カプコンを代表する、アクション系統のゲームと言えば、
「ロックマン」シリーズや「ストリートファイター」シリーズ等が有名です。
しかし、私は同社のゲームタイトルにおいて、それらよりも先に遊ぶ機会があり、
「カプコンのアクションゲームと言えば、このゲーム」と、
私の中で、いまだ強烈な存在感を保ち続けている作品があります。
それが、この「バイオニックコマンドー」です。
1992年、世の中ではスーパーファミコンが活躍し、人気を博している中、
白黒ゲームボーイにて発売されました。
私の兄が、当時たくさん買い集めていたゲームボーイソフトの中で、
他の追随を許さぬほどの圧倒的なクオリティ、
そして異質とも言える硬派な世界観を持ち合わせていたのが、この作品だったのです。
ゲームボーイの電源を付けて、すぐに始まるオープニングデモでは、
平和なビル街に突如無数のレーザー光線が降り注ぎ、破壊される様が映し出され、
それは「総統ワイズマン」率いる”ドライゼ軍”が、謎の「アルバトロス計画」と共に開始した全世界への攻撃である事、
連邦軍はその全貌を突き止めるべく、英雄「スーパージョー」をドライゼ公国に送り込むも、彼からの連絡が途絶えてしまった事が語られます。
そこで、特殊部隊である「バイオニックコマンドー」の精鋭「FF(ダブルフォース)部隊」最強の男と謳われる、本作の主人公「ラッドスペンサー」が、
スーパージョー救出の任務を受け、潜入を開始する所から物語がスタートします。
この短い冒頭の中に、”平和の崩壊”、”突如現れた悪の総統”、”英雄の消息不明”、”最後の切り札として登場する主人公”と、
王道かつ燃える要素が的確に詰め込まれており、
なんとも言えぬカッコ良さと、気分の高揚を感じさせます。
今でも、アクションゲーム史上における非常に秀逸な導入部分だと思っています。
ゲームとしての大きな特徴は、Bボタンでの銃撃に加えて、
Aボタンでワイヤーを横、斜め上、上方向に射出し、足場や天井に引っ掛ける事で、振り子のような動きを駆使して進めていく事が挙げられます。
ジャンプが出来ないアクションゲームなんて、やりづらいのでは?
と思うのは、ほんの最初のうちだけで、ワイヤーを使ったアクションの挙動はそれほど複雑なものではなく、むしろシンプルで取っつき易いように仕上げられており、
少し慣れればすぐに心地よい操作感や爽快感を味わいながら、ステージを進んでゆく事が出来るようになります。
また、倒した敵が落とす「弾丸のような物」(薬莢”やっきょう”と呼ぶ物らしいです)を一定数集める事で、ラッドの最大体力が最高八個まで増えていく成長要素があり、
敵を倒す事にも意味を持たせてあります。
ステージの最奥にはボスエリアが待ち受けており、ステージによってはただの雑魚ラッシュですが、多くの場合は手強いボス達と一戦交える事になります。
それらを掻い潜りつつ、巨大な「コア」に一定のダメージを与えて破壊する事で、
ステージクリアとなります。
ステージ中には一~二か所ほど「通信室」があり、そこでは味方との”交信”や、敵への”盗聴”を行う事ができ、ストーリー進行においても必須となっています。
ストーリーが進むにつれて、数種の”トランシーバー”を入手していき、ステージによって使い分ける必要がある等、ゲームの雰囲気作りやフラグ管理にも一役買っています。
また、まれに盗聴が敵に見つかって、通信室にも敵が出現する場合があったりする他、
マップ間の移動はヘリで行い、点在する敵機にぶつかると専用ステージにて交戦する事になったり、
敵が出現しない「中立エリア」でも、間違って発砲すると警備隊が襲ってくるなど、
世界の命運を懸けた命のやり取りを感じさせる作りが、随所に施されています。
難易度に関してですが、序盤こそサクサク進めますが、
中盤付近から徐々に手強くなり、制限時間こそ無いものの、
ワイヤーアクションを使いこなせなければ、永久に進めない場面も多く、
ゲーム全体として見ると、極めて高い難易度を誇ります。
私も小学生の頃は、中盤の(↑の画像の)ステージで挫折し、完全クリアしたのは中学二年生になってからでした。
逆に言えば、難しくてクリア出来ずとも、なお挑戦したい気持ちを心に残し続けるほどの魅力と面白さがあったという事ですね。
作品を通して大きく盛り上がる場面の一つとして、
いよいよゲームも後半戦に差し掛かろうという頃、敵の待ち伏せにかかり、一時的に捕われの身となってしまうシーンが挙げられます。
ここに来て、寡黙だった本作の主人公「ラッド」が、初めて喋ります。
「くそッ!! オレは このまま ここで おわってしまうのか・・・・・・・・?」
文字通り動きを止められ、スーパージョーを救出する任務の遂行も、世界の危機を食い止める道も絶たれたラッドが、作中初めて口にするのが、この悲痛と絶望に満ちたセリフ。
その後、やって来た女性隊員によって牢獄の施錠が壊され、脱出する事が叶いますが、
武器が奪われている為に、しばらくはワイヤーアクションのみで進んで行く事を強いられる点も含めて、非常に印象に残ります。
ここを越えれば、物語はラストに向けて一直線に展開していきます。
物語終盤、スーパージョーの救出を果たし、
「アルバトロス計画」とは巨大な空中要塞を使って世界征服を為す事、
その要塞の名前こそが”アルバトロス”であると突き止めたラッドとジョーは、
最終局面にて上空から潜入し、内部の動力炉を破壊する事を命じられます。
そうして始まる最終ステージ”アルバトロス”では、その後半にて
空中要塞の底面を、直にぶら下がって進んで行く
シーンがあり、ラスボス直前における最後の難関として、プレイヤーの心に強烈な印象を残します。
多分、このゲームをまったくプレイしていなくて、初見の人に「この部分だけやってみて」と言って渡したら、冗談抜きで100回以上死んでも突破できない難易度だと思います。
ですが、ここまでラッドと共に多くの戦場を駆け抜け、ゲームに慣れてきたプレイヤー達ならば、何度かは落下死するものの、
「やってやるぜ!!」という不屈の闘志と高揚感を持って、
心地良い達成感と共に、この難所を乗り越えられるのです。そういう風に出来てます。
空中要塞すらも計画の一部でしか無く、明らかとなった真の「アルバトロス」とは、
そこで秘密裏に作られていた、地上の全てを破壊する”究極の殺人兵器”の事だった。
ここまで幾多の難所を越えてきたプレイヤーとラッドの前に、
最後にして最強最悪の敵として立ち塞がります。
この戦いがラスボス戦の位置付けではあるものの、この後も
脱出ポッドで逃げようとする「総統ワイズマン」を仕留める為、一瞬のタイミングを見計らって”コクピット”を撃つ最終決着のシーン、
更に墜落まで秒読みとなった空中要塞を脱出するラストシーンへと続き、
ゲームの最後の最後まで盛り上げます。
戦いが終わり、再び平和が戻ったビル街が映し出され、
「アルバトロス計画」は失敗に終わった事、ドライゼ公国は崩壊の一途を辿った事が語られ、
また、新たな「英雄」が生まれる結末をもって、物語は終了します。
全体的には非常に難しく、ある程度の腕前を求められる為、人を選ぶゲームである事は事実ですが、
ゲーム進行に応じて上昇していく難易度と共に、プレイヤー自体も上達を感じながら進んで行ける、厳しいながらも絶妙なゲームバランスが、とにかく秀逸です。
また、曲数自体は少ないながらも、GB特有の重低音を効かせた、心奮い立つカッコイイ音楽、
SFチックでありつつも、非常に硬派で筋の通った世界観など、
難関を乗り越えて行くアクション部分の面白さに加えて、一本の作品としての魅力をこれでもかと詰め込んだ、
カプコン制作のレトロゲームにおける魂の一作であると思います。
多少の不満点としては、「武器・防具・アイテム・トランシーバー」に分類される所持品が、ゲーム進行に応じて増えていき、ステージ開始時にカスタムできるのですが、
アイテムに関しては、最序盤に入手出来て、好きなタイミングで体力を全回復できる「バイオプロテイン」が強力で、最後までほぼそれ一択で行けてしまう事、
それによるゴリ押しも可能な事から、後半からラスボス手前まで登場し、ライバルとして戦いを挑んでくる「ライル」が弱いと感じてしまう事などが挙げられますが、
それ以外の部分が極めてハードなゲームの為、全体のバランスを考えたら、これで丁度良いのだと思います。
その後、2011年になって、3DSにてバーチャルコンソールでも配信された事から、
公式や世間の一定層から名作と根強く認識されているタイトルであるのは、疑う余地の無い事だと思います。
非常に表現の幅が限られた”白黒ゲームボーイ”の作品でありながらも、
この「バイオニックコマンドー」、そして「ラッドスペンサー」は、
私の中でのカプコンを代表する作品と主人公として、
今もなお、心と脳裏に深く刻み込まれています。