12月31日へと向かって刻々と、時間が流れてゆく。毎日の行事はいつもよりも力が入る。レコード大賞はこの年、昨年レコード大賞を受賞した沢田研二とピンク・レディーがノミネートされていた。私たち生徒は、もちろん沢田研二に賞を取ってもらいたかった。皆で応援していたのだ。

 

学院の寮生活で一番楽しく、リラックスできるのは大晦日かもしれない。

 

あとは、いつも寮長の機嫌を伺いながらの生活。突然、意味のわからない理不尽な暴力があったり。よく、お風呂とトイレがリラックスできるという人もいるが、お風呂はとくに嫌いなものだった。お風呂といっても時間制限もある。また、お風呂に入るときは寮長にひとりずつ「お風呂を頂きます」と挨拶をすることになっている。

 

お風呂から出たあとも、ひとりずつ「お風呂ありがとうございました」と挨拶するのだが、この数分間で寮長の機嫌が変わってしまい、挨拶して返って来る声が違う。入浴のときは、「は~い」という優しい言葉が返って来るが、入浴後は「はい!!!!!」怒りの声に変わっている。寮長の声の音色だけでも、私たち生徒は気を使うのである。

 

 

トイレも3つしかないので、待つ生徒のために速くしてあげたいのでゆっくりと考え事などはしていられない。

 

 

そう考えると、楽しみは大晦日だけかもしれない。

 

 

一時、テレビ番組で『ザ・ベストテン』を見ることができた。

ところが、私と私の1カ月後に入所してきた一番仲良しだった北海道出身の彼女と、ピンク・レディーの『UFO』を一緒に踊ってしまった。

 

 

それをみた寮長は怒り出し、もう二度と歌番組は見せてもらえなくなった。私たちは、机に座った状態で腕だけを真似ていたのだが。

 

それからは、『明るい農村』というドキュメンタリー番組を見ることになった。このときは、さすがに生徒たち皆に謝ったのだが。

 

 

生徒たちはいう「何で、あのくらいで怒るのかね?」。