『ハスラーズ』(2020年)
ローリーン・スカファリア監督の『ハスラーズ』見てまいりました。
予告編を見て想像していたような映画ではありませんでした。
『オーシャンズ8』的なチームでごっそり強奪かます痛快劇というわけでもないのです。
どちらかと言えば人情マフィアものの調子、ともすれば青春映画の風合いで語られ、涙を誘う熱い物語が出演者の好演で大変高い完成度に至っています。
私は泣いてしまいました。。
泣ける映画が良い映画とは限りませんが(年齢を重ねるごとに涙もろさはインフレ傾向ですし、、)、良い映画は時に泣ける要素も含みます。
劇場のあちこちからすすり泣きが聞こえてきて、私も手探りでカバンの中からハンドタオルを出しました。
この映画の何が見た者に熱い涙を流させるのかといえば、一にも二にもジェニファー・ロペスです。
驚くべき姐御演技。情に厚く頼りになるおねえさん像として、これ以上のものを見たことがありません。降りかかる数々の難題を前に、はたしてジェニファー・ロペスはこれをどうやって切り抜けるのか、彼女の一挙手一投足に目が離せなくなりました。無敵の人情家ジェニファー・ロペスにかかれば、どんなことでも立ちどころに解決してしまうかのように見えたのです。
しかし、彼女も厳しい局面をなんとか生きている一人の女性であり、男性社会は彼女らの存在を一顧だにせず、追いつめて行きます。どうか間違いが起きませんようにと、祈るような思いで展開を見守る時間帯、私も主人公たちと同じファミリーであるかのような気持ちになっていました。
ジェニファー・ロペス演じるラモーナという人物が途方もなく魅力的に見えるのは、彼女がいつも誰に対しても適切な寄り添い方をするからかもしれません。
彼女が女性と話をする場面で、相手は必ず自信を取り戻しました。かけられた言葉で勇気を持ちはじめ、縮こまっていた身体がほぐれていきます。それは、相手が老人であっても、大卒の記者であっても、あけすけに、ぶっきらぼうに、優しく接し、そして惜しみなく褒めるのです。
以前、勝新太郎のインタビュー映像を見ていて思ったことですが、勝新はいつもインタビュアーに向かって個人的に話すようにして振舞っていました。これは樹木希林もそうしていたと思います。
個人としてそこに存在し、インタビュアーを個人としてその人格を認め、その人に話しかけていたように見えました。質問者に質問もするし感想も尋ねる、お前はどう思うんだということを求め、双方で意思が通うよう努めているように見えました。
それは彼らのサービス精神の顕れでもあったでしょうし、人の魅力は向き合って対話することで発揮されるのだと身をもって教えてくれていたのではないかと思います。
ジェニファー・ロペスのラモーナにも似た匂いがしました。
そこにいる人のことを蔑ろにせず、一対一で向き合って個人的に話をする。その態度が我々を虜にし、また会いたいと思わせるのだろうと思います。(実際、もう1回この映画を見たい、、、)
映画序盤、もう一人の主人公のコンスタンス・ウーと、ジェニファー・ロペスがはじめて会話をするシーンは印象的です。
ウー演じるデスティニーの心情を慮り、ラモーナは自身が着ているふっかふかのコートの中に一緒に入るよう促したのです。デスティニーがコートにくるまれた瞬間から、この映画が終わるまでの間、もしかしたら見終わってからも、私はあのコートの中の温かさが忘れられないでいます。
ちなみに、役名のラモーナの意味をちょっとネットで調べてみましたら、スペイン語で「賢明な保護者」なのだそうで、デスティニーは「運命・宿命」ですから、彼女らの人生を思うとこれだけでグッとくるものがありますね。
本作でジェニファー・ロペスは製作総指揮も務めており、姐御ラモーナの役に自分を当てたということは、自身で自身の魅力を熟知しているんだろうと思います。それがまた嬉しい現実で、そうあって欲しいというこちらの願望にものの見事に応えてくれて、ほんとあざすと脱帽敬礼したい思いです。
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