じゃあなんの問題なんだよ!」

「5Gって言いたいのが見え見えなんだよ!」

「数値の問題じゃないかよ!」

サッカーが止まらない

「サッカーってさ、なんであんなに転んでばかりなのよ」

「そりゃあほら、ディフェンダーが手を入れてきたり引っ張ったり」

「地面からモグラが顔を出していたり?」

「足をかけられたり肩が入ってきたり」

土偶が出てきたり?」

「出ないよね。遺跡かよって話になるよね」

「でもさ、ほとんどわざと転んでいるわけでしょう」

「そりゃあ耐えてドリブルし続けることもできるけど、そもそも引っ張ったりするのはファウルだからさ」

「転んでも転ばなくてもファウルなんでしょう?」

「まあ、そうだね」

「そしたら転ぶほうが怪我のリスク高くならない?」

「無理してボールキープするのも危険だよ」

「東京都心に雪降った以上に転ぶよね」

「そうかもだけど」

「ペンギンの群れくらい転ぶよね」

「そうかもだけどさ」

「でも、ダルマさんが転んだ! って掛け声はわけわかんないよね」

「そうだよね。なんでそこで動きを止めるのかってね」

「ウイルス漏れちゃいました! ならわかるのにね」

「遊びの範疇超えちゃってるけどね」

「あとサッカーってさ、なんで変な方向にシュートするわけ?」

「わざとじゃないよ」

「ゴールあんなに広いのにさ、枠にすら飛ばないじゃん」

「トップスピードでシュート打つのは相当難しいよ」

「あれラーメン屋だったら激しく湯切りして丼それて床にべちゃんな状況だからね?」

「まあサッカーとラーメンは違うからね」

「ロケットだったら月に打ち上げるはずが日本海に打ち込んじゃう感じだからね」

「それは意図的なやつだ」

「なーんかサッカーってすぐに途切れるし中途半端なんだよなー」

「あれだけ激しいスポーツなんだから無理もないよ」

「でも世界で最も人気のあるスポーツなんでしょう?」

「そうだね。競技人口も視聴人口もダントツでトップだね」

「世界中にサッカーやっている人いるんだからさ、なんで足? ってなるじゃん」

「はい?」

「みんながやっているスポーツなのに、なんで足使っちゃう? って」

「いやーごめんわからないや。その感性」

「ヒトって高等な動物なのにさ、なのにあえて手を使わない感が前に出るじゃん。わざとらしい感じで」

「うがった見方だなあ」

「本当はバナナ剥くのも手を使えば簡単なのにあえて足で的な」

「そういうことじゃないんだが」

「でも足も頭も胸も使っていいわけでしょう?」

「まあね」

「でも手を使うと、ちょっと触れてもギャーギャー。満員電車の痴漢かよって」

「それとは違う」

「逆に考えればよ? 手が人間の器官で一番優れているって認めているようなものじゃん」

「はい?」

「そしたらその手を駆使して行う最も複雑なスポーツこそ世界で一番人気が出るべきじゃん」

「なんの話なのさ」

「例えば寿司」

「握るのな」

「ワサビをあと乗せしたらオフサイド

「無理にサッカーに寄せなくていいけどね」

「もちろん足を使ったらダメ」

「衛生的にもアウトだよね」

「アウトじゃなくてファウルな」

「そこどっちでもいい」

「基本二貫だけど攻撃的にいくなら三貫盛りとかさ」

フォワードの枚数的な話してる?」

「まさかのマグロ部位五種盛りだー」

「えらくディフェンス固めてきたなって」

「十枚食べればフリーキック

「びっくらぽんじゃん」

「期待の選手は南米チリから加入のこの人。サーモン! みたいな」

「ネタじゃん」

カンテラから昇格しましたハマチ。今日から登録名はブリで登場です みたいな」

出世魚の話だよね」

「にしてもキーパーって運動量少なすぎないか?」

「急にサッカーに戻るんだね」

「相手が弱かったらタバコ吸っててもいいわけでしょう?」

「よくはない」

電子タバコなら?」

「同じなんだよ。問題は煙の量じゃないんだよ」

「せめて折り畳み式のアウトドアチェアを持ち込んで座るくらいなら?」

「ダメなんだよ。選手は試合中に座りたくなんかならないんだよ」

「すげーなあ。あんな奇麗な芝生にターフまで張ってあるのに座らないかあ」

「ターフじゃないんだよ。ゴールネットなんだよ。それにな、欧州では一番運動のできる子がキーパーやるんだよ」

「まじかよ。ボタンエビをあえてエビフライに」

「寿司はいいんだよ。人気が高いポジションなんだよ」

「なんかサッカーって奥が深いよね。また聞かせてよ」

「もちろんだよ」

「ファミレスで」

「そこスシローにしとこうよ」

記憶が、ない

「いやー困った! 困り果てた」

「どうしたよ朝から」

「キテルネからのキングアンドプリンスのメダルラッシュ見ててさ」

「なんの話だかさっぱりだぞ」

「昨日までの記憶がほとんどないことに気づいたんだよ」

「それはまずい

「一昨日の晩ご飯すら思い出せない」

「まあそんなものだけどな」

「隣の晩ご飯も思い出せない」

「それはあれだ、昭和の番組だ」

TOKIOの五人目も思い出せない」

「思い出さなくていいやつだ」

「あ、やばい。妻の名すら分からなくなってる!」

「おたく独身だったよね」

「現実きびしー。思い出させるなよ」

「大丈夫だよ。この間の合コンだって手応えあったって言ってたし」

「なんの合コンだっけ。あれか、クオーター合コンか」

「メンバー集まらないだろう」

「無理か。攻撃の要ばっかり何人も集まるかって話か」

「まさかアメフトの話をしてるのか?」

「じゃなく?」

「素で驚いてんじゃねえよって。ハードル高すぎな合コンだろう」

「400障害のほうか」

「そのハードルでもないや。なんか記憶の話以前だわ」

「でも不思議なのはさ、名前も住所も思い出せるんだ」

「まあ根本的な情報は忘れないものだから」

「でも年齢はわからないんだ」

「根本的なのきたな」

「しかも妻どころか彼女も思い出せないなんて」

「記憶と願望が入り乱れてるぞ」

「戦国の乱世のように?」

「どのようにかは知らないよ」

「今大騒ぎの、なんだっけ、パロマウイルス?」

「それわざとだろ」

「それすら記憶が曖昧で、あ、まさか!」

「いや、感染してないから。そういうんじゃないから」

「記憶テストする。ハワイ、ジャマイカ

「なんだよ怖いな」

タンザニア?」

「上目遣いに質問されても」

「世界三大コーヒー産地な」

「雑学かよ」

「不倫火山を掲げたのは誰だったか。鈴木?」

「やめろ。雑学ですらない」

「まあとにかく、合コンから始めようよ」

「自分探しの旅な」

「ハーフ合コンな」

「だから人数が」

「フル?」

「走んのかよ」


新婚とルー料理

「新婚生活はどうよ」

「まあ、ドキドキするよね」

「高血圧?」

「そういうことじゃなくてね」

「求心で済むレベル?」

「いいよもう」

「料理もしてくれるんでしよう?」

「そうなんだよ。奥さん料理得意で」

バカピンクなエプロンとか着けて?」

「悪意ありまくりな言い方だな」

「どんな料理作ってくれるのさ」

「カレーとか」

「貼って寝て気持ちいい、サロンパス的な?」

「なにがだよ」

「切って煮てルー入れて、カレーライスってな」

「リズムしかあってないよ」

「ルー料理は料理と認められないな」

「何様だよ。そしたらシチューもビーフストロガノフもダメかよ」

「なんだよそのダレノガレみたいなやつは。択捉かよ」

「日本だよ。ルーで作るやつだよ。ビーフシチューの仲間だよ」

「じゃあビーフシチューって言えよ」

「奥さんはビーフストロガノフとかハッシュドビーフが好きなんだよ」

「だからそのトリンドルみたいなのチョイチョイ出すなよ」

「ダレノガレもトリンドルも料理じゃねえよ」

「ハヤシライスもだけど、もう違いがわからないじゃん」

「まああれだ。具の大きさとかトマトやサワークリームありなしとか」

「ウィーンで生まれたとかサンパウロで生まれたとか」

「それはダレノガレとかの話だ」

「さらにクレアとかステラおばさんとか出てくるし」

「違う人も入ってきちゃってる」

「シチューはご飯にかけられないからなあ」

「かけるけどね」

「えー。どんな少数民族だよ」

「いやいや、シチューオンライスって商品も出たくらいだぞ」

「オンアイスするのはディズニーだけにしてくれよ」

「なんの話だよ」

「デミグラスなのかドミグラスなのかって話だよ」

「そんな話してないや」

誕生日はいつから自分のためになるのか

今日はわたしの誕生日だ。

まあだからどうということはないが、30歳を過ぎた頃から、誕生日を誰かと一緒に祝って欲しいという感覚がなくなった。

わたしはわたし自身に、1年お疲れ様と、まあがんばったりがんばらなかったりしたよねと、労いたい。

自分のことを一番知っていて、一番近くにいて見ていたのはもちろんわたしだ。

だからわたしが祝福するのだ。

誰も誕生日を祝ってくれないという台詞を聞くことが多いが、誰だって他人の誕生日なんて、さほど意義を見いだせないものだ。


まあそれはそうと、今日は美味しいものを食べようと思う。

家族のために作るのだが、今日は自分の好きなものを作る。それはつまり、楽なもの。なるべく手数のかからない料理だ。

味を表現するときに、例えば中トロを食べて、いやーこれはフォアグラみたいにうまい! と言う人がいる。

じゃあフォアグラ食べろよと思う。

フグを食べて、美味しいなあ。上質な鯛みたいと言う人もいる。

じゃあ鯛食べろよと。

なぜ他の食べ物に例えるんだと。


だからわたしは、今日チーズを食べる。極上の、フルーツみたいなチーズを食べるのだ。