そのドアを開けたのはいつだったか。
殺したヤツがKの携帯を使ってあんたに電話してるんじゃないのか?
いくつかのドア。そしてドア。
騒音のようなリズム。這うような高揚。異空間は突然に訪れる。
フロアは真鍮の柱、アールデコ調の装飾、全面の鏡、それらがあやしくライトアップされ、いくつものボックスに仕切られている。ミラーが回っている。
奥行きがわからない。或いは失っている。
それは人なのだろうか。たくさんの。
あちらこちらで溶け合った塊のような、何かが覚醒したもののように動めいている。
麗は嘔吐感とともに訪れた感情を整理出来ない。
ただ存在をぐらつかせまいとして辛うじて剥げかけた化粧を保つように、桜井に微笑んでみせた。
こんなとこ始めてだろ。
桜井様こちらへ。
今日は女性もご一緒ですか。まあよいでしょう。
ユリカと誰かご希望はございますか。
フロアをゆっくりと案内されてゆく。
そのうごめく塊の中を。男、女、そして肌。自身を保てなくなっている。